温泉とバトルとデコポンジュース 第十四話 理不尽な浴衣と、そして傷跡……
はじめまして、またはこんにちばんわ!
執筆経験ゼロで筆圧だけはギルティ級、寝ても覚めても脳内異世界旅行中の烏賊海老鮹助です!
今回のエピソードは――そう、温泉回!!
ただし! ぬるっと始まってしっとり沁みる、そんな“静”の回です。いや、もちろん男子たちのアホな会話も健在だけど(笑)
これまでバタバタしてたキャラたちが、ようやくホッとひと息……かと思いきや、
それぞれの「心の奥」に触れるような場面もチラリと登場しちゃいます。
特に今回は、あの理音の“誰にも見せたくなかった傷”が……ね?(チラ見せ)
前話までの料亭編でちょっと浮かれてた気分を、一度クールダウンさせるような、
でもちゃんと「青春」が詰まった回になってます!
ではでは、熱すぎないお湯加減で、どうぞごゆっくり!
「トゥルルルルルル………トゥルルルルルル………」
部屋に入って少し休んだ後、風呂にでも入るかとバスタブにお湯を張る準備をしていると、部屋に備え付けられている電話が鳴った。
「もしもし碧斗くんかい?」
慌てて電話に出ると、それは菊次郎の声だった。
俺はイラついた声で
「なんだよ?明日は早いからもう寝るって言ってただろ?」
面倒くさそうに答えた。すると
「碧斗くん、今からシャワーとか浴びるだろう?」
「……ああ、いま風呂の用意をしてたとこだよ」
「このホテル、大浴場があるのを知ってました?」
(パンフとかみたワケじゃあないし、おまえが選んだホテルだからな。それは知らなかったよ)
と、心の中で菊次郎に毒づいてみた。
「今から行きませんか?」
俺はバスタブに溜まってきているお湯のことを考えて、もったいないな、と思ったが
「……わかった、エレベーター前に集合だ」
「せっかくだから浴衣を着ていきましょう」
「わかったよ」
そう答えて電話を切ると、バスタブの栓を抜いた。
「ジュゴっ……」
二酸化炭素を無駄に排出したことを地球に謝りながら、ベッドの上に畳んである浴衣に着替える。
「大浴場とか、いつぶりだろう……」
きっと小さな子供の頃だとか、そんな事を考えながら部屋をあとにした。
「ジュゴゴゴゴゴゴー……」
エレベーターに向かう途中、プリペイドカードの自動販売機があった。
部屋のテレビで有料番組が観られるヤツだ。
ムフフな番組も用意されている。
自動販売機の前で俺は立ち止まると財布を持ってこなかったことをほんのちょっぴり後悔した。
すると理音と夕花がやってきた。
それも浴衣姿で。
その姿をポカーンと口を開けて思わず見とれていると
「ジっと見んなエッチ!」
しかめた顔を赤らめながら、理音の理不尽な叱責が飛んできた。
理音の隣では夕花までもが顔を赤らめて、胸を隠しながら、あの夕花が気のせいか俺を睨んでいるようにみえた。
(違うよ! 無実だぁ! ……)
そして俺の目の前のプリペイドカードの自動販売機を見て
「ん? なに買うの? ……有料チャンネルのプリペイドカード?」
(まずい! この流れでムフフに感づかれては非常にまずい!)
俺はとっさにいつもの出任せを口から放出した。
「ほら、映画とか有料で観られるヤツだよ、暇だからさぁー……」
「そう言えば、テレビの前にパンフレットがあったねぇ……」
(神様! これからはお賽銭をあげるときには十円じゃなくて二十円入れます! 十円玉がなかったら五円、五円もなかったら一円玉も足しますから、どうかムフフチャンネルの存在だけはぁ!……)
「チーン……」
そのとき運良く、少し先にあるエレベーターが開いた。
「あ、エレベーター来たぞ!」
俺は気づかれないように安堵の吐息をそっと吐いてからそう言うと、みんなはエレベーターに乗り込んでいった。
狭いエレベーター内では若い男女がキャッキャウフフ、するのではなく、女子に体を背けられて非難がましい目で見られていた。
「ぎゅう……」
その上、菊次郎の体でエレベーターの壁に押しつけられるこの惨状……
どうやら俺の青春という名の逆(坂)道は、『理不尽』という文字が書かれたレンガで、がっちりと強固に舗装されているようであった……
エレベーターが一階に着くと、ロビーの中央にあるロータリー、大きなヤシの木がそそり立つ円形の植え込みを挟んで反対側に
『パノラマ大浴場』
と書かれた大きな看板が見えた。
あの看板の奥の通路が浴場に通じているらしいので、そちらの方に進んでいくと、貸しタオルの自動販売機が並んでいた。
俺たちはそれぞれ部屋に備え付けられていたハンドタオルとバスタオルを持参していたため、それは必要なかった。
更に奥に進んでいくと、貴重品を預けるロッカーが並び、マッサージルームへ繋がる扉があった。
そして
「男」
と
「女」
