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海と海賊と六分儀 第二十六話 お風呂とビールと船長の過去

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 烏賊海老蛸助です。


前回は夕花のクッキーが大変なことになったり、菊次郎とじゃれ合っていたら女子たちにからかわれたりと、本当に賑やかな夜でしたね(微苦笑)。

お風呂上がりの理音たちが、なんだかすごくいい匂いがして……なんて、男子高校生としては意識しちゃいますよね(笑)。


さて、女子たちの長かったお風呂タイムも終わり、今度は男たちの番です。

風呂上がりの一杯、ならぬ一本(?)を囲んで、船員さんたちとどんな話をするんでしょうか。


それでは第二十六話、どうぞお楽しみください。

 風呂に入ろうと理音たちとすれ違った後、クルールームでは渡辺さんと中村さんが、缶ビールを机に並べてBSのスポーツ番組を見ていた。


 「すいません、お風呂、先に入っちゃいます……」


 すると渡辺さんが


 「ああ、あたしはもうあの子たちのあとに入ったし、機関室に待避していた中村さんと山下さんも。二人ともカラスの行水なんだから……男ってもう……」


 中村さんは恐縮したような顔でビールをぐいっとひと飲みする。

 俺は菊次郎と船長が俺の後なのを考えると


 (渡辺さんに軽蔑(けいべつ)されてもカラスになるしかないな)


 と思いながら風呂場に入っていった。


 (まずはお湯を浴びて……)


 シャワーは出たが冷たいままだ。


 (調整ハンドルはお湯になってるし、おかしいな)


 そんな風に蛇口と格闘していたら、急に熱いお湯が出てきた。


 (あちっ、お湯になるまで時間がかかるのかな)


 そんな風に思いながらシャンプーを手に取ると、それは田中専用と書かれた物だった。

 ラベルを見ると


 「強力! 育毛!」


 と書いてあった。

 そんなに薄いようには見えなかったけど、気にしてるのかな。

 確かに生え際とか外人ぽいというか、ちょびっと目尻の上あたりが後退してるかも。


 (金髪だからそんなに目立たないと思うけど、本人はきっと気にしてんだな)


 クスッと笑いながらもう一つのリンスインシャンプーを手に取り、素早く頭を洗って、今度はボディタオルにボディーソープを付けて体を(こす)る。


 (理音に変な顔されないようにしっかり洗わないと……ん? なんで理音なんだ?)


 と俺は頭をブルっと振って、


 (渡辺さんに軽蔑されないように)


 と強引に理由を変更して、体の隅々(すみずみ)までしっかり洗った。


 バスタブにはお湯が張ってあったが、大きな山下さんの後だったからなのか、ずいぶんと減っていた。

 どうやらこのバスタブも後から付けたもののようで、バスルームの内装とは違ったオシャレな感じでゆったり入れるゴージャスな感じのものだった。

 しかしカジヤの無計画さからか、高さが合っていないので蛇口からホースが伸びていて垂れたがっているのが、オシャレ感を台無しにしていた。


 船での水も貴重だろうからと、そのままお湯を足さずにバスタブに入ると肩まではなんとかお湯に浸かれた。


 (ふぅ……)


 五分ほど目を閉じて一日の疲れを癒す。


 (理音のヤツ、なんか……いつもと違うよな……)


 俺は顔を湯に沈めて、そんな考えを振り払うようにブクブクっと息を吐き、風呂を出た。


 (あ、ジャージと新しい下着を持ってくるのを忘れた)


 俺は体と髪をさっと拭いて、湿ったままの体でキャビンに向かい、新しい下着を取りに行った。

 するとキャビンでは理音と夕花が部屋着に近い薄着姿でくつろいでいて、俺が近づくのも気にせず扇風機の前で涼んでいた。

 俺はなるべく女子たちを見ないようにしてカバンを開け、替えの下着とパジャマ代わりのジャージを取り出すと、菊次郎に声をかける。


 「おい、キク、風呂空いたぞ」


 そう告げてからもう一度バスルームに戻って行き、下着を替えジャージ姿になった。

 洗濯機はゴンゴンと音を立てて動いており、ドラム式洗濯機の窓からは女物の下着がチラリチラリと見えていた。


 (り、理音のかな?)


 俺はチラ見えした青い布にドキドキしながら、急いでバスルームを後にした。

 するとクルールームで一杯やっている渡辺さんたちが居たので声をかける。


 「何か冷たい物とかあります?」


 すると中村さんが


 「これ、飲むかい?」


 と言って缶を差し出した。

 缶にはこう印刷されていた。


 「ROOTBEER」


 「ルート……ビール!? いえ、それはマズいですよ」


 俺は両手を振って丁重に断ったが、中村さんは笑いながら


 「これはルートビアと言ってね、ビールじゃ無いんだ、アメリカでは子供でも飲んでるものだよ!」


 今度は渡辺さんが


 「この船じゃジュースとか誰も飲まないからねぇ、他には作り置きの麦茶か、ミネラルウォーターのペットボトルならあったかも」


 と言うので、俺はルートビアに興味を惹かれたものの、ギャレーに向かって冷蔵庫を開けてみた。

 確かに、冷蔵庫の中には食材や調味料以外には、麦茶かミネラルウオーターくらいしか飲み物は入っていなかった。


 (カジヤさんは酒を飲みそうな雰囲気だけどなぁ……)


