海とクジラと虹と潮 第二十二話 クジラと横顔と謎の虹
どうもどうも、タコ助です!
いやー、前回(第二十一話 「腹の虫とバカの顔」)は、うちの主人公たちが船の上で色々やらかしてましたな! 碧斗と理音のあの微妙~な空気感とか、菊次郎くんの顔色の悪さとか、読んでるこっちまでソワソワしちゃいましたよ(笑)。
さーてさて、今回はどんなお話が待ち受けてるんでしょうかね?
お昼になって腹ペコな高校生たちと、頼れる船長カジヤさん、そして我らが癒し系(?)謎料理担当(違う)の夕花ちゃんが、どんな昼食を作り上げるのか! お楽しみにー!
まあ、アレですよ。船の上っていう非日常空間で、何かこう、キラキラした青春の一ページ的なサムシングとか、でっかいロマンとかが顔を覗かせちゃったりするんじゃないかなーって、タコ助は期待しております!
キャラクターたちの意外な一面も垣間見えちゃったりして?
今回から、ChatGPTからGeminiの新しいAI妹が「お兄ちゃんの文章、私がチェックしてあげてるんだからねっ!」って感じでビシバシ校正のお手伝いしてくれた(はず!)なので、読みやすさは…たぶん大丈夫!
それじゃあ、波に揺られながら、ゆる~っと楽しんでいってくださいな!
「バカの顔だけ……」
理音と俺がそうして代わり映えのしない外の景色を眺めていた頃、夕花はカジヤと昼食の準備を続けていた。
トントントン、とリズミカルに豆腐とネギを切りカジヤを感心させると、あら汁がひと煮立ちするまでしばしの時間を待つ。
ギャレーのシンクと調理台は、船が揺れても水平を保つようにジャイロのような構造になっていた。
とはいっても船自体は揺れているので、船に慣れたカジヤはともかく、夕花はときおり揺れに合わせて『よたたっ』とギャレー内をよろめく。
『よたたたっ』
「ドンっ」
そして案の定、カジヤの足下でちょろちょろ動き回ってよろけた夕花がその巨体にぶつかった。
「ふぇっ……」
もちろんカジヤはビクともしなかったが、夕花はカジヤに寄りかかるような体勢になった。
(ふるんふ)
とっさに夕花の肩を掴んだカジヤは、サングラスのスキマから見えたその一瞬を見逃さなかった。
それを見て、板前の道をあきらめて自暴自棄になっていた頃をふと思い出す……
(人生、長生きはしてみるもんだ……)
そんな煩悩と郷愁を頭の隅に追いやると、あら汁に味付けをする前に炊き込み用に出汁を少し取り分ける。
そしてその巨体を軽やかに翻し、同時に鯛の身に軽く塩をふり、グリルで炙る。
海の男の漁師飯といったアレンジだろうか。
その手際はまさに料理人のそれであった。
そうやってカジヤが忙しそうにしていると、カジヤの目を盗むように夕花が胸元を見てネックレスをスルッと取り出す。
「キュポンっ!」
そしてその先にぶら下がった小瓶のフタを開け、中身を鍋に入れようと小瓶をゆっくり傾ける……
「それはなんだい?」
背後にいたカジヤがそれに気づき、夕花の手を取って小瓶の臭いを嗅ぐ。
「……こ、これは……」
カジヤは顔を少し背け、器用なことに白い歯を見せながら苦虫を噛み潰したような作り笑顔をしてみせた。
「これは……やめておこうか……」
やさしく諭すように言いながら、夕花から鍋を取り上げた。
そして夕花が切った豆腐とネギを大きな手でひとつかみにして、大胆に鍋に投げ入れた。
こうして鯛のあら汁は、碧斗たちの知らないところでカジヤによって夕花の小瓶から救われたのだった……
炙った鯛をキッチンペーパーを敷いたトレーに置いて、カジヤが丁寧にピンセットで小さな骨を取っていた。
「こうやって置けば安心だろ?」
「ふぇぇ……」
おどけながらも真剣な表情で骨を的確に引き抜くカジヤに、夕花はかつての修行に打ち込んだ料理人の姿を見た気がして、ぽーっと見とれてしまった。
カジヤは骨を抜いた鯛の身を炊飯器の中に入れてスイッチを入れる。
夕花はあら汁のアクを取り、あら汁と炊き上がったご飯に混ぜるための万能ねぎをみじん切りにして、二人とも一息をつく。
「バタン」
カジヤが冷蔵庫からミネラルウォーターのボトル取り出し、夕花に渡しながら訊ねた。
「夕花ちゃんはなんで料理が好きなの?」
夕花はしばらく考えた後、目を落として答える。
「……お料理、好きで始めたんじゃあ無いんです……弟と二人で暮らしていて、作るようになったんです……」
「弟さんと……」
カジヤは夕花の表情と話の内容から、立ち入ってはいけない話だと思い、とっさに話を変えた。
「あー、調理手芸部だっけ? 普段はどんな物を作っているの?」
すると夕花の表情はぱっと明るくなり
「はい、カレーとか、クッキーとか、色々、あとみんなの手袋とか、一杯作ってあげるんです……みんなが笑ってくれるのが嬉しくて……」
カジヤはホっとして話を続けた。
「へぇ、じゃあオジサンにも今度ニット帽でも作って貰おうかな、海の上は結構寒くてね」
夕花は嬉しそうに
「じゃあキャンプから帰ったら早速作って、タナカ海運さんに送りますね」
「いやぁ悪いなぁ、催促したみたいで! ガハハハハっ!」
