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82話 暗雲(峰山視点)

 生人さんが無言で部屋に戻り、わたくしも自分の部屋に入り紙袋の中身を確かめる。

 中にはわたくしのお気に入りのブランドの化粧品などが数個入っており、口紅に貼り付けあった紙には"生人ちゃんとのデートにはこれを使ってね❤︎"とふざけたことが書いてあった。


「もうこの小言や冗談も見聞きできないのですね……」


 いつも一言余計な人だったが、頼りになりわたくしがDOに入った当時も色々丁寧に教えてくれた。

 化粧品の他には手紙が一枚入っており、そこには衝撃的な内容が書かれていた。エックスの正体がキュリアではなく美咲さんだということ。あの廃工場にいた謎の変身者が美咲さんだということ。

 信じられないことが手紙には書かれていた。


「あれ? まだ続きがある……え? これは……」


 手紙に空白があり、その続きには戸惑いの声を漏らしてしまうのも当然な内容が赤字で書かれていた。


『ここから先の内容は生人ちゃんには決して見せるな』


 わたくしはまるで注意書きにも思えるそれを読み続ける。


『ここから先に書いてある内容は生人ちゃんには絶対に伝えないでくれ。そしてこれは自分の本当の最後の頼みだ』


 黒字に戻り、力強く書かれた字を読み進める。段々と胸の鼓動が速くなる。モールで生人さんに告白しようとした時とは違う緊張がわたくしを襲う。


『まずは生人ちゃんの正体についてだ。あの子はこの地球にダンジョンを生み出した寄生虫が取り憑いた人間だ。

 その寄生虫は宇宙を飛来して生命がいる星を見つけそのを無茶苦茶にして遊ぶ存在で、あの子も例に漏れず地球で遊ぼうとした。そして地球に自分の一部を寄生させダンジョンを創り出した』


 そんなわけがない。あの生人さんが、わたくしの心を闇から救ってくれた光そのものである彼がそんな存在ではないと強く願おうとした。

 だがその時いくつかの記憶が脳裏をよぎる。


 今までは天才なのだと自分を納得させてはいたが、それにしても明らかにおかしい彼の多彩な才能。人外的な身体能力。

 胸を貫かれなお生きていたという風斗さんの報告書。

 この前のキュリアと一戦。彼の雰囲気が変わったかと思えば、ランストがありえないレベル表記をしたこと。

 

 そして今のわたくしのアーマーカード。彼の叫びに応じて、正に何かが寄生して今のものに変化したかのようにも捉えられる。


 彼が寄生虫だと考えればこの全てのことに辻褄が合ってしまう。


『今から書いてある内容が自分からの最後の頼みだ。

 生人ちゃんは今寄生虫としての記憶を失っている。ただの純真無垢な人間だ。生物学的や倫理的にそうでなくても、自分はあの子を一人の人間として扱う。

 だからみんなは生人ちゃんがこの真実を知らないように手を回して欲しい。真実を知って記憶を取り戻したらきっとあの子の心は壊れてしまうから。

 これが頼みだ。あの子を守ってあげて欲しい。DOにこれ以上犠牲を出さないで欲しい。

 みんなのことは心の底から大切な仲間だと思っている。今までありがとう』


「生人さんが……寄生虫……ダンジョンを生み出した……」


 ありえない信じたくない。

 目を背けたかった。今すぐにベッドに飛び込み今日のことは全て夢だったと思い込みたい。

 だけどわたくしは逃げるわけにはいかなかった。田所さんの最後の頼みを見て、これだけはやり遂げなければと決意する。


 その時携帯に一つの通知がくる。メールアプリの新しいグループに招待されたようだ。

 それを確かめてみると、それは今いるDOメンバーのうち生人さん以外の四人で構成されたものだ。


『今すぐオレの部屋にみんな来てくれ。生人には絶対に気づかれるな』


 わたくしは音に注意してゆっくりと部屋から出る。廊下にはもう既に風斗さんと椎葉さんがいた。

 言葉はなかった。今声を出すことは生人さんに気づかれる可能性があることをみんな理解している。

 そのまま三人で指揮官の部屋に入る。


「来てくれたな……」


 指揮官の部屋の机には手紙が置かれており、きっとあの赤字で書かれた以降の内容を読んだことが表情からも察せられる。


「田所先輩の手紙の、赤字以降の文ですよね。俺も読みました」


 やはりわたくし以外の手紙にも書かれていたようだ。反応的にもみんな同じ内容だったのだろう。


「でも生人くんがそんなこと……アタシは信じられません」

「例え本当でもそうでなくても、オレは真実を生人に伝えず、田所の意思を尊重しようと思う。みんなもそれでいいか?」


 暗くより重くなる空気の中、指揮官は重々しく口を動かす。

 断る理由もなくその頼みはみんな受け入れたが、気持ちは一向に晴れずわたくし達の運命は先が見えず暗い道へと進んでいくのだった。


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