表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/216

90話 二つの想い

「みんなご苦労様だった。寧々は足の怪我は大丈夫か?」

「はい。殴られた箇所もすぐに手当てしたおかげで大事には至りませんでした」


 キュリアに殴られたふくらはぎは腫れてはいたが、適切な治療を受けたのでもう大体治っている。それに最悪わたくしにはエンジェルの飛翔能力があるので大丈夫だろう。


「今日集まってもらったのはこの前美咲の居場所を教えてくれたある人の話を聞いてもらいたいからだ」


 先日指揮官はある線から情報をもらったと言っていた。きっとその人だろう。

 会議室の扉が開かれ中老の身なりの整った男性が入ってくる。

 

 恐らくこの場にいる人間なら職業上彼の顔を知っているはずだ。ダンジョン省の大臣。いや元大臣である安寺智成さんだ。

 美咲さんがエックスだと判明してからメディアに詰め寄られ、それからすぐに大臣を辞任している。


「智成さん。今回は協力ありがとうございます。こちらへどうぞ」


 相手が相手なので指揮官もかしこまり丁寧に応対し椅子に案内する。


「そんなかしこまらなくてもいいさ。今の私はただの無職のジジイさ」


 大きな権力を持った人は態度が大きくなることが多いが、この人はそんなことはなく謙虚で礼儀正しい。

 ダンジョン省の大臣は海外相手に日本にしかないダンジョンをどう扱うか話し合ったりするので、その癖で誰にでも礼儀正しく話すのだろう。


「実は私は今まで秘密裏に田所君と会っていた。そして私の娘が……美咲が裏で違法な実験を行っていたことについて話し合っていたんだ」


 手紙の内容から田所さんが裏で動いていたのは察しがつくが、まさか智成さんまで関わっていたとは思ってもみなかった。

 

「私は田所君が調査している最中美咲の隠れ家を部下や知り合いを使っていくつか探していた。今回のもその見つけたうちの一つだ」

「なら今も美咲さんの居場所は分かるのでしょうか?」

 

 わたくしのその質問に対して彼はあまり良い顔色を返さず、渋い表情で語り出す。


「恐らく探られていることはあいつも気づいているだろう。だがこちらもあらゆる手を使って探す。一週間もらえれば居場所は割り出せると思う。

 それまで君達には心身の調整などを行ってもらいたい」


 そうだ。あの二人を止められるのはDOであるわたくし達四人しかいない。自衛隊や警察の人達じゃ蹂躙されてしまうだけ……わたくし達に全てがかかっている……


 そう考えてしまいグッとプレッシャーがかかる。前までの自分だったら耐えられなかったかもしれない。

 でも今の自分は違う。生人さんのおかげで前向きになれて、勇気をもらえて。だからわたくしは下を向かずにいられる。


 指揮官に健康に気をつけるよう一言言われ会議は終わりとなる。

 指揮官が智成さんを連れていき、それに続いて生人さんも部屋に戻っていく。


 わたくしも自室で怪我した部分をマッサージでもしようかと思ったが、じっと鋭い視線を生人さんに向ける風斗さんのことが気になってしまいその場に留まる。


「真太郎さん? どうしたの?」


 それには椎葉さんも気づいており、彼は生人さんが部屋に入ったのを確認してから口を開く。


「生人について例の件……あのことをずっと考えてしまうんだ」

「あの件ですよね? でもそれはこの前指揮官と話し合って方針を取り決め……」

「俺の妹が災厄の日に死んだって話は知っているか?」


 初めて聞く話だ。

 確かにそれならこの前アイ……椎葉さんが妹に似てるという話をした時どこかもの悲しげな表情をしていたことに説明がつく。

 

「生人は大事な後輩だ……田所先輩の意思も尊重してあいつを守りたい……その考えは間違いなく俺の中にあるんだ」


 風斗さんは頭を抱えながらも話し続ける。目も口からも感情が感じ取れない無表情のまま。


「それでも、あいつさえいなければ妹が死ぬことはなかった。あんな悲惨な目に遭うことはなかった。そう考えてしまうんだ」


 生人さん……つまり寄生虫はダンジョンを生み出した……災厄の日を発生させた原因そのものだ。

 災厄の日に親族を失った人は多い。だからこそサタンに対して恨みを持つ人も少なくないし、結果今の風斗さんのような心情となるのも理解できる。

 実際わたくしはそのことについて上手く反論することができないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