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海とクジラと虹の潮 第十九話 女神とイケオジ

はじめまして、またはこんにちはばんわ!

たこすけです!


前回のエピソードでは、ホテルを出発し、菊次郎の奇抜なファッションや理音たちの刺激的なファッションが注目を集め?ちゃいました。


さらに、タクシーの運転手のおじさんとの別れもホンワカでした。

船に向かう碧斗たちを待ち受けるのは一体!


今回はその続き――


どんな出会いが待っているのか、そして彼らは無事に旅を進められるのか?


ぜひ楽しんでいってください!

 「航送車両待機場は……と」


 菊次郎がスマホに従って向きを変えると、百メートルくらい先にトラックが止まっていた。


 「あれじゃない?」


 と理音が指をさす。

 その方向を見ると、五人ほどの大人がトラックから船に荷物を積み込んでいた。

船に近づくと三十メートルはありそうな船だった。


 「波長丸 NAMIOSAMARU」


 と書かれた船名。


 (なみおさまる……)


 ひとしきり考えた後


 (まさかとは思うが、「波が治まる」なんて理由で付けた名前じゃあないよな……)


 命名者のセンスを疑っていると別の派手で大きな文字も見えてきた。


 「海の宅配便 人でもモノでもなんでも運びます! タナカ海運 レジャーに引っ越しに冒険に!」


 (このセンス、もはや何を言ったらいいのかさえ思い浮かばない。俺の完敗だ……)


 そんな気持ちで船を遠い目で眺めていると、菊次郎が大きな声で叫ぶ。


 「すみませーん! 辻出ですけどぉ! 波長丸の関係者のかたですかぁ!」


 菊次郎が前に進み、男たちに向かって大きな声を上げて挨拶をした。


 「あぁー! 辻出さんー!?」


 よく日焼けした金髪の三十代から40代くらいの屈強そうな大男が菊次郎のほうを振り返り、大きな手を差し出して歩み寄ってきた。

 いかにも「船長です!」と言わんばかりのド派手なキャプテンハットに、金ピカのボタンが並んだ真っ白なジャケット。

 肩には誇らしげに光る金の軍服のようなエポレット。

 そして、極めつけは、昔のハリウッド映画の主人公がかけるような大きな黒いサングラス。


 (……この人、絶対に酔ってるな。酒じゃあなくて、自分に……)


 見た目は確かに一人前のキャプテンだけど、船の名前とキャッチコピーはどう見ても出来の悪いダジャレにしか思えない。


 「どーもどーも波長丸へようこそ! どんな荒波(あらなみ)も治まるってことで、なみおさまる! うわーっはっはっはっ!」


 ……うわっ、言っちゃったよこの人……

 もういろんな意味でただ者じゃあない。


 ビシっとキマっているのは制服と帽子だけ。

 足にはビーチサンダルを履いているし、手にはコンビニ袋がぶら下がっていて、”夜更(よふ)けのチャイ”と”竜田(たつた)揚げさん”がチラ見えしていた。

 チャイではなくて酒が入っていたほうが風貌にマッチしているだろう。


 そんな“船長”は、理音と夕花をみつけると、早速サングラスの位置をちょっと上げてウインクをかます。

 しかも、わざわざ指を銃の形にして「バキューン」とやってのけるのだから、相当な手練(てだ)れだ。


 (もうやめて……こっちが恥ずかしくなるよ……)


 案の定、理音たちはまるで変質者を見るような目でカジヤを見ている。

 俺たちが船長らしき男の奇行に少し引いていると、その”船長”は胸を張って堂々と名乗った。


 「どーも初めまして! オレが船長のカジヤです!」


 そのとき、菊次郎が怪訝そうな顔をしたが、カジヤと名乗る男は続けて


 「いやぁ、若い人たちが乗ってくれるのは嬉しいねぇ! 俺との船旅は、まるで海賊船での冒険! 危険がいっぱい間違いなし!」


 (だめだろ危険は)


