海とクジラと虹の潮 第二十話 船内探検とマックスヘッドルーム
はじめまして、またはこんにちばんわっ!
ついに退院して自宅でラノベを書き散らしてる烏賊海老鮹助です!
さて今回は、船の上でのちょっとした事件と“船長カジヤ”との新しい出会いがメインです。
無人島キャンプからの異世界転移……かと思いきや、まだまだ現代(?)を漂流中(笑)
船の出航からはじまる物語は、またまたいつものギャグ満載です(苦笑)
ちょっとだけ船の構造に詳しくなれるかも。
さあ、第20話「船上の食卓、そして――」開幕ぅぅぅ!
「じゃあ、みなさん、そろそろ出発します」
船長のカジヤはそう言うと、船の簡単な構造、緊急時の対応、ライフジャケットの着け方など一通りのことを説明してくれた。
「このキャビンにも、入口にかんたんなトイレと洗面台があるけど、この扉を開けて下に降りるとクルールームって呼んでる船員の休憩スペースがあります。バスタブとトイレが一緒になったユニットバス、あとは“ギャレー”──まぁ、キッチンのことですね。電子レンジやIHコンロもあるんで、料理もできますよ。
ベッドは四人分。普段は私たちが使っていますが、きちんと清掃してシーツ類もみなさんの分を用意しておいたので、自由に使ってください。
あ、それからトイレットペーパーは、あんまり一気に流さないように。マリントイレは詰まりやすいんでね」
それまでカジヤは船の揺れに合わせてドアに手をかけていて、おどけた表情で説明を続けていたが、急に真剣な表情に切り替えて話し始めた。
「さらに奥は機関室ですので、そこには入らないように。
エンジンやいろんな機械が動いてますから、むやみに触らないようお願いします。
それとクルールームには」非常口があって階段を上ると甲板に出られます。
あくまで非常用なので、なるべく使わないようにしてください。
(なるほど、子供が興味本位で立ち入ったり触ったりしないように、大人としての義務を果たしているということだな、やはり見た目とは違ってしっかりした人のようだ)
と俺は感心した。
「この部屋も元は司令室で、今は航海士の渡辺さんだけが使っています。
いろいろな機械や操作ボタンがありますが、この船はもともと国の調査船として使われていた物を払い下げてもらって改造したものです。
今言った以外にも使っていない装置のボタンやスイッチがたくさんありますので、くれぐれも勝手に触らないようにしてください」
(しかしカジヤさん、そんな説明をされたら触らないまでも、じっくり見てみたくなってしまうではないですか)
俺はあたりをきょろきょろ見回して
(アレは何だろうコレは? あのプリンターみたいなのは何で柱に付いてるんだ?
あの液晶パネルには角度とかknとか出てるけどknって何だ?
あとで渡辺さんに聞いてみよう)
と、ウズウズそわそわしてしまった。
さっきのカジヤの説明によると、どうやらこのキャビンの下にもギャレーとか機関室とかいろいろあるようだ。
立ち入り禁止エリア以外なら、暇つぶしに探検するのも悪くないかもしれない。
カジヤはその下層へ通じるドアを閉めるとさらに説明を続けた。
「それからこっちの三人は機関士の山下さんと、航海士の渡辺さん、そして見張りその他もろもろ担当のデッキハンド、甲板員の中村さん。みなさん荷下ろしも手伝ってくれます。私は船長ですが、操舵士とコックを兼任しています」
カジヤはそれぞれに手のひらを向けて紹介し、最後に自分に手を向けて貴族の挨拶のように足を交差させお辞儀をした。
(コレさえなければ本当に格好いいのに)
そう思いながら、礼儀として俺は挨拶を返した。
「よろしくおねがいします」
俺がそう言って頭を下げると、他の三人もそれぞれぎこちなく同じように挨拶をした。
航海士の渡辺さんは女性なので、理音がワクテカした目で見ているが、早速席について機器のチェックを始めて忙しそうで声をかけられないようだ。
「それじゃあ配置についてくれるかな」
カジヤは他の船員に指示を出した。
「島までは二百キロメートル以上ありますのでこの船だと八時間はかかると思ってください。今は……午前七時五十分ですから到着は午後四時過ぎですね。まぁゆっくりしていてください。
