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80話 最期の言葉

「何ですかこのサタンの数は!?」


 モールから飛び出して峰山さんに捕まりサタンがいるという場所まで飛んできた。

 そこは十年前の災厄の日に特に被害を受けた場所で、復興もまだできておらず今も人はあまり住んでいない地帯だ。

 そこには数十体ものサタンがいる。ダンジョンが出現していないのにこんなことが起こるなんてありえないはずだというのに。


「まさか……」


 峰山さんに掴まりながら、僕の中にある一つな説が思い浮かぶ。

 風斗さんが書いた報告書にはエックスがサタンを召喚したとの記載があった。


「生人さん? どうしたのですか?」

「えっ、あぁごめん何でもない。被害が出る前にさっさと倒そう!」


 エックスは、キュリアは今も捕まっている。そんなことありえるはずがない……


 疑問と不安を抱きながらも、目の前の問題をまず何とかするべく拳に力を入れるのだった。



☆☆☆



 レベル20の力もあり、風斗さんと椎葉さんもすぐ合流してくれたのでそう時間はかからずサタンを殲滅する。


「ふぅ。何とかなったね! ところで田所さんはどこにいるんだろう? アーマーの能力で素早く走れるはずなのに……」


 ただ田所さんの姿は今も見えない上に連絡もない。


「田所先輩ならどこかで何かしらやってくれてはいるだろ。あの人はあぁ見えて有事の時は本当に頼りになるからな」


 この中では風斗さんが一番あの人と付き合いが長い。五年くらいになるだろうか、あの人については熟知している。

 サタンを取り逃してしまってないか目撃情報を探ろうとランストを操作するが、ちょうどその時父さんから連絡がくる。


「お前ら今すぐ近くにある左坂廃工場に向かってくれ! そこで田所の変身反応が急に途切れたんだ!」


 変身を解く。どこかにサタンが潜んでいる可能性がある中自分からそんなことをするなんて考えられない。

 田所さんは何者かに変身を解除させられたと考える方が自然だ。つまり今彼の状態は……


[スキルカード 疾風]


 真っ先に僕が廃工場に向かい、疾風のスピードには遅れてしまうが他三人も僕の後を追って走り飛ぶ。


「田所さ……ん……!?」


 道を曲がり廃工場に辿り着く。そこには脳のキャパシティを遥かに超える情報が、信じたくない光景が広がっている。


 田所さんが壁に鉄の杭で磔にされてしまっていた。左手と右肩に打たれており、そこだけで全体重を支えている。

 よく見れば氷で止血されているとはいえ右腕を切り落とされている。

 田所さんの顔は苦痛に歪んでおりいつものおちゃらけた、それでもって頼りになる彼の面影はない。


「生人君か……」


 磔にされた彼の目の前には謎の変身者がおり、その口から放たれる声は……声は、美咲さんのものだ。


「美咲さん……? 何を……?」


 僕の質問に返ってきたのは言葉ではなかった。美咲さんは田所さんの腹部を手で貫き、確実に致命傷となるダメージを与える。

 赤い鮮血が噴射され、辺りに飛び散り美咲さんの鎧を汚す。

 だがそれは雨によってあっという間に洗い流され、地面に赤い道が作られていく。


「田所先輩!? 誰だお前!!」


 風斗さん達もここに到着して、この状況に困惑しながらも美咲さんに敵意をぶつけ臨戦体勢を取る。

 だが美咲さんは戦おうとすらせず、跳び上がり屋根に乗りそのままどこかに去っていく。


「田所さん!!」


 僕は追いかけようなんて一切思わず、すぐさま田所さんに駆け寄る。

 風斗さんは変身を解きスマホで救急車を呼ぶ。


 DO入るにあたって学んだ応急手当なら今でもしっかり覚えている。それをしっかりすればまだ……


「がはっ……はは……もう助からねぇよ」


 まだ辛うじて意識があった田所さんが血を吐きながらも話し始める。

 それは消える直前に一層強くなる炎のようだ。


「生人ちゃん……よく聞けよ……」


 震える声で、消え入りそうな声で途切れ途切れに話す。僕はそれを必死に聞き逃さないよう全神経を耳に集中させる。

 

「生人さん! 早く手当てしないと……」


 一手遅れてしまったが、峰山さんも手当てしようと駆け寄ってくる。杭を抜きそこをすぐに止血しようとするが、田所さんは彼女の手を振り払い僕の肩を強く掴む。

 それは死にゆく人とは思えないほど強く、最期の力を振り絞っているようにも思えてしまう。


「何があっても……生人ちゃんは生人ちゃんだ。例え何者であろうと、自分の可愛い後輩だってことには変わりねぇんだ……だから…………………」


 最後に声が出せないほど衰弱しても口をパクパクと動かし、それすらもしなくなると地面にバタリと倒れる。


「田所さん!!!」


 彼を抱え揺さぶってみるがもう反応すら返ってこない。もう、彼のあの冗談やからかいをその口から聞けることはない。


「あぁ……ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 今僕の手の中で、最高の先輩だった、憧れの先輩だった彼はどんどん冷たくなっていき、生命の鼓動が失われていくのだった。

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