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81話 遺言

 DO本部の待機室。今この場にはメンバー全員がいる。田所さんを除いて。

 全員がいるというのに数分経っても未だに誰も喋らない。この重苦しい空気に押し潰され話せない。


「田所が死んだというのは……本当なのか?」


 最初に開口したのは父さんだった。

 現実を認めたくなく、もしかしたらの可能性を信じてこちらに訴えかけてくる。


「先輩は謎の変身者に腹を貫かれ……亡くなってしまいました」


 僕達に言わせるべきではないと配慮してくれたのか、言い辛そうにしながらも風斗さんが返答してくれる。


「そうか……」


 父さんと田所さんはDO設立から一緒にいた仲間だ。十数年共に助け合ってきた戦友を失ったショックは計り知れないだろう。

 父さんはしばらくこの悲しみから抜け出せないだろうと思ったが、すぐに動きを見せる。一旦自分の部屋に行き四つの紙袋を持って戻ってくる。


「これは田所からお前らへのプレゼントだ。この前の定例会の後にオレの部屋に持ってきたんだ。

 もし自分が二十四日の夜に戻らなかったらこの袋を後輩達に渡してくれって言葉を残してな」


 袋にはそれぞれ名前が書いてあり、父さんはそれぞれ名前通りに僕達に紙袋を渡してくれる。

 僕は最後の彼の気持ちが籠っているような気がして、早速袋を開けようとする。


「待て生人。田所からは各自の部屋で一人で開けてくれと言われてある」

「どうして?」

「理由はオレも分からない。ただ……あいつの最後の頼みだったんだ……」


 僕は手を止め何も言わずに自分の部屋に戻る。あぁ言われて無視する人なんて存在しないだろう。

 自分の部屋の椅子に座り、勉強机に袋を置き開封する。

 中に入っていたのは僕が前から欲しいと思っていた漫画や使いやすい文房具だったり無難なものだ。


「手紙……?」


 その他に一枚の紙が入っており、そこには手書きで文字が書かれている。

 これが田所さんの僕への遺言。そんな気がしながら重苦しい気持ちを振り切って手紙を読み始める。


『この手紙を読んでるってことは自分はもういないことだろう。なーんて陳腐な言葉は置いといて、生人ちゃん。メリークリスマス! 自分がいなくて寂しいと思うが、まぁ楽しくやってくれよ!』


 いつものあの人の調子だ。文字なのにまるで側に彼が居てくれて声をかけてくれているような気がする。


『おふざけはここで終わりにして、早速本題に入ろうと思う。エックスの本当の正体についてだ』


 字が濃く丁寧になり、そして書いてある内容を見て僕は胸が締め付けられる感覚に襲われる。

 あの時田所さんを殺した人物の声。それは美咲さんのものだった。聞き間違えるはずがない。美咲さんとは十年の付き合いなのだから。


『エックスの正体はキュリアではない。本当の正体は安寺美咲だ。

 今までそのことを知りながら黙っていたのは奴の本当の目的を聞き出すためだった。今までみんなに伝えれず一人で動いていたことは申し訳ないと思っている』


 最悪の予想が当たってしまう。今まで悪事を働いていたのは、僕を殺そうとしてきたのは美咲さんだった。

 頭の中が真っ白になってしまう。その後に続いている内容を見て、更に胸が締め付けられ呼吸をするのさえ辛くなる。


 美咲さんが研究のために災厄の日を起こしたこと。美咲さんとキュリアが裏で繋がっていたこと。

 他にもたくさんの彼女が犯した悪事が書かれていた。


「美咲さん……そんな……」


 僕と遊んでくれて、美味しいものも食べさせてくれていっぱいよくしてくれた、優しい彼女との思い出。

 それと先程の田所さんを殺す美咲さんの姿が交互にフラッシュバックして、どちらが本当の彼女か分からなくなり、吐き気と頭痛が止まらなくなる。

 無意識に手がスマホの方に伸びており、美咲さんの電話番号を入力していた。


「美咲さん……違うよね……そんなわけ……」


 最後の希望に縋るように通話ボタンをタップする。


「どうしたんだい生人君?」


 美咲さんは電話に出てくれて、自然に応対してくれる。まるで田所さんの一件を知らないように。

 やっぱり美咲さんはこの件に関わっていないのだと。きっとこの手紙も田所さんの勘違いなのだと希望という虚像を作ってしまう。


「違いますよね美咲さん……? 美咲さんは……」

「あぁところでなんだが、生人君もこっち側に来ないかい? 君がいてくれたらすごく助かるんだよ」


 美咲さんはいつものあの声で、僕を遊びに連れていくようにサラッと聞き流せないことを言う。

 

「こっち側ってどういうことですか?」

「もう分かっているんだろう? いつまで嫌なことから目を逸らして子供気分でいるつもりだい?」


 その話し方は自分の子供に説教をするような、子供に嫌いな野菜を食べなさいと怒る母親のような声色だ。

 

「私が田所君を殺した。これが現実だよ」

「どうしてそんなことを!? 田所さんが何をしたっていうんですか!?」


 驚きや悲しみを抑え込み、僕は激昂し初めて美咲さんを怒鳴りつける。


「交渉は決裂ということだね。でもこちら側に来たいというならいつでも歓迎だから、心変わりがあったらまた電話してきていいよ。

 じゃあね。生人君」


 一切声色を変えずに普段通り話し終え電話を切る。

 僕の心の中と部屋に虚しい電子音が響くのだった。

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