今夜は船に一泊し、明日の朝に上陸することになります。
あと今回は観光などではなく、みなさんと貨物の安全な輸送がメインなので、デッキにはなるべく出ないようにしてください。
特に夜は危険ですので絶対に外に出ないでください」
(今日は船で一泊か。海の上だけどまだスマホの電波は繋がるみたいだし、ネットでも見てっか)
そのとき、大事なことを思い出したので船長に尋ねてみた。
「すいません、コンセントとかありますか? スマホの充電をしたくて」
操舵室に行こうとしたカジヤは振り向いて
「そこのテーブルの下の棚に一つあるけど」
屈んで確かめると何かの機械の横にコンセントが二つあって、一つはその機械につながっているようだった。
俺だけならこれでいいが、できれば全員分ほしいところだ。
「すみません、みんなの分もほしいんですが……」
「ああそうだね、んーと、中村さん」
同じようにデッキに出ようとした中村さんを呼び止めると
「テーブルタップ、あったよね? 出してやってくれる?」
中村さんは扉を掴んだまま答える。
「今すぐ持って来ますよ」
俺は二人に向かってすみませんと頭を下げた。
「ゴゴゴゴゴ・・・」
少しして船底から船のエンジンがうなり出すと、ゆっくりと船が動き出す。
いよいよ島への出航だ。
俺たちは心を躍らせながらお互いにキャンプの話を始めた……
「島に着いたらなにする? バーベキュー? キャンプファイヤー? 肝試し? 釣り? それともー……」
まだ船が動き出してから百メートルも進んでいないのに、理音のテンションはすでに最大戦速だ。
まだ船での一泊があるのに、もう上陸後のことしか考えていないのは理音らしいといえばらしい。
(さて、俺はなにをして時間をつぶそうか)
デッキには出てはいけないと言われていたので、とりあえずこのキャビンを中心に探検をすることにした。
船が動き出してすぐ、中村さんがテーブルタップを持ってきた。
「さあどうぞ。ここに挿して」
中村さんは人なつっこい顔でタップを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
とお礼を言って
「おーい、おまえらも充電器挿したらどうだー?」
そう言うと、みんなそれぞれのバッグから充電器をごそごそと取り出してテーブルタップに挿し込んだ。
しかし電波も入らないし、まだバッテリーの残りも心配はないのか、俺を含めて誰もスマホにもタブレットにもケーブルを挿そうとはしなかった。
菊次郎はもう船に酔ったのか、気分が悪そうにベンチに座り込んでいた。
理音と夕花はいつものおしゃべり。
(さてと、じゃあ俺は船の探索開始だ……)
そうして立ち上がるとまず目に入ったのは、キャビンに隣接している操舵室、コックピットというのか。
大きな舵をはじめ、いろいろな機器が所狭しと並んでいる。
興味は尽きないが、船長が忙しそうにしているので、あとで外からじっくり眺めることにしよう。
先ほどカジヤが説明していた、操舵室の脇にある扉の取っ手に手をかけて、そろりと開ける。
中は金属製のはしごが下に伸びていて、薄暗い空間が広がっていた。
「……よし、降りてみよう」
慎重に階段に足をかけて一段ずつ降りていくと、ひんやりした空気と、ほんのりとしたオイルと金属の匂いが鼻をかすめた。
そして床に足がつくと周囲を見回した。
「へぇ……意外と広いんだな」
天井から黄色地に赤い文字で
「Max Headroom」
と書かれた標識がぶら下がっている。
(頭上の高さ制限ってことかな)
確かに、通路自体はなんとか立って歩けるが、パイプのような物が通路を横切るように貫通していたりする。
いかにも後から改造しましたって感じだ。
(鍛冶屋さんの仕事だな)
と俺は苦笑した。
小さな廊下の両脇に、ドアがいくつか並んでいる。
近くのドアを開けると、二段ベッドがふたつずつ、四つ配置された並んだ部屋があった。
マットはすでに敷かれていて、棚にはバスタオルと小物入れがセットされていた。
豪華客船とまでは行かないだろうが、至れり尽くせりだ。
