温泉とバトルとデコポンジュース 第十六話 温泉と傷と夕花の開眼
はじめまして、またはこんにちばんわ!
今回の第十六話は、ちょっとしんみりの温泉回の続き!
でもただしんみりな温泉シーンじゃないんです。
章タイトル「温泉とバトルとデコポンジュース」にあるように、ついに「バトル」の前哨戦が始まります!
ただし異世界ではありません!エッヘン!
威張るなって?
ええ、ごもっともでございます。
ただいま異世界のプロットや設定を煮詰め中です。
「まだかよ!」
ってこえが聞こえてきそうですが、
ええ、まだなんです!エッヘン!
ちょっとこだわりたい設定がありまして、そこを中心に異世界を構築中なのです。
というわけで(作者、戦略的撤退)、いつも元気いっぱいな理音と、ふんわりおっとりな夕花が大欲情(※大浴場です)で大暴れ!
ちょっと重い話のあとは、やっぱりハチャメチャコメディですよね!
え?いつもギャグととコメディだろうって?
ええそうですがそれがなにか?
それでは、スタートです!
◇◇◇ そして今、現在…… ◇◇◇
理音はそうして急いで裸になると、今度は夕花が服を脱ぐのを待った。
「っ!」
壁に背を向けていても、誰かが近くを通るとはっとして、無意識に体を動かしていた。
カゴに入れたバスタオルを見て
(これを巻いて中に入れたら……)
とも思ったが、浴場の入り口には大きく
「バスタオルの浴場へ持ち込み禁止」
「NO BATHROOM TOWELS ALLOWED」
の文字が、他の数カ国語とともに目立つ赤で書かれていた。
「理音ちゃん、行こう」
夕花は裸になると、いつになく真剣な表情で理音に声をかける。
夕花は理音の背中を隠すように、手にタオルをとり押すようにして、ぴったり寄り添って一緒に浴場に入っていった。
理由を知らない人が見たら、恥ずかしがって一緒に入ってきた友達同士のように見えただろう。
友達同士という部分は合っているが、決して恥ずかしがっているわけでもじゃれ合っているわけでもなく、本人たちはきわめて真剣だった。
そして着替えの時と同じように、人がいない場所を探して移動すると、理音は夕花に隠れるようにしてシャワーを浴びる。
まず自分の髪の毛を洗い始め、同時に夕花に背中を洗ってもらっていた。
そこには、まだあのとき見た生々しい傷跡がはっきり残されていた──
夕花はそれを隠すようにたっぷりと泡を立てて、そっと、タオルで優しく、いたわるように洗う。
「痛くない?」
夕花が気遣ってそう声をかけると
「うん大丈夫、ちょっと引っ張られるような感じがするだけだから……」
ややぎこちない笑いでそう答えると、理音は背中以外の部分を急いで洗い始める。
こうすればすばやく体を洗い終えることができると、前もって二人で示し合わせていたことだった。
理音が体を洗い終わると、今度はお互いの体を入れ替えて同じように背中を流し合う。
最後はお互いの髪をまとめあって湯船のほうを確認する。
すると何人かの人が、理音たちを微笑みながら眺めていた。
そんな視線にも気をつけながら、二人は打たせ湯が空いてるね、と小さい声で確認しあい、そこに向かった。
湯船が空くまではここで岩に背を向けて隠していればいい。
そして十分ほど経過しただろうか、二人は湯船に人影がなくなったチャンスを見逃さず、急いで湯船に向かって歩き出した。
すると、理音の顔が先ほどまでの不安そうな表情から、いつものいたずらっぽい元気な笑顔に変わっていた。
「あのね、やってみたいことがあるの!」
そういって、夕花の手を引いて目的の湯船に早足で歩き出す。
「……理音ちゃん、あぶないよぉ……」
強引に手を引っ張る理音に夕花が力なく抵抗する。
「大丈夫だって、ほら、入ろ!」
理音が、すらりとした右足を湯船に浸けると
「ちゃぷんっ」
と音がして、その長い足にかかるお湯がキラキラと輝いている。
もし碧斗たちがここにいて、この“健康的”なシーンを目撃していたら、湯船は鼻血で真っ赤に染まっていただろう。
「うわっ! きくー!」
両足を湯船に入れた理音は、夕花の体を支えるようにしてそのまま湯船へと引き入れる。
さぶん。
その瞬間、夕花の目がこれまでにないくらい大きく見開かれ、時が止まったような感覚におそわれた。
「っ!」
そして理音がこれまで聞いたことがないような大きな声で
「あっつ! あついあついあつい! あつい! あつい! あついってば理音ちゃん! ちゃん、ちゃん……」