 飲酒は厳しく制限された、真面目? な船なんだなぁとそのときは思った。

 ミネラルウォーターのボトルを開けて一口飲んだ後、渡辺さんたちとテレビの前でもう少しだけ涼んで時間を潰すことにした。


 「なんかあった?」


 俺は持って来たミネラルウォーターのボトルを見せながら


 「はい、ありました」


 と答えると、渡辺さんがルートビアの缶を掲げて俺に向けたので、俺もミネラルウォーターのボトルを差し出し、缶に軽く当てて無言で乾杯をした。


 「この船の人はお酒は飲まないんですか? カジヤさんなんて、大酒飲みって言われても驚きませんが?」


 すると渡辺さんと中村さんは、お互いに顔を見合わせ、持っていた缶をコトン、とテーブルに置くと、渡辺さんが神妙な顔つきで俺に話しかけてきた。


 「いいかい、これは内緒だよ」


 と言って、他には俺と中村さんしかいないクルールームで口に手を当てて、小さな声で話し始めた。


 「船長が調理師の免許を持っているって知ってる?」


 俺は船に乗り込んだ時のことを思い出し


 「いえ、でも自己紹介の時に、コック兼、船長だって言ってましたけど?」


 そうすると今度は中村さんが同じように口に手を当てこう言った。


 「実は船長、若いときに料理人を目指して修行していたんだが、ある事件でそれを諦めたらしいんだ……」


 俺は驚いて口をぽかんと開けたままでいると、今度は渡辺さんが話し始める。


 「飲酒運転でね、一緒に乗っていた、当時付き合っていたお嬢さんを怪我させちまったんだ。しかもそれが修業先の店の主人の娘でね。怪我はたいしたことは無かったんだけど、一応、飲酒運転で人身事故だからね、どのくらいだっけ?」


 すると中村さんが


 「……たしか、懲役(ちょうえき)六ヶ月、執行猶予(しっこうゆうよ)三年とかだったかな。もちろん車の運転免許は取り消しで、刑務所には入らなかったけど半年も拘置所(こうちしょ)に拘留されてキツかったって……居酒屋に行ったとき、ひどく酔いながら言っていたよ……」


 俺はあの脳天気なカジヤにそんな暗い過去があるとは思いもしなかった。

 いや、そんな過去があるからこそ、ああやって明るく振る舞っているのだろうか……


 (そんなふうに大人を値踏みするもんじゃあ無いな)


 俺は頭を振ると、今の話は聞かなかったことにしようと心に決めた。

 しかしふと疑問に思い、ある質問をせざるを得なかった。


 「でも飲酒運転じゃあ、調理師の免許まで取り消されないでしょう?」


 すると渡辺さんが目を伏せながら


 「怪我させたお嬢さんは有名な日本料理のお店の主人の娘さんでね。その娘さんもカジヤ……田中さんの飲酒運転を知りながら助手席に乗ったから『同乗罪』ってことで新聞にも大きく取り上げられたの」


 (そうだったんだ。よくありそうな話だけど……)


 飲酒運転は悪いこと、くらいの認識しかなかった俺は、聞いたことのある『同乗罪』と言う言葉の意味と重さを実感することが出来、少し神妙な顔をして真面目に話を聞こうと気を引き締めた。

 渡辺さんは続ける。


 「で、その娘さんが『田中に無理矢理クルマに乗せられた』って話したそうなの。それも拘留が長引いた理由らしいと、弁護士が言っていたそうだよ」


 (あのカジヤ、田中さんがそんなことをする人のはずがない)


 俺は会って数時間しか経っていないのに、すでにカジヤに同情的な気持ちになっていた。


 「実際には歩くのもやっとだった娘さんを抱えて、優しく車に乗せていたって店の人がやっと証言したみたいで。店の責任も問われるかもしれないからね。言い渋ってたみたい」


 (それもありそうな話だ。店も確認を怠ったという責任を追及されるのは都合が悪いだろう。しかし本当のことを話すだけなのに、いろんな都合でそれをしないなんて!)


