83話 葬式
あの事件から二日後。僕達DOは田所さんの葬式に出席していた。
入り口で涙を流す田所さんの親族だと思われる人達。それに警察時代の同僚も来ている。
「寄元さん。浩一郎が死んだって、本当なんですか? 俺……今でもあの人が死んだって信じられなくて」
その同僚の内の一人が父さんを見つけるなり近づき暗い声をかける。
「残念ながら……オレも信じたくはなかった……」
同僚の内の何人かはこの一言で田所さんの死を余計に実感してしまったせいか泣き崩れてしまう。
「喉乾いたな……」
葬式が始まるまではまだ時間はあり、僕は自販機を探すべく辺りを彷徨う。
「生人くんどこか行くの?」
葬式会場の外に出て自販機でも探そうと思ったが、外に出る直前に椎葉さんに呼び止められる。
「ちょっと飲み物を買いに行きたくて」
「お水なら口つけてないのあるけどいる?」
椎葉さんは僕にペットボトルに入ったお水をキャップを開けて渡してくれる。
「うんありがとう!」
僕はそのペットボトルの半分は飲み、キャップを閉め手に持ちみんながいるところまで戻る。
「なぁ生人」
二人で戻るなり風斗さんが話しかけてくる。彼は前日のお通夜の時から妙に僕を避けているような感じがしたが、それは気のせいだったのか今は平然としている。
「どうしたの?」
「お前最近体に違和感はないか? 不調とかそういうのは……」
「特にないけど……それがどうかしたの?」
まるで保健室の先生のように体調を尋ねてくる彼に疑問を覚えながらも、とりあえずの返答をする。
「そうか……いや、何でもない悪かったな」
様々な感情を噛み潰し堪えているように下唇を噛み締め、また昨日のようなよそよそしい態度に戻ってしまう。
それから椎葉さんや峰山さんと話しているうちに時間がきて葬式が始まる。
僕達は用意されている白い椅子に座り、お坊さんの念仏を聞く。
「……舍利弗 上方世界 有梵音佛 宿王佛 香上佛 香光佛 大焰肩佛 雜色寶華嚴身佛 娑羅樹王佛 寶華德佛 見一切義佛 如須彌山佛 如是等……」
念仏が進んでいくにつれてより一層田所さんの死を意識してしまう。
視界の端にある田所さんの棺桶が目に入り、その中の安らかに眠る彼の顔が見える。
つい数日前まで明るい笑顔を振りまいていた彼が、今はもう一言も喋れなく静かになってしまっている。
僕も近いうちにこうなってしまうのだろうか? 美咲さんに殺されてしまうのだろうか?
田所さんの手紙はみんなにもあったらしく、美咲さんが犯人だということはみんなにも伝わっていた。
でも僕はあの日美咲さんに持ちかけられた話を誰にも言えずにいる。
こっち側に来ないかという美咲さんからの提案。つまり寝返れという誘い。そのことをあの日以降僕は誰に対しても口にしていない。
頼りだった先輩は死に、僕を育ててくれた人がその犯人で僕に今いるここを裏切れと提案してきた。
頭の中で情報がぐちゃぐちゃになり、シェイクされたものが何度も心にぶち撒けられる。
何が正しいのか分からなくなり、より一層気分は沈み吐き気が込み上げてくる。
でも……例え美咲さんが悪い人だとしても、あの人なら、あの日僕を助けてくれたヒーローが僕の心の中にいる。
災厄の日に僕を助けてくれたヒーロー。生き方を示してくれたあの人の言葉が今も心の中で生きている。だから僕は心を保つことができている。生きていることができる。
それでもどこか心の片隅で寂しさが蠢き僕の心を苛む。田所さんと美咲さんを失って欠けた心のピースは大きく、自分自身を勇気づけるだけじゃ到底埋めれそうにはない。
ねぇ今どこにいるの……また助けに来てよ……!!
十年も行方も正体も分からない人物に僕は助けを求めてしまう。縋ってしまう。それだけ僕の心は憔悴している。
そんなことを考えていたせいか気分が悪くなってしまい、特に腹痛が酷くなる。
「父さん……ごめん少しトイレ行ってくる」
「分かった。静かに行けよ」
父さんと小声で話し、僕は田所さんに申し訳ないと思いながらも席を外しトイレに向かうのだった。
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重要なお知らせ
今回の話を最後に寄元生人は主人公を降板とします。
これからは峰山寧々を主人公とし、彼女視点で物語を書き進めていきますのでどうかこれからもこの作品をよろしくお願いします。