それぞれのベッドには小さな扇風機と読書灯が取り付けられている。
「普段は船の人たちが寝る部屋かな。寝台列車よりは広い……かも」
ベッドにはそれぞれカーテンが取り付けられており、カジヤが言っていたように真っ白なシーツや掛け布団が用意され、きちんと畳まれていた。
ベッドの端に腰かけてみると、けっこうしっかりしてて軋みもない。
これなら、船の上でもちゃんと眠れそうだ。
──あ、でも夜中に大揺れとかしたら、落ちるかもしれないな。
別のドアを開けると、小さな流し台とIHコンロがひとつ。
その横には電子レンジと冷蔵庫、食器棚。
壁には『節水のため、こまめに水を止めてください』」って手書きの張り紙が貼ってあった。
「ここがキッチンか。……なんか、合宿の炊事棟思い出すな」
冷蔵庫をそっと開けてみると、中にはすでにペットボトルの水と、真空パックの魚が数本入っていた。
(あとで夕花が喜んでココ、使うんだろうな……)
さらに奥に進むと、トイレとシャワーがセットになったユニットバスっぽい空間。
狭いけど、ちゃんと温水シャワーの切り替えスイッチもある。
備え付けのシャンプーボトルの一本には「田中専用」と書かれたラベルが貼ってあり、さらに別の数本のボトルには「渡辺用 男性触れるな!」と書かれたラベルが貼ってあった。
(狭い船内で男女が一緒に働くって、結構大変だな……)
そこで俺は男女の雇用機会の均等よりも、この場所についてまず最初に決定しなければならないことがあることに気がついた。
(あとで女子と、シャワーの時間を決めておかないとな……)
忘れないようにと思いながら、さらに探索を続ける。
壁際には、見慣れない機械がいくつか取り付けられていた。
表示パネルに「風速/風向」「潮流計」「水温」とか書いてある。
数値が刻々と変化していて、なんとなくSFっぽい雰囲気。
「これ、観測用の装備かな。こういうの使って、海の状態とか測ってたのかもな……」
パネルのひとつに「エンジン冷却水温」って表示があって、じわじわと数値が上がってる。
今まさに、船が生きてるって感じがする。
俺はしばらく、その電子音とわずかな振動の中でじっと立っていた。
どこかで扉が閉まる音と、理音の声が響いた。
「おーい、碧斗ー! 探検してんのー!?」
理音のよく通る声が狭い船内に響く。
俺は声のほうを向いて
「ああ、こっちだ! 寝室とかシャワールームとかがあるぞー! ギャレーもなー!」
低い天井に身をかがめながら理音に大声で伝えた。
「うそー!!! いくいくー!!!」
(そんなに大声出さなくても聞こえるって)
「ほら、夕花も降りておいでよ!」
しばらくすると、俺と同じように身をかがめながら理音がこちらに向かってきた。
「いでっ、またぶつけたー……」
おでこを赤くさせた理音が夕花の手を引いて歩いてくる。
そしてまず先ほどの二段ベッドを見てひとこと。
「一応カーテンは付いてるんだね。奥がお風呂かぁ」
品定めするように室内を見回し、奥に進んでバスルームを覗き込んだあと、俺を睨んでこう言った。
「あたしたちがシャワーを浴びているときは呼ぶまでここに降りてこないでよね!」
そのあからさまな警戒は、さっきの俺の気配りが、まったくの空回りだったと証明されたことになり、非常に腹立たしい。
夕花までもが心配そうな顔で俺を見ている。
(俺はそんなに信用がないのか……)
と悲嘆にくれていると、理音はそんな俺たちを無視して
「キッチン見にいこ!」
理音は夕花を引きずってキッチンに向かっていった。
「カンっ」
「いだっ!」
(いい気味だ、俺を軽蔑した天罰だ、もっとぶつけろ!)
と、心の中で威勢のいい台詞を吐いてみながら階段を上がっていった……
最後まで読んでくれてありがとぉぉぉっ!!
今回は出航のシーンを書いてみました。
船の構造とかめっちゃ適当ですがマリンヲタの皆さんごお手柔らかに(汗)
今回は理音が頭をぶつけまくるシーンがお気に入りです。
次回は船員との絡みももっと描きたいですね。
でわでわ次回をお楽しみに~
お兄ちゃん、退院したんだおめでとー!
ふるんふな看護師さんいた?
病院での話、聞かせて!