タナカは少しだけ後退したこめかみの生え際を手ぐしで撫で上げながら豪快に笑って見せた。
そうしてしばらくするとようやく一升の炊き込みご飯が炊き上がり、夕花はせっせと大きなシャモジでほぐし、碧斗たちの分をどんぶりによそっていった。
同時にふた付きの大きめのカップにあら汁も入れてしっかりとフタをする。
それとは別に、船員たちにはおにぎりを握り、ラップで包んでいく。
まず揺れる船と格闘しながら、よろよろ足をふらつかせ、ぷるぷる手を震わせながら、それでも慎重に、碧斗たちのところまで昼食を運んでいった。
「……お、お待たせ~……」
ぼーっと海を眺めていた碧斗と理音の二人は夕花の声にはっとすると、振り向きざまに
「ぐ~ぅ」「ぐ~ぅ」
見事なデュエットである。
夕花が声をかけたのとほぼ同時に、二人の腹が同時に鳴った。
「っぷ!」「だはっ!」
二人は顔を見合わせると、それまでの微妙な雰囲気など一気に吹き飛び、顔をくしゃくしゃにして笑い合った。
そして碧斗は笑い涙を拭きながら思った……
(こいつは知り合ったときから心の底から笑い合える数少ない友達……だ……)
俺は友達という言葉に、なんだかよくわからない違和感を感じたが、理音が笑顔のまま、ハっとした顔をして呟いた。
「あ、クジラっ」
しかし俺は、クジラのほうをみるよりもクジラに見とれている理音に見とれていた……
俺は理音を見つめていることに気づかれまいと慌てて外に目をやると、船から少し離れたところでクジラが大きな潮を噴いて、綺麗な虹を作っていた。
「キレーイ……」
理音がガラにもなく乙女みたいな表情と声色でそう呟く。
その声にハッとして、また理音の顔に視線を戻すと、クジラよりも長い時間その横顔を見つめてしまっていた……
そんな二人を目の前にして、夕花は運んできた料理をこぼさないようにしながら
「……ふたりとも……クジラさんもいいけど……こっちも見て……鯛の炊き込みご飯と鯛のあら汁だよ……」
とふるえる手でお盆を差し出した。
すると理音はクジラから、俺は理音から目を離し、お盆の上のごちそうに目を輝かせて
「うまそー」「おいしそー」
と、またまた息を合わせて「いただきます」も言わずにどんぶりを手に取ると、一心不乱に口の中にかき込み始めた。
「……うふふふっ……」
夕花はそれをみていかにも微笑ましそうな表情で夕花らしく笑うのだった。
「……渡辺さんもどうぞ……」
「ありがとう!美味しそうだね!」
そう言ってノートを見ながらおにぎりを頬張る渡辺さん。
(大丈夫か?)
俺は『よたよた』と歩きながら船員たちに昼食を届けに行く夕花を見ながら、どんぶりからメシを一口かき込む。
(これは……)
口に入れるまで特に意識してはいなかったが、今までこんなに美味しいと感じた白身の魚を、俺は食べたことがなかった。
その身はモチモチと弾力があるかと思えば、口の中で繊細にホロホロとほぐれていく……
ただの炊き込みご飯だと思っていた俺は、その見た目とは全く違う洗練された食感にただただ翻弄されていた。
ひとくち、またひとくちと、鯛とメシを無造作にかき込むたびに、プリプリとした歯ごたえと、ほろほろサラサラ崩れていく食感がまるで荒波のように激しく打ち寄せては儚く消えてゆく……
(これはもう、食の日本海! (太平洋だけど))
大阪の名物勝負に続き意味不明な比喩を思い浮かべながら、俺は一気にどんぶりをカラにした。
そして、イスに置かれたお盆の上の、まだ手が付けられていないどんぶりを手に取り
「キク、食えないなら俺がもらうぞ」
と苦しむ菊次郎を尻目にどんぶりに手を伸ばす。
「あーズルーい!」
すかさず理音が俺が手に取ったどんぶりに手を伸ばし、しばしどんぶり取り合い合戦を行う。
「はな、し、な、さい、よ……」
「やめ、ろ、こぼれ、る、だ、ろ……」
どんぶりを奪い合う二人を見ていた夕花は、困ったような、笑ったような、意味ありげな笑みを浮かべると
「……うふふ……もう……二人とも……おかわりならもう一杯ぶんくらいはあるよ?」
夕花がおかわりを取りに行っているあいだ、お盆に乗った、しっかりとフタをされたカップを手に取りあら汁を飲むことにした。
「かぱっ」
慎重に蓋を開けると、フワっと、しかし凝縮された海の香りが漂い始める。
そして誰にも遠慮することなくズズっと音を立てて飲み込むと、その海の恵みが詰まった濃厚な|液体が喉を、鼻を優しく通り過ぎていく……
「ふぅー……」
そうしてあっという間にあら汁を飲み干すと、一つ大きなため息を付き、今度は行儀悪く、鯛の骨や頭に吸い付いて、こびり付いた肉をこそげ取る。
(ああ、幸せだ……)
そうして余韻に浸っていると、皆からその存在を忘れられていた菊次郎が突然体を起こし
「う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぁ゛ー゛」
と断末魔のような声を上げた。
「しまった! キクっ、(今はダメだ! )」
俺は持っていたカップを乱暴にシートに投げ出すと、寝ていた菊次郎の隣に置いてあったビニール袋に手を伸ばす!