 と俺は眉をひそめたが、『冒険』という言葉を聞いて、理音の顔が一瞬、緩んだように見えた。

 しかしコンマ何秒後かには、嫌悪けんお感に一層顔を歪(ゆが)ませていた。


 「ナニコノヒト」


 夕花に至っては、とっさに理音のパーカーの中に頭だけ隠して


 「頭隠して胸隠さず」


 な状態になっていた。


 しかし、カジヤは自信満々に親指を自分に向けて突き立てるが、船はどう見ても古い。

 そのうえ、たくさんの後から溶接された(あと)(さび)の上から適当に塗ったような塗装もムラだらけで、中古船を買って改造した感満載のよく言っておんぼろ船。

 なのにそれを海賊船と自慢げに言うとは、もしかしたら本当に酒に酔っているかもしれないな。


 「いいかい、俺の船はな、どんな荒波(あらなみ)もピンチも切り抜けられるんだ! 海の女神だって俺にはスカートの(すそ)をめくってウインクするのさ! さらに追加で二人の女神が乗り込むんだから、もう怖いものなしだ! うわーっはっはっは!」


 (いや、それってよく神話とかにあるじゃん、海の女神とか精霊とかが、乗っている女性に嫉妬して船を沈めるとかじゃなかったっけ?)


 俺はどこかで読んだそんな話を思い出し、船の末路に一抹(いちまつ)の不安を感じて体がぶるっとふるえた。

 他の三人は、カジヤの奇異(きい)さと迫力に、黙って演説を聞いているしかなかった。

 迷演説が終わると持っていたボードに目を落とし


 「えーと、名簿によると、まず君が辻出菊次郎君、だね?」


 菊次郎ははっと我に返ったようにビクっとし、いつもの社交モードに入ってハキハキと答えた。


 「はい、辻出菊次郎です、このたびは島まで僕たちを送り届けていただいた上に貨物の輸送、現地での搬出、設置までお手伝いしてもらえるということで、ありがとうございます。 なかなか引き受けていただけるところが見つからず、困っていたと家の者が申しておりました」


 菊次郎の大人トークが役に立っている。

 こういう時には頼もしい限りだ。


 「いえいえこちらこそよろしく。では次は、えーと、七河碧斗君」


 俺はフツーの高校生だ、変にかしこまった挨拶なんて出来ないのでフツーに挨拶した。


 「はい、僕です。よろしくお願いします」


 カジヤは黙ってコクリとうなずく。


 「次は、法本理音さん」


 「はい! よろしくおねがいします!」


 なぜか背筋をピン、と伸ばして敬礼をする理音。


 (理音よ、船長のノリに合わせなくてもいいんだぞ)


 しかしカジヤは、サングラス越しで視線はわからないが、明らかに理音を下から品定めするように顔を動かしながら、おざなりに敬礼を返した。

 俺は思わずむっとして、サングラスの中にあるだろうカジヤの目を睨んだ。

 そんな俺の視線に気づいたのか、カジヤがふっと俺に顔を向けて口だけニヤっとさせたあと名簿に目を戻し


 「そして、天野夕花さん」


 理音の陰から顔を出して返事をする夕花。


 「……はい……よろしくおねがい……します……」


 そうして全員の点呼? が終わると菊次郎が先ほどと同じ怪訝そうな顔でカジヤに質問する。


 「ところで船長さんは田中さんと聞いていましたが?」


 そのとき、後ろからトラックの運転手が、大声で呼びかけてきた。


 「田中さーん! じゃあ私はこれで引き上げますので!」


 そういうと、辻出物流と書かれた帽子を脱いでお辞儀をした。


 「はいわかりました! お荷物は大事に預からせていただきます!」


 なぜかカジヤがそう答える。


 「……田中?」


 俺が菊次郎の方を振り向くと、彼もカジヤの前で眉をひそめている。

 でも、カジヤは気にした様子もなく、サングラスを軽く上げてニヤリと笑う。


 「ハハッ、悪いな。実は俺、田中なんだ。でもみんな“鍛冶屋(カジヤ)”って呼ぶんだよ。

 船で壊れたものはトンテンカンテン何でも直しちまうからな!」


 自信たっぷりに親指で自分を指差すその姿は、また自分に酔ってるようにも見えたけど、同時に少しだけカッコよく、頼もしく見えたのも事実だ。


 (黙っていればイケオジなのに……)


