第三話 「結成、若しくは準備期間」
「よ! 祐介………、フフ、ハハ、面白すぎやろ」
驚いて豆鉄砲を食った鳩のようになっていた俺を見て、笑いをこらえきれていない■■が俺の前に現れた。
「え………■■?じゃあもしかしてお前が言ってた女幹部ってこいつなん?」
「幹部………まぁこいつに誘われて無理やりって感じやけどなぁ………」
心底嫌そうな表情をしたかと思いきや―――、
「ま、人の情報バラ撒いて、その報酬に私の知らん情報もらえるんやったら………私もより楽しく遊べるし」
人の不幸は蜜の味。そういう言葉が似合いそうな話し方だ。
クラスの女子と話しているときとは違う本気で楽しそうな顔と声色で話している。
………ん? 俺の知ってる瀬崎じゃない気がする。
もともと俺は瀬崎と関わりがあるわけではないが、クラスの学級委員で成績優秀、優しくて顔も悪くない。クラスのマドンナで、ルールに厳しいまじめちゃん。
それが今までの俺が抱いていた瀬崎の印象だ。
それが、本当は人をからかっていじめて楽しんでいる化けの皮を被った女狐だったわけだ。
「あれ?もしかして私の事、ただのまじめちゃんだとしか思ってなかったとか? なぁ■■〜! ちゃんと言っといてって言ったやん!」
「こいつにはギリギリまで言いたくなかったんよなぁー。こんなおもろい反応見れるとまでは思ってなかったけど」
「で、瀬崎はなんで出会い頭に俺を背後から襲おうとしたん?」
「いやいや。高橋が幹部って聞いて、君みたいなバカに幹部なんて務まるのか、って思ってさ」
つまりは俺を試していた、ということか。
いや、後ろから不意打ちで殴りかかった反応を見てどうすればバカか否かなど分かるんだ。やはり殴りたかっただけではないのか。
「なぁ瀬崎、昨日も言ったけどこいつは勉強はしてないけど地頭はいいから人を出し抜くのは上手いし、表では変に軽い空気出してるモブやけど、黙ってたら影薄いから尾行したり影から見てたり、情報を得るのも得意なんやで………?」
■■がフォローなのかフォローじゃないのかよくわからないフォローをしてくる。
「で、じゃあこの3人で"マウスコム"を設立ってことであってんのか?」
俺は■■に最終確認を取る。
「うん。俺はそのつもり」
「裏切ってセンセーにチクったりすんなよ?まじめちゃん!」
俺は煽りながら瀬崎にも確認を取った。
「高橋こそヘマして組織の邪魔はせんといてよ?その時は高橋の弱みでも握ってバラすから」
こうしてマウスコムとしての活動がスタートした。
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といっても、今は夏休み終盤。
あと1週間と3日待たなければ学校は始まらないし、それまでは情報網の形成も困難を極めるだろう。
学校にいれば、自然と周りにいる人物と会話することができる。そこから情報を得ることは俺に取って容易いことだ。
■■に渡すための情報を集めていた際のルートなんかはやはり学校でないと使えないし、
逆に言うと、学校に行ければ■■に渡す用の情報を交換していた人たちは情報網として機能してくれる。
彼らを簡単に味方につけた話術を使えばより範囲を広げられるかもしれない。
俺は自慢じゃないが話術には自信がある。
1学期、テスト期間中に勉強したくない時に使った技だが、2階にある自分の部屋に行く際「勉強してくるわ」とは一言も言わない。
「上行ってくるわ」と言って部屋にこもり、当然のように遊ぶ。
親は、テスト直前であること、向かったのか俺の部屋であることから俺が勉強していると勝手に勘違いしてくれるし、
俺は、上に行くとは言ったが勉強するとは言っていないので漫画を読んでようがパソコンでゲームをしていようが嘘にはならない。
こんなのは序の口で、実は俺は嘘を付かずに人を騙す事が大の得意だ。
もちろん騙すだけでなくはめること、誘導することも得意だが。
まずは体育祭。
2学期初の行事で、2学期が始まればすぐに練習や様々な準備に追われる。
初仕事は1週間と4日経ってからスタートする予定だ。
今は準備期間。本格的に活動をするための計画を、マウスコムのメンバー達は各々練り始める。
祐介はこれからどう人を騙そうか、どうはめようかと考え、不敵な笑みがこぼれる。
学級委員会のような学校行事をトップで進めていく人たちの中で揺さぶりやすい人間をリストアップし、個別に作戦を用意する。
騙すこと、はめること、誘導し吐かせたその情報を使って脅すこと。
考えるだけで楽しいこの時間だが、これはあくまで準備だ。
本格的に動き出す前に綿密に、プランを幾つも立てておく。
一つが潰れてももう一つのプランで対処できるように。
「あぁ楽しみやなぁ体育祭。」
俺は今、最高に笑っていた。