表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/216

71話 からかい


「じゃあちょっとお姉さんの昔話とかしてもいいかな?」

「うん!」


 椎葉さんの表情に雲がかかったように見えたが、それは僕が明るく声を返した後すぐに晴れる。


「アタシ昔はこんな性格でもなかったし、こんな活発でもなかったんだ。ずーっと家に引き篭もって、外にすら出なかった。光を浴びてこなかった……」


 今の彼女からは考えられない話だ。

 椎葉さんは明るく、教室でずっと本を読んでる静かな子と騒がしいギャルかどちらに似ているかと聞かれれば僕は迷わず後者を選ぶだろう。

 

「でも、それなら今の椎葉さんみたいな性格になるきっかけがあったってことだよね?」

「きっかけはあるテレビ番組だったの。アイドルの子が必死にダンスしてて、観客が歓声を上げてとってもキラキラしてた。

 だからアタシもそんな風になりたいって、暗いままじゃなくもっと明るく振る舞える、みんなの注目を集められるような最高のアイドルになりたいなって思ったんだ」


 彼女のしてくれた話は僕のヒーローを目指すきっかけの出来事と似ている。

 僕も五歳までずっと虐待され、陽の光も愛情すらも受けずに育ってきた。だが災厄の日に全てが変わった。ヒーローに助けてもらい、初めて愛というものを知った。

 僕にとってのヒーローが椎葉さんにとってはそのアイドルの子だったのだ。


「やっぱりアタシ達似てるよね〜ふふっ。なんだか文化祭のライブが楽しみになってきちゃった。

 当日はアタシもお忍びで行っちゃおうかな……あ、そうだ! アタシが生人くんのお姉さんって体にしていいかな? そうして生人くんに色々案内してもら……」


 何のつもりなのか分からないが、僕に抱きつき柔らかい体を押し当てた時扉がノックされ、そのままの姿勢で椎葉さんが返事する。


「椎葉さん。生人さんはそちらにいらっしゃいますか?」


 峰山さんの声だ。どうしたのだろうかと思ったところ、僕は自分のスマホに通知が来ていることに気づく。どうやら先程のダンス中に着信が来ていたが音が掻き消されていたようだ。


「なるほど……面白いことになりそうだね。いるよー! 鍵も開いてるから入っていいよー!」


 椎葉さんがいやらしい笑みを浮かべ、抱きしめる力を強め僕を逃げれなくする。


「え? い、痛いよ! 離してよ!」


 悲鳴を上げる体の意思を代弁するかのように訴えても椎葉さんは何も返してくれず、この体勢のまま扉が開かれ峰山さんが部屋に入ってきてしまう。


「何……してるんですか?」


 峰山さんの表情が一瞬硬直した後明るさが籠っていない笑みに変わる。瞼がピクピクと動いていて明らかに不機嫌になっているのが見て取れる。


「椎葉さんが急に……」

「え〜。別に〜? アタシ達がイチャイチャしても寧々ちゃんには関係ないでしょ? 二人とも付き合ってるわけじゃないんだから」


 椎葉さんは喋ってる僕を邪魔するように言葉を被せ、胸を顔に押し付け話せなくする。


「あのっ! 椎葉さんこそお付き合いしていないのならそういうのはやめてくださいっ! 適切な距離を取ってくださいっ!」


 峰山さんが僕の肩を掴み無理矢理グイッと引っ張り上げる。僕は椎葉さんの拘束から解放され、今度は峰山さんに抱き抱えられる。

 指が僕のお腹に食い込みギチギチと鈍い音を立て鋭い痛みが走る。


「あらら〜寧々ちゃんって独占欲強いんだね〜本当に生人くんのこと好きなんだから」

「なっ!? そ、そういうわけではありません!」


 峰屋さんが前振りなく手を離したせいで僕は地面に叩きつけられ尻餅をついてしまう。


「あっ。すみません生人さん。大丈夫ですか?」

「うん大丈夫……それで何か僕に用があるの?」


 二人の会話はよく分からなかったが、とにかく峰山さんは僕に用があるということなのだろう。


「いえ文化祭の出し物のためにラスティーの写真を撮る必要があったので……」

「分かった! じゃあ早速撮りに行こう! あ……椎葉さんの用事は……」

「あーアタシの方はもう大丈夫だよ。色々確認はできたしね。そっちに行ってもらっていいよ」


 椎葉さんの用はもう済んだみたいなので、僕と峰山さんは部屋を出ようとする。


「あっ! 寧々ちゃん最後に一言」

「……何でしょうか?」

「さっきはいじわるしちゃってごめんね。でも本心を言うとアタシは寧々ちゃんの恋を応援してるからね!」


 峰山さんは顔を赤くして、黙って早足で部屋を出て行ってしまう。僕は困惑しながらも彼女についていく。


「峰山さんって誰か好きな人がいたの? 僕も応援してるよ!」


 峰山さんは紅潮した顔を戻さず、それに加え拳を強く握り締めプルプルと震え出す。


「あはは……ありがとうございます」


 目が笑っていない彼女と共に、地獄のような空気の中撮影を行うことになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