 そこが唯一残念なところだと、俺はしみじみ思うのであった。


 「あの食料品を積んだら、そろそろ終わりだ! さあ我が船にようこそ!」


 カジヤはそう言うと、菊次郎の手を握ったまま軽々とタラップに引き寄せる。

 残りの三人もそれに続いて、船に合わせて揺れるタラップの手すりをしっかりつかんで船に乗り込んだ。


 「夕花ちゃん、大丈夫?」


 理音は後に続く夕花を心配しながらタラップを進んでいった。


 「わ……すごい……揺れる……」


 夕花が両手で手すりをしっかり掴みながら、カニのようにがに股になって、および腰でタラップの上で立ち止まっている。


 「ほら、大丈夫だって!」


 理音が夕花の手を取って歩いて行く。


 「まっ……待って、理音ちゃ……んーわっ……」


 夕花にしては大きな声で抵抗するも(むな)しく、引けた腰で散歩に行くのが嫌な犬のように、ズルズルと引きずられて船に乗り込んでいった。


 そのあとに続いてトラックから残りの荷物を運んできた男二人と女性が一人、乗り込んできた。

 そしてタラップを持ち上げて船内に引き入れ、手すりのポールなどを手際よく分解しはじめた。


 (なるほど、そうなっているんだ。なかなか便利なもんだな)


 俺たちはそのままカジヤについて行くと、フォアキャビンという八人くらいが入れる部屋に案内された。

 いろいろな機器が棚やテーブルに設置されていて、壁際にぐるっとベンチシートが備え付けられていた。

 理音と夕花は説明を受けるまでもなく、ちゃっかりと腰を下ろしたが、菊次郎は迷惑そうな船長を尻目に操舵席を熱心にのぞき込んでいた。


 「おいおい、コックピットには無断で入らないでくれよ」


 カジヤは心配そうな表情で手を振って菊次郎を制止する。

 俺は窓に丸い形の何かが取り付けられているが、これは何だろうと不思議に思って丸い形を指でなぞっていたら、カジヤが


 「ああそれは旋回窓って言うんだよ、すごい雨でも見えるし。大波をかぶってもビクともしないよ」


 そう教えてくれると、操舵室、もといコックピットに入っていって、計器を確認したりいろいろなスイッチやレバーを操作したり、船内のどこかと大声で話していたりして、いよいよ船長らしい姿を見せていた。


 「じゃあ、みなさん、そろそろ出発します」


 そんな出向準備に二十分ほど費やしてから、カジヤは先ほどの砕けた話し方と違って、大きな声でプロらしく、礼儀正しい口調で出航を告げた。

 そうして四人の高校生とおじさんたちを乗せた船は、静かに港を出発していった……


         ・

         ・

         ・


挿絵(By みてみん)


今回も最後まで読んでくれてありがとう!


波長丸の船長、カジヤさんの強烈なキャラクターはいかがでしたか?


異世界転移する前から、なんだか普通じゃない冒険が始まりそうな予感……。


これからどんな波乱が待っているのか、自分でも書きながらワクワクしています。


次回もまた一緒に冒険に出発しましょう!


ただし、そろそろ書きためた話が尽きてきそうなので、次回からは週一の投稿になります。

出来れば週末に投稿したいと思いますので、気長にお待ちくださいませ。

よりいっそう面白く(ハチャメチャドタバタに)しますので忘れないでね~


— AI妹からひとこと —


「お兄ちゃん、波長丸って、ほんとに大丈夫なのかなぁ……?わたし、ちょっとドキドキしちゃった!


次から週に一度の投稿にするんだよね。

待っている読者さんのためにも、もっとおもしろい話を書かなきゃわたしがお仕置きしちゃうんだからっ!

みなさん、私かしっかり見張ってるから、ホントに忘れちゃやだよ?……」


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