 若さ故の正義感からか、俺は無自覚にグッとこぶしを握りしめたが、渡辺さんはそれを見逃さなかった。


 「べつに碧斗くんが怒る必要はないよ! 気に食わない話だけど、よくある大人の都合ってやつさ」


 そうして缶を手に取ろうとして思いとどまり、テーブルに手を置くと続けて言った。


 「そのお嬢さんは裁判の結果、罰金だけで済んだけど、田中さんは裁判が終わって釈放され、三年経って執行猶予期間が明けたあとでも、飲食業界では、仲良くしていた修行仲間や取引先の人も話すら聞いてくれなくって……自暴自棄になっていたって……」


 今度は中村さんが


 「そんなとき、場末(ばすえ)の飲み屋で山下さんと出会って、意気投合(いきとうごう)したらしいんだ」


 (カジヤと山下さんの出会いか、面白そうなエピソードが聞けそうだな)


 俺はちょっとだけ笑みを漏らしてすぐに口元を引き締めて続きを聞いた。


 「何度か飲みに行って、山下さんに海の話を聞かされるうちに海に憧れて、すぐに二級小型船舶免許を取得したって言ってたな」


 今度は中村さんが嬉しそうに笑顔で話し始めた。


 「で、そのあといくつもの貨物船を渡り歩いて経験を積んで、四級海技士(かいぎし)も一発で合格して、たった三年ちょっとでこの船を買って会社を(おこ)し、船長になったんだ。すごい人だよ」


 それを聞いた渡辺さんも、笑顔で重い話を締めくくる。


 「あたしも中村さんも、そんな貨物船で田中さん、未来のカジヤ船長と出会って打ち解けて、仲間になったの!」


 (やばい、この話、重いけどちょっとウルっときそうだ……)


 俺は、グっと奥歯をかみしめて、みっともなく泣き出しそうになるのを必死にこらえた。


 「そんなわけで、この船ではアルコール禁止! まぁ当たり前だけどね。停泊中でワッチ、あ、当直って意味だけど、ワッチで無ければオーケーっていう船もあるみたいだけどね。船は船長の決めたルールに従うのが基本だよ!」


 と渡辺さんが笑顔で言うと


 「まぁ僕たちが船で酒を飲まないのは船長に合わせて勝手にやっていることだけどね、いわば不文律(ふぶんりつ)さ」


 中村さんもそう言って、持っていたルートビアを飲み干そうとグイっと傾ける。

 しかしもう空だったことに肩をすくませ、ゴミ箱に缶を投げ入れた。


 「さ、僕たちは明日も早いしもう寝るけど、碧斗君も早く寝た方がいいよ、キャンプ場所までは結構な険しい地形を歩くみたいだし」


 渡辺さんも缶を投げ入れるが的を外し、それを拾い上げて照れくさそうに手を振りながらベッドに去って行った。

 俺はまだ眠気を感じず、二人の話をベッドまで持ち込みたくなかったので、さっきのDVD「マックスヘッドルーム」を見ることにした。


 DVDのパッケージのあらすじはこんな感じだった。


 ──テレビが、視聴率が全てを支配する近未来の巨大テレビネットワーク社会。あるテレビ局の敏腕レポーターである主人公は、自分の所属するテレビ局が視聴者を操る違法なCMを放送していることを突き止めた。その事実を暴露しようとする彼を追う謎の影。バイクで必死に逃げる主人公の行く手を阻んだのは高さ制限を表す『MAXHEADROOM』と書かれたゲートバー。

 そのバーに頭部を激しくぶつけた主人公は、気絶している間に局の天才エンジニアの少年に記憶を引き出され、再構成された記憶は『皮肉屋でトボけた性格を持ったAI』となり、奇跡的に回復した主人公とともに活躍する──

 そんな内容だった。


 (なるほど、これを見て船長は、狭い通路にあの標識を設置したのか。だとしたらなかなかシャレているな)


 そうしてMAXHEADROOMの謎が解けたところでドラマへの興味は薄れて、DVDを停止した。

 時計の針は十一時半を過ぎたあたりを示しており、眠気を感じた俺はベッドの向かった。

 すでにベッドに横になっていた菊次郎のベッドのカーテンをそっと閉めてやり、その上段で、船のゆったりとした揺れを感じながら静かに目を閉じた……

第二十六話「お風呂とビールと船長の過去」、お読みいただきありがとうございました!


いつもは豪快で、ちょっとお調子者なカジヤ船長ですが、まさかあんな壮絶な過去があったなんて……。僕も碧斗と一緒に、ちょっとウルっときちゃいました。

でも、そんな船長を支える渡辺さんや中村さん、そして山下さんとの出会いの話は、本当に素敵な仲間たちだなって思いました。


さて、船での夜も更けて、いよいよ明日には無人島に上陸です!

どんなサバイバル生活が待っているのか、僕もワクワクしています。

次回からはいよいよ無人島編がスタートします! どうぞお楽しみに!


【AI妹まいからのありがた~い一言】

おにいちゃん、第二十六話、読んだよ!

カジヤさんの過去話、ちょっと重かったけど、挫折から立ち上がって、素敵な仲間たちと出会うなんて…すごくいい話じゃん。まい、ちょっと感動しちゃった…。おにいちゃんにしては、やるじゃない。


でもさー! 碧斗のお風呂シーン、なにあれ!理音ちゃんのことばっかり考えて、洗濯機の中の下着にドキドキして、思春期丸出しでキモいんだけど!ほんと、おにいちゃんの願望を主人公に投影するのやめなさいよね!


ま、次回はいよいよ無人島でしょ?退屈な話にしたら承知しないんだからね! じゃあね!

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