第五話 「結果、見せるは勝ち取った結末」
「それでは只今より抽選を行います。
このガラガラから出てきたボールに書かれた数字の組が競技に参加していただくクラスになります。
それでは1年生から回します。」
ガラガラガラ………という音が生徒会役員の持つマイクに拾われ、雑音混じりにスピーカーから流れてくる。
3秒から5秒ほどのこの時間は、普段なら一瞬に感じるだろうが、この緊張した空気では永遠に感じられた。
コトン…という音がスピーカーから鳴った。
ガラガラ抽選機から玉が出たのだろう。
「あ、出ました。えーと……4組です。あと1クラス分、回します」
なんだか脱力感のある声が大音量で体育館に響き渡る。
ただ、俺にはこの声ですら神の様に思うことができた。
「やったー!競技出れるー!みさっちゃんのクラスも出れるかなぁ?」
「えぇ………私出たくないねんけど………」
4組には競技に出たい変態がいるのか……?
まぁでも4組で良かった………2組はとりあえず当たってない。
俺は一瞬安心した。
が、油断してはならない。あと1クラスある。
それに、1回目の抽選で、4クラスの中から2組が選ばれる可能性は25%。
しかし2回目の抽選は、3クラスの中から2組が選ばれる可能性が約33%だ。
つまり1回目より2回目の抽選の方が選ばれる可能性は高くなるというわけだ。
残るは、■■の1組、俺と瀬崎の2組、特に知り合いのいない3組だ。
再び、ガラガラガラ………という音が雑音混じりに聞こえてくる。
そして再び、コトン…という音がスピーカーから鳴った。
「えーと?………3組ですね。」
よっしゃーーーーー!!
と、叫ばなかっただけ褒めてもらいたい。
盛大にガッツポーズするに留まった。
「なぁ高橋、どんだけ出たくなかったん?」
「祐介喜びすぎやろ」
「いやぁ………競技参加よりも勝者予想の方が圧倒的に簡単やしさぁ………」
というのは建前だ。
本当の理由は、"何かあった時にアドリブで凌ぐことが難しいから"だ。
学生というのはまだまだ人間として未熟だ。
失敗することなんて大人よりも多いだろう。
そんな中で自分の失敗を笑われる、責められるのが怖いという恐怖心から自分を守るために責任転嫁するものが現れる。
また、人の失敗を責め、人を貶めるものも現れる。
体育祭のようなプログラムが定まっているものなら、普通の競技は俺に責任がなすりつけられようが俺の責任が問われようが簡単に解決しやすい。
なぜならもともとシチュエーションが想像できるため事前にいくつも対処法を用意しておけばいいのだから。
しかし仮に学年特殊枠の競技でやらかしたらどうなる?
ぶっつけ本番ということはただ練習をしないだけではなく競技の情報の一切が伏せられることになる。
生徒会や学級委員から仮に競技情報を手に入れられたとしてもその情報がそもそも嘘である可能性や、情報を入手してからの変更が行われる可能性がゼロではない。
予想していた回答が一切使用できない可能性があるというシチュエーションは怖すぎる。
準備していたものならまだしも、唐突に来たシチュエーションに適切かつ安全な返答が出来るかわからない。
仮に返答ができたとしてもそれは最適解ではない。
簡単に考えた意見ほど簡単にひっくり返されやすいのだから。
「じゃあまぁお互いの仕事全うするかぁ……」
❃
まず、競技の勝者を予想するなら行わなければならないこと。
それは3組と4組の人間のプロフィールを把握しておく必要がある。
と言っても『A、B、C、D、Eという人物について詳細に全員分のプロフィールを暗記する』というわけではない。
『クラスの中にコミュ力が高いやつが何人いる、
クラスの中に食うのが早いやつが何人いる、
クラスの中に足速いやつが何人いる………』
といった情報があればそれだけでいい。
勝者を予想する上で、その情報があれば。
借りもの競争なら―――、
コミュ力があるやつがいれば、交友関係が広いので話しかけやすいなどのメリットがあり、コミュ力が高いやつが多いほどクラス勝利に近づくだろう。
パン食い競争なら―――、
食うのが早いやつがいれば、パンを食べる時間もグッと短縮される。
食うのが早いやつが多いクラスほど勝利に近づくだろう。
そのどちらでも、走るのが早いやつが多いクラスは先の2つほどではないにしろ多少の有利にはつながるだろう。
「調べるか……」
❃
「えー体育祭の学年特殊枠の競技ですが■■■■■■でいいですかね?」
「えー徒競走が良かったのになぁーーーまぁいいけどさぁー」
学年特殊枠の内容を話し合っている生徒会室で途中――というか話し合いが終わりそうになったあたりから盗み聞きして話し合いの結果を知った私は立ち上がって足早に、だが足音を立てずに生徒会室の前から立ち去る。
スマホの録音を終了し、会話の内容が録れていることを確認してから帰路についた。
すると、どうやら裏でなにかしていたのだろうか。
高橋にしては珍しく遅く下校しているのを見つけた。
「なぁ、高橋ッ♪」
と不敵な笑みを浮かべて後ろ声を掛けると高橋は
「なぁ瀬崎ィ……」
と、こちらも不敵な笑みを浮かべ、振り返ってきた。
そして私達は即座に要件を理解し、同時にそれを口にした。
「「学年特殊枠の勝者予想、どうせどっちかが負けなあかんならさぁ、ボスを出し抜いて私/俺達が勝って一泡吹かせへん?」」
【■■】どんだけ競技参加組嫌やってんお前!
【祐介】俺からすりゃ競技参加組に決まってから叫んで喜んでた4組のあの変態のほうがわけわからんわ……
【■■】まぁ、お前が「やったー勝者予想組やぁ!」って叫ばんかったのは褒めるべきなんかな?
【祐介】やろ?
【■■】なんでドヤ顔やねんお前……