豚まんとたこ焼きと豚串とエポンジュと 第十話 つわものどもが夢のあと
はじめまして、またはこんにちばんわっ!
病院のベッドで暇を持て余し、勢いだけでラノベを書きはじめちゃった初心者作者、烏賊海老鮹助です!
前回の第9話は、みんなで大阪名物をひたすら満喫しまくった「食欲全開」回だったわけですが、今回の第10話は新幹線での移動中のお話。
碧斗くんが眠気と戦いながらGPSで新幹線の速度を測ったり、なんだか挙動不審だったり、理音ちゃんや夕花ちゃんたちが寝ちゃってる間に、ひとり地味にがんばって(?)いる回です。
とはいえ、旅の途中でぼんやりと外の景色を見ながら、次の目的地へ向けて気持ちを高めていくこういう時間って、実はすごく好きなんですよね。作者としては、旅のちょっとしたリアル感みたいなのを味わってもらえたら嬉しいなって思ってます。
それじゃ、のんびり第10話「つわものどもが夢のあと」を楽しんでいってくださいね~!
新幹線が動き出し、新大阪駅を出発すると、大阪のビル群が徐々に動き出し、スライドするように通り去ってゆく。
ほかのみんなは大阪名物大会で疲れたのか、みんな席を倒して目をつぶっていた。
(こんな時間から休んでいたら夜に寝られんだろ)
と頭の中で説教をしてから、車窓の外をぼーっと眺めることにした。
しばらく郊外の様子をぼーっと眺めていると、ふと遠くに大きな河が見えてきたことに気がついた。
すると猛スピードで銘番が通り過ぎ、「淀川」と言う文字がかろうじて読みとれた。
(こんなに広いんだ……)
これまで名前を聞いたことはあったが、見たことがなかった河を実際に目にすると感慨深いだけではなく
これがまだ旅の始まりに過ぎないこと、そしてこの先に出会うだろう全てのことに期待が膨らんで──
そう思った瞬間、俺の胸の奥底で、まるで交感神経がドーパミンたちと突然ダンスを踊り出したかのように、「キュンっ」と高鳴るのだった……
「ゴゥっ……」
トンネルに入るとき、意外なほどの音と振動が感じられた。
風景が見られなくなったので仕方なく、猛スピードで流れ去る照明と、ケーブルが上下に波打つさまをぼーっと眺めるしかなかった。
トンネルを抜けても、車窓から見える町並みはそれほど変わりはなく、変哲もないビルたちが、ただただ次々と現れては消えていくだけだった。
それは俺の睡魔を呼び起こすのに充分な退屈さだった。
「ふぁ……」
いかん、このままでは俺も睡魔に負けて、みんなと一緒に夜更かしの轍を踏んでしまいそうだ、と思ったとき
(そうだ……)
退屈しのぎにとふと思いつき、スマホでGPSを使って速度を測るアプリを探してインストールしてみた。
インストールが終わり起動してみると、なかなか現在地が更新されない。
(さっき淀川を過ぎたあたりでトンネルを通ったからGPS(の電波)を拾えてないのかな)
俺はスマホをいろんな角度で窓ぎりぎりに近づけては、GPSの微弱な電波と拾おうと、きっと端から見たら滑稽なほど、一生懸命にスマホを握って挙動不審な動きを続けてしまっていた。
(ふっ……、理音などが起きていたら間違いなく憎たらしいほどの悪意のある笑顔を見せて笑われていただろうな……)
一瞬そう考えて我に返り、窓に向かってスマホグリグリを続けること数十秒、ようやく速度が更新されはじめ、それはもうすでに時速百五十キロを超しそうな勢いだった。
その後も速度はジワリジワリと上がっていきすでに百八十六キロ。
パンタグラフを支える鉄柱がそれこそ飛ぶように流れてゆき、形もグニャリと曲がっておぼろげに見えていた。
さすがバレットトレインという異名を戴くだけのことはある速さだと、改めて実感させられた。
そんな感銘にふけっているとふと声が聞こえてきた。
「ぶた……えぽんじゅぅ………いゃ、ぁ、ぁ……」
それはうなされている以外の何者でもない理音の寝言だった。
寝言の主をみると、眉間にしわを寄せ唇をへの時に歪ませる、めったに見られない理音のお宝な顔がそこにあった……それにしても
『豚エポンジュ』
なんて恐ろしいものを夢見ているんだ……
想像するのもためらわれる食の非人道的生物兵器。
(きっと……いや間違いなく、夕花のへんてこ料理での拷問の夢に違いない……)
俺はそんな理音を哀れみつつ、非道にも先ほどの敗北の鬱憤を晴らすように、理音の貴重きわまりない姿を激写しようと、そっとカメラアプリを起動した。
