第十八話 「イルミネーション、されども訪れぬ平穏」
イルミネーション。
無数のLED電球を張り巡らせきれいな景色を作り出すそれは冬の一大風物詩だろう。
それは、ここに群がるリア充が証明してくれている。
リア充、人混み、騒音。
俺の嫌いなものが3点セットすべて揃った場所だ。
一緒に来たのがくるみでもなければ即座に逃げ出しただろう。
しかも人混みの大半がリア充で、騒音の殆どもリア充が出すもの。
そのコンボが見事に決まり、嫌いな場所として本気で一位かもしれない。と思うレベルでだ。
京都市内の人混みなども経験したことはあるがあそこは家族連れもそこそこ多い。
ここほどひどくはなかった。
「お兄ちゃ〜ん!お腹いっぱいになってきたし、イルミネーション周りますか!」
❃
「ねぇお兄ちゃ〜ん」
と言って、くるみは俺の左腕に抱きついてくる。
この状態………端から見たら仲睦まじいカップルにしか見えない。
ブルーライトと目線ををあらゆる方向から浴びながら、俺はマウスコムの下部組織がいないかできるだけ頑張って探してみる。
「お兄ちゃん、周りの目線気にしてる?」
「いや…………この人混みで堂々とイチャつこうとする方がおかしいだろ。」
「大丈夫大丈夫。お兄ちゃん私と話すときだけ敢えて標準語で喋ってくれてるからもし誰かがお兄ちゃん見つけてもドッペルゲンガーだとしか思わないって。」
ね?とくるみは言うと俺の手を引いて先へ進む。
拒否権は俺になかった。
ーーーあぁもう諦めよう。
このことが瀬崎にバレて一生ネタにされるのはもう決定だ。
それに、こいつは好きな人でも彼女でも許嫁でも嫁でもなんでもない。
ただの従兄弟だ。
そう割り切ればいい。そしてそう言い切ればいい。
と思ったのだが、
「うわーー!すっごいキレイ!」
「キレイだけど………」
「だけど?」
「人混みにもみくちゃにされて疲れた。うるさいし頭痛い。」
と言うと俺は首にかけていたヘッドホンを頭につけ、静かな曲をかける。
こうすると人混みの中でもある程度気分を紛らわすことができる。
ノイズキャンセリング機能がついたヘッドホンなので周りのある程度の声はかき消せるし、曲の効果もあってか少し落ち着く。
「ごめん………もうちょっと耐えれるかなって思ってたけど限界か…」
くるみは焦ったように俺の手を引き人気のない方向へ走る。
その時だった。俺の様子をチラチラ見ながらくるみは走っていたため、あまり前を見ていなかった。
「うわっ!」
くるみが誰かとぶつかったらしい。
ちょうどくるみが俺の方に倒れてきて、
俺とくるみの顔が重なり、唇が触れ合う。
ーーーキス、だろう。
たとえ事故とはいえ、これはまずい。
そう思っていた。
ただくるみとぶつかったのは俺の同級生だった。
そしてそいつは逃げるようにして去っていったが、
ただあれも、俺は見逃さなかった。
茂みの中からこっそり撮影しているスマートフォンのカメラを。
全てを理解したときには、頭が真っ白になった。
そこからの記憶は、あまり残っていない。
❃
冬休みが終わった。
俺とくるみのキスシーンは電波を通して色んな人の手に情報がわたり、マウスコムの影響でほぼ学年全体に知れ渡った。
「高橋祐介の彼女、現る」
そんな文字とともにイン●タのストーリーに投稿されたその動画は、瞬く間に広がった上、様々な人に保存され再投稿された。
学年中の人に質問されても、
「アレは事故!事故やから!」
「彼女でもなんでもない」
としか答えていたが、
「年下彼女」
「埼玉との遠距離恋愛」
「彼女に合わせて標準語で会話」
「ファーストキス」
様々な情報が飛び交い、揶揄され、俺はもう本当に消えてしまいたかった。
くるみは何故か嬉しそうだったが、あいつは元々頭がおかしい。
「はぁ………確実にやらかしたぁ………瀬崎とか■■とか言う以前の問題やん………」
2024年のクリスマスイブ。
その日の夜の出来事は、暗部の一角の熱い恋愛事情が発覚した大事件、“暗黒の聖夜“として語り継がれた。
❃
美術部。
ここだけは何気ない日常が残っていた。
教室や廊下で繰り広げられる質問攻めも、俺とくるみの関係を笑うやつもいない。
「冬休み、なんか面白いことあった?」
「周りが見て、面白いことなら。」
「僕は特になにもないかなぁ………高橋くんのちょっと気になるけど、触れないほうがいい?」
ここは空気を読もうとしたのか鈴木が詮索をやめようとするが、ここで説明しないほうが変な誤解を生んで俺としては不本意な結果になりかねない。
「いや、言うけどさ。
いや、実はさーーーー」
❃
「そんなアニメみたいな妹が実在するんやなぁ………いや、皮肉ではなく純粋に。」
「私も思ったけど、写真とかある?くるみちゃんの」
確か………イルミネーションの時も、夏休みに連れて行かれた夏祭りも、確かくるみから送られてきた写真があったはず。
「帰ったら送る。イルミネーションのも今年の夏祭りのもある。」
「あ、割と頻繁に会うん?」
「沖縄では毎年確実に会うなぁ………ベタベタひっついてくるのが嫌やから予定教えてないのになぜか飛んでくるからなぁ………
それと長期休みは時々遊びに来る。こっちにな。」
“俺とくるみの話“、ではなく“くるみの話“を、聞きたがっている2人にたくさん俺達のくだらない、でも話していて楽しい思い出話をして、
彼らはそれを聞いて笑い、時には驚き、あっという間に時間が流れた。
「じゃあそろそろ時間も時間ですし帰りましょうか。」
「そうやな。帰ろっか。」
「え、待って俺準備できてなーーー」
「「鬼先生からは逃げないとッ」」
薄情な。とはいえあと5分で下校しないと鬼先生に捕まる。
それは避けないといけない。
俺も急いで追いかける。
「待ってぇーーー!大輔ぇ!美穂ぉ!」
俺達の平穏は、まだやってこない。
くるみとのイルミネーションも、くるみがいたから楽しめなかったわけじゃない。
逆に言うとくるみがいないと楽しめなかった。
マウスコムがいたから楽しめなかった。
同じ理由で同じ様に誰かが苦しむなら、これは止めなくてはならない。
反乱を起こす。
これが意志としてハッキリした。
俺はマウスコムを潰す。
そのための下準備を始める。
この平穏を守るためなら、俺はこの組織とだって全面戦争することに文句はない。
それで、この平穏が保てるのなら。
奇策の裏役者 完
【祐介】大輔ぇ〜!美穂ぉ〜!待って〜〜
【鬼先生】おい高橋ィ!もう最終下校やぞ!
【大輔】(校門の外から)タカハシクンガンバレ〜
【祐介】あの薄情者が!!