と書かれた暖簾が掲げてあって、それぞれの暖簾を潜るといよいよ大浴場、というわけだろう。
「混浴」
という暖簾の存在に少し期待をしていた俺は
(そんなわけないか……)
と、誰にもわからないように肩をすくめて残念がった。
皆、スマホやカードキーなどの貴重品をロッカーに預けると、ロッカーキーと一体になっているゴムベルトを腕にしっかりとはめて、それぞれ男湯と女湯に分かれて進んでいった。
ちらっと二人を見ると、湯に入る前なのに、理音と夕花は漂う湯の香りを含んだ空気を受けてなのか、いつもより艶やかに見えた……
脱衣所で服を脱ぎ、いちおう年頃の男子なので、腰にタオルを巻いて隠しながら浴場に入っていく。
入口でかけ湯をしているおじさんを見て、俺達も同じように体に湯をかける。
そしてあたりをきょろきょろ見回しながら、おじさんたちが体を洗っているところに同じように腰を掛けた。
俺は家と同じようにまず頭を洗い、それから体を洗っていく。
それが俺の流儀でありルーティーンだ。
まぁ特にこだわっているわけではなく、毎日の動作が染み着いただけではあるが。
ときどき少し離れたおじさんのシャワーが飛んでくるが気にしてはいけない。
こういう場では多少の我慢も必要だ、と大人に近づいた余裕というものを見せてみる。
俺は菊次郎より先に体を洗い終えると、湯船に向かった。
お坊ちゃまは体を洗うのにも複雑な作法や伝統でもあるのか、菊次郎はまだ体を洗っていた。
浴場の奥を見渡すと、腰のあたりまでが磨り硝子になった大きなガラスが壁一面に備え付けられてあり、熊本の町並みが一望できるようになっている。
看板の『パノラマ』の文句に偽りはないようだった。
あまり熱い湯は好みではないので、三十六度と電光掲示板のような黒字に赤のデジタル表示で温度が表示された湯に浸かった。
湯に足を入れた瞬間は、冷やっ、とする感じだったが、肌が慣れてくるとじんわりと体が温かくなってきた。
そうして湯に浸かって一日の疲れを癒していると、ようやく菊次郎がやってきた。
「どうだい?」
と菊次郎が聞くので
「ああ、最初はぬるめだが、だんだんポカポカしてくるよ」
と答えると、菊次郎も湯船に入ってきた。
「たぷんっ……ざざざざ……」
せっかくのお湯を大量に押しのけて、環境に優しくない体を肩まで湯に沈め、気持ちよさそうな顔をしながら
「ああ、これはいいね、長く浸かっていられそうだ」
と、少し上を向いておっさん臭いしみじみとした表情で言った。
そうして俺たち二人はしばし雑念をどこかに置き去り、心地よい温かさを味わっていた。
……かぽーん……
一方の女湯の方はというと
「理音ちゃん……そろそろだよ!」
二人は脱衣所に入ると一番奥の角を目指して早足で進んでいった。
そして夕花が周りに誰もいないこと確認すると、二人とも急いで浴衣を脱ぎかごに入れる。
そして夕花がもう一度、周囲を見回して理音に目が向けられていないことを確認すると
「今だよ!」
と合図して、パンツをおろして屈んだ理音の背に手を回し、理音のブラをつかんだ。
ブラは理音らしく背中が大きく隠れたスポーツブラであったが、それには別の大きな理由があったのだ。
「えいっ!」
夕花が力一杯に、だけれども、そっと、背中に触れないようにブラをめくり、露わになった背中には──
……知らない人間が見たら目を背けてしまいそうな、大きく、深く、生々しい傷跡があったのだ。
しかし、夕花はその傷を見つめるでも顔を背けるでもなく、以前から知っていたかのように平然としていた。
──そう、夕花だけは、この傷のことを前から知っていたのだった……
読んでくれて、ありがとーございます! 烏賊海老鮹助でっす!
今回の話、どうだったかな?
温泉と聞くと「ハプニング」を期待する人もいるかもだけど、今回はむしろ、
“裸のつきあい”の中で見えてくる心の距離感みたいなのを描きたかったのです。
理音の背中のこと、実はずっと前から伏線で仕込んでたので、
ここでやっと少しだけ彼女の内面が見えてきたかなーって感じ。
夕花との関係性もグッと深まって、女子チームの絆が増していくのはちょっと嬉しい展開!
キャラクターたちのおバカなところ以外ももっと見せていきたいと思います
あ、ちなみに碧斗と菊次郎のくだらないやり取りも、個人的にはお気に入り(笑)
お風呂ってさ、心も体もゆるむから、つい“素”が出ちゃう場所なんだよね。
……それにしても、浴衣ってなんであんなに脱げやすいんだろ?(←聞くな)
次回はもちろん、今回の話を掘り下げていきますが、青春&ドタバタ&ちょっぴり切ない、現実世界生活も待ってます!
この作品のタイトルなんだっけ?なんて書いてあったっけ?
ではでは、また次の話でお会いしましょう~!




