85話 修羅場
狼人間のサタンを倒してから十分ほど経ったが、サタンの数は一向に減る気配がない。
そしてサタン達は不可解な行動を取っており、それがわたくしの中に一抹の不安を掻き立てる。
サタン達は避難している人などを積極的には襲おうとはせず、この建物の破壊にこだわっている。
壁を壊したり天井に頭突きをして穴を開けたり。この葬式場を崩したいかのように感じ取れる。
最悪崩されたとしてもわたくし達は変身しているので大丈夫だろうし、避難ももう済んでいる。
だがまだ田所さんの遺体がこの式場内にある。
今サタンと戦える者は手が離せず遺体を運んでいる暇などない。もしここを崩されたら田所さんは埋もれ燃やされてしまうだろう。
「生人さん! 応答してください!」
わたくしはランストに向かって声を張り上げる。先程から生人さんに連絡を取ろうとしているが、一切応答しない。
もしかしたらお手洗いに行っている際に変身していない状態でサタンに襲われたのではと考えてしまうが、そんな不安を押し殺して今は目の前のサタン達の処理を行う。
「寧々ちゃん! アタシはこっちに行くからそっちは任せていい!?」
別れ道に当たり、椎葉さんがわたくしとは違う道に進もうとする。
「はいお願いします! それと何か応援が必要な場合はすぐに連絡を!」
「了解! 任せといて!」
わたくしは彼女とは違う道を進み、そこで数十体ものサタンを倒していく。
ダメージはないが走りながら戦っているので流石に疲労が溜まり、一旦止まり呼吸を整えようとする。
壁に手をついた瞬間凄まじい衝撃と爆音が辺り一帯を覆いわたくしはその場に尻餅をついてしまう。
「一体何が……」
音が止み辺りを確認しようとしたが、上から降ってきた瓦礫に押し潰され視界が遮られ暗転する。
「熱っ!!」
火を纏っている瓦礫もすぐ側にあるため、まるで熱された鉄板を体に押し付けられているような感覚に襲われる。
そんな中に長居はできず、わたくしは瓦礫を押し除けその上へ飛び出る。
「寧々ちゃん大丈夫だった!?」
瓦礫の山の上にはもう既に風斗さんと椎葉さんがおり、そして生人さんの姿はなかった。
「わたくしは大丈夫です。それより生人さんは……」
最悪の状況が脳裏を掠めたが、それは杞憂で終わってくれる。
背後で瓦礫が吹き飛び、その中から生人さんが飛び出てくる。
「痛ててて……何が起こったの?」
体に付いている埃や炭などを叩き落としながらこちらに事情を尋ねてくる。
「生人さんこそ何してたんですか!? 心配したんですよ!?」
安堵のあまり肩を掴み抱きしめそうになるが、今この場には椎葉さんと風斗さんも居ることを思い出しギリギリのところで踏み留まる。
「トイレに入ったら急に眠くなって……気づいたらすごい爆発音がして咄嗟に変身したんだ」
「つまり生人さんは今まで寝ていたということですか?」
こんな緊急事態に、それ以前に葬式中に寝てしかもわたくし達からの連絡も聞き逃していた。
それはDOとしてありえない態度であり、生人さんの言うヒーロー像からもかけ離れている姿だ。
彼もそれを自覚しているようで俯きごめんなさいと一言呟くとそれ以上は何も語ろうとはしない。
「生人。お前は本当にトイレで寝ていただけなのか?」
瓦礫の上を歩きながら風斗さんが生人さんを問い質す。
どこか言葉に棘があり、何か含みのようなものもある。
「すみませんでした」
生人さんは自分に非があるので素直に頭を下げ謝る。
だが風斗さんは態度を一向に変えない。寝過ごしたことはどうでもよいかのように。
「なぁ。もしかしてこの建物を燃やしたのはお前なんじゃないか?」
風斗さんは生人さんに剣を向け、言葉に籠らせた刃を更に鋭くさせる。
「えっ……そ、それは。そんなことないよ!」
「何で今一瞬言い悩んだ? 何かやましいことでもあるのか?」
風斗さんは剣を向けたまま生人さんに詰め寄り、その切先はついに生人さんの喉元に届こうとする。
「真太郎さん!! ストップ!!」
椎葉さんが背後から彼の両腕を抱え上げ切先を生人さんから逸らす。
「そうですよ風斗さん! 生人さんがそんなことするわけ……」
わたくしはそう言いかけるが、この前の田所さんの手紙の内容を思い出してしまう。
生人さんは人間ではない。寄生虫という名の化物なのだと。
「僕はやってない!! 信じてよ……!!」
今度は言い淀みなく口調を強くして否定する。
「悪かったな……俺も疲れてどうかしていたよ」
風斗さんも剣を下ろしてくれて、とりあえずこの修羅場はどうにかなってくれた。
だが問題がなくなったわけではない。
田所さんの遺体は今頃原形も残らない程グチャグチャになり燃やされてしまっているだろう。
それに今あるわたくし達のこのギスギスとした空気はそう簡単には治ることはないだろう。
わたくし達の物語はより一層悪い方へ進んでいる。その確信が今自分の心を蝕み続けているのだった。