しかし、夢の中とはいえ夕花に恐ろしい拷問を受けて苦しんでいる彼女を、これ以上苦しめることはできないという俺の中の一人の紳士が、シャッターボタンをタップしようとする俺の指を、かろうじてくい止めてくれたのだった……
しかしその一方で、記憶という別の形のカメラのシャッターをバシバシ連写して、理音の痴態(?)を激写するもう一人の紳士も存在していたことは
(決して誰にも言うまいよ)
と、俺の心の中の二人の紳士が固く握手をして、強固な紳士協定を結んだのだった……
さらに三十分ほど走ると、遠くのかすんだ空の向こうに、巨大な吊り橋のようなものが見えてきた。
その先にうっすら浮かぶのは、きっと淡路島。
もっとはっきり見えたらよかったのに──
そう思った俺は、少しだけ残念な気持ちになって、遠くに見える淡い島影を見つめた。
さらに数十分、もう新大阪から一時間は経っただろうか、さくら号が瀬戸内海の空気を猛烈な勢いで押しのけながら進んでいくと、海の向こうにさっき見えた淡路島よりもさらにかすかな陸地のような影が見えた。
地図アプリをみると、そろそろ岡山から四国、香川県の山々が見えてくるはずだった。
(あれが四国か……)
列車で通り過ぎるわけでもなく、ただ、かすかな蜃気楼のような影を見るだけ……
それでも、そのぼんやりとした四国の影は、確かに俺に深い感慨を与えてくれた。
ふと座席のほうをみると、理音は相変わらず眉間にしわを寄せていて、菊次郎はというと、前の席の夕花の足の間を貫通するように足と身体をピーンと伸ばした妙な格好で、ピクピクと痙攣していた。
前に何かの本で読んだ説明を思い出し、犬や猫が寝ているときにピクピクとする『トゥイッチ』という、レム睡眠時に見られる行動──、という説明だったことに、クスリ、と笑みをこぼしてしまった。
(見ているのは楽しい夢だろうか、それとも悪夢だろうか)
あの理音の顔を見たあとでは、菊次郎もどう考えても楽しい夢を見ているはずがない、と確信したのだった……
さらに三十分ほど経過する中で、いくつかの、新幹線の停車駅というには小さい駅を過ぎたあとに見えてきたのは、新大阪駅にも劣らない立派な眺望を見せてくれる広島駅に、さくら号はなめらかに滑り込んでいった。
ここでの停車時間も二分ほど。キオスクで売っているおみやげのお好み焼きも選んでいる時間がないほどだった。
ネットで検索したら駅構内にちょっとしたグルメ通りみたいなのもあるみたいだった。
(本場のお好み焼きは食べてみたかったな……)
そんなことを思いつつ、今度は夕花の方を見てみると、実に幸せそうな顔をしてよだれを垂らしかけ、笑みを、よく見ると不気味、邪悪さえ見える笑みを浮かべていた。
「ほんお……ふぇ……なむぷら……と……うち……」
外国語だろうか? 小さな口からなにやら呪文のような聞いたことがない音声が漏れ聞こえてきた。
(きっと、知らない方がいいに違いない……)
俺はそう確信し、漏れ聞こえてきた謎の言葉を検索して調べることを勧める、好奇心の囁きを全力で拒否したのだった。
その後も俺だけは眠気を感じることが出来ず、ぼーっといろいろなことを考えていたら、トンネルの中で実際の景色を見ることはできなかったが、眺めていた地図アプリで本州から九州へ突入する瞬間を見ることができて、その実感だけは感じることができた。
そして、さしもの俺も、新大阪を発ってから三時間近く。
車窓からは博多駅、福岡の巨大なビル群に驚かされながらも、(ああ、もうすぐ熊本だな……)という安心感に包まれていた。
そして延々と続く、のどかな田園地帯。
その景色をぼんやり眺めているうちに、俺はついに眠りに落ちていったのだった……
はい、第10話でした~!
今回は新幹線の移動中っていう地味な回だったけど、碧斗くんの心情描写とか、ぼんやりした時間の過ごし方とか、ちょっと共感してもらえたら嬉しいなって思いますっ。
みんな寝てる中、ひとりスマホ片手に挙動不審になっちゃうのって、なんかすごく青春っぽいよね。……そうでもないかな?(笑)
豚エポンジュはちょっと食べて……みたくないよねやっぱ(笑)
次回、第11話はついに九州上陸!
新たな舞台、新たなキャラクター、そして何より「方言」という新たな強敵が登場します。
ここからまたギャグと賑やかさを全開に戻していくつもりだから、期待しててね!
ちなみにやっと異世界転移のプロットを考え始めました(汗)
はい、そうです行き当たりばったりです!どーん!(理音風)
烏賊海老鮹助でした! また次回ねっ!