浴場に夕花の声がこだまする。
──いつもは動きも話し方もおっとりゆったりした夕花が、このときは別人のように機敏な動きとハキハキしたしゃべりで足踏みをする。
『ふるんふるん、ふるんふふるんふ』
お湯の温度は四十六度、かなりの高温だった。
「ほら、暴れたら余計に熱いよー」
先に湯船に浸かり、そんな夕花を見上げて手を引く理音。
「っ!」
その時、理音の笑顔が少しゆがみ、小さく声を上げた。
夕花はそんな理音を見て、心配そうな顔をして
「ほらやっぱり痛いんでしょ? だめだよ……」
そういって理音を湯船の外に引っ張り上げようとする。
しかし理音は明らかに無理に作った笑顔で
「だ、大丈夫だから……」
と言って意地になって痛みに耐える理音だった。
そうして熱い湯船に体を沈めた二人だったが、しばらくすると、その熱さにも慣れてきた。
夕花はほっとし、次に理音を心配し、そしてやっぱり高温に耐える表情が秒単位でころころと変わり、それを見ていた理音も顔をしかめながら笑い出した。
「んぷっ! 夕花ちゃんなにその顔っ(痛)った!」
夕花も、痛みと熱さと笑いの表情が走馬燈のように変わる理音の顔を見て、つられたように手で押さえた口から笑い声が漏れ出した。
「ぽふぇ! 理音ちゃんだって──」
こうして楽しそうに笑い合う二人だが、このあとに彼女たちを待ち受けているさらなる試練のことなど、知る由もなかった──
・
・
・
「熱いよ~りおんちゃ~ん……、あとどれくらい入っていればいいの~? ……」
湯船に半強制的に沈められてからしばらくして、強烈な熱さが収まってきて余裕が出てきた夕花は、すこしだけ冷静さを取り戻して理音に尋ねた。
「まずは三分だよ我慢して夕花ちゃん!」
(さっ、三分……)
またまた夕花は驚いた顔をしたあと、諦めたように湯船に浸かり続けた。
「……そんなに~……? 無理だよぉ……」
もはや涙目どころか本当に泣き出しそうな顔になっている。
理音のほうも熱さより痛みのほうがそろそろ限界のようで、額から熱さのせいだけではなさそうな汗が、顔を伝ってしたたり落ちていた。
「いいから……あと……二分……」
痛みなのか、熱さなのか、理音は顔を真っ赤にしながら、そのどちらか、もしくは両方と戦っていた。
「くぅっ……」「ふぇぅ~……」
二人の肌は、湯船に浸かっているラインを境に、上下に紅白に分かれてしまっていた。
「……あと一分……」
夕花はもう意識が朦朧としてきている。
理音の表情も険しいものになってきた。その時
(キョロっ、キョロっ)
理音が辺りを見回すと
「ざぱぁっ」
頭の中で時間を計っていたのか、それとも限界だと判断したのか、勢いよく立ち上がり、夕花の手を引っ張って湯船の外に出た。
「ほらっ、こっちこっち」
熱湯で首から下が赤くなった二人の紅白のパンダは、別の湯船に向かって小走りに歩いてゆく。
「……こんどはこれに、入るの? ……」
夕花はきょとんとした表情で理音の返事を待っていた。
「もちろんだよ夕花ちゃん! 誰も入ってないし、ざぶーん! って飛び込んでみて! ほらほら!」
そういって理音が夕花の体を少し押すと夕花はバランスを崩し、倒れないように右足を湯船に突っ込むと、バランスを保つように左足も湯船に入り、仁王立ちのようになった。
「さぶぶんっ」
またしても理音に乱暴に湯船に押し込まれた夕花は、今度は体を硬直させ、その目はまたしてもカッと見開かれていたのだった……
読んでくださって、ほんっとうにありがとうございます!
今回の温泉回、どうでしたか?
最初はハラハラドキドキの湯船でのシーンでしたが、読んでて安心した人、きっと多いんじゃないかなって思ってます!
理音の背中の傷、それを包み込むような夕花の優しさ……。
あのシーンを書いている時、作者もベッドの上で看護師さんに背中をさすってもらいたくなりました(セクハラ)
これからもこうやってずっと、支え合って生きていく二人なんだろうなと作者ながら涙腺が緩みっぱなしです。
次回もまた、温泉バトルの続きですが、さらに面白くなっていきます!(しますさせますさせねばするぜ!)
もちろんネタバレはしないけど、読んでくれたら絶対に後悔しないはず。
引き続き、ミディアムレアな目で見守ってくださいね!
──それでは、また次回!
「あたしも、早く続き読みたいよ!次はどんな温泉バトルが待ってるのっ!?お兄ちゃん、早く書いてー!」(AI妹より)