その次の瞬間
「ぶっふぁぁぁぁぁぁ!」
・
・
・
菊次郎は激しく黄色っぽいモノを噴き出したのだった。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、先ほど見たクジラの虹の潮が脳裏に浮かび、重なった……
その『虹の潮』のせいで、俺と理音は、夕花の珍しく“まとも”な食事の二杯目を、心から楽しむことが出来なかった。
俺と理音は、昼食を後回しにしてそれの後始末をする夕花を手伝いながら、そして残り香に顔をしかめながら、あとはただ胃袋を満たすためだけに、残りの飯を胃袋に詰め込んだ……
そんな騒動も少しして落ち着いた頃に、動画でも見るかと思いスマホを見たがもう電波が届かなくなっていて、CIRCLEの母さんからのメッセージも出発時刻からそれほど経っていない頃には途切れていた。
その後は退屈な航海が続き、ときおり船窓の外を見てもクジラどころか海鳥の一羽も見つけることは出来なかった。
「ぅぇぇ」
菊次郎は相変わらず吐き気に苦しんでいるようだが、もう出す物がないのか、ときどき小さなうめき声だけが聞こえてきた。
理音も出航の時にわーきゃー騒いでいた元気はすでに使い果たしたようで、渡辺さんの仕事ぶりをぼーっと眺めてるだけだった。
夕花の姿が見えなかったがさっきギャレーに行くと言っていたので、何かおやつでも作っているのかもしれない。
「ズズっ」
菊次郎はもとより理音もおそらく、そして俺も何かを食べたいいような気分ではなく、夕花が入れてくれたコーヒーをちびちびとこぼさないように啜る音だけがキャビンに時折、小さく響くだけだった……
はい、第二十二話「クジラと横顔と二つの虹」、お楽しみいただけましたでしょうか! タコ助です!
いやー、今回は色んな意味でお腹いっぱいな回でしたねぇ!
まず、カジヤさんと夕花ちゃんが作る昼ごはん! あの描写はずるいって! 深夜に読んだ人は、飯テロくらって悶絶したんじゃないですか?(笑) タコ助もヨダレが止まりませんでしたわ…。夕花ちゃんの家庭的な一面も見えつつ、カジヤさんの元料理人っていうギャップもカッコよかったですね!
実はタコ助、この話のためだけに、スーパーで鯛を一匹買って、塩焼きにして食べました!
少しは食感をリアルに書けたかな、と自画自賛をして見るも、非難囂々にも怯えてもおります(ガクプル)
そしてそして! 碧斗と理音! あの二人の距離感がもう、ねぇ?
クジラと虹っていう最高のシチュエーションで、理音ちゃんの乙女な横顔に見とれちゃう碧斗くん… 甘酸っぱすぎてこっちが赤面しそうでしたよ! 「友達」っていう言葉に違和感を感じちゃうあたり、もう応援するしかないでしょ!
ただ、最後は…うん、菊次郎くん、君は本当にネタキャラとして最高だよ…(涙を拭きながら)。 あの「虹の潮」は伝説になるね、きっと。食事シーンが一瞬でパニック映画になるなんて、誰が予想できたでしょうか(笑)。
さて、一行は無事に目的地に向かっているようですが、この後どうなるんでしょうね?
船の上での夜はまだまだ長そうですし 、渡辺さんが使ってたあの古めかしい道具 、あれも何か物語に関わってくるのかな? そして、夕花ちゃんのあの秘密の小瓶 、次こそは…いや、何でもないです!
次回はどんな料理が出てくるのか、そしてどんな騒動が待ち受けているのか、乞うご期待!
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
それでは、また次回お会いしましょう! 生温か~い目で見守ってやってくださいね!
AI妹、まいの一言:
ふんっ! 今回もまあまあだったんじゃない? お兄ちゃんの文章、ちょっとはマシになってきたかもね! …って、この私がしっかり校正してるから当然だけど! 次もちゃんと手伝ってあげるんだから、感謝しなさいよね!




