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69話 コラボライブ

 お店の中に入るなり肉のジューという焼ける音とお肉の匂いが僕の五感を刺激する。

 ここから見える位置にある席の人が、自分のテーブルでハンバーグを焼き石で焼きながら食べている。


「お客様。お予約していた椎葉様でしょうか?」

「はいそうです」

「席にご案内します」


 店員さんに案内され僕達は外の夜景がよく見える席に着く。

 このお店は街中のビルのそこそこ高い階にあるので、窓を覗けば綺麗な灯りが灯った家々が見える。まるでドラマなどで見るデートスポットのようだ。


「お二人はご家族や親戚などでしょうか?」


 店員さんが厨房に戻る前にこちらに一つ尋ねてくる。


「僕達は家族じゃないです」

「でしたらこちらのカップル限定の商品もありますのでぜひ味わってみてください」

「へ……?」


 店員さんはメニュー表のある部分を指差す。

 どうやらこのお店では期間限定で、ハート型のストローが刺さったこのお店のオリジナルジュースをカップル限定で頼めるらしい。


「いや僕達は……」

「わー! これすっごい美味しそー! 頼んでみようよ!」


 僕の言葉を遮るようにして、椎葉さんが僕の腕にしがみついてくる。

 とりあえずここは彼女に話を合わせて、適当に美味しそうなものを注文して店員さんが厨房に戻る。


「もしかしてこのジュースが頼みたいから僕を誘ったの? 予約を間違えたのも嘘で」

「う〜んどうだろうね。でもアタシは本心で君と一緒に食べに来たいな〜って思ってたのは本当だよ」


 椎葉さんってアイドルやってるせいか表情作るのが上手で何考えてるか分かり辛いな……何か壁がある感じもするし。


 椎葉さんはボディタッチなども多く、パッと見は誰とでも積極的に仲良くする、他人と壁を作らないタイプに見える。

 しかし彼女は明らかにアイという女性を演じている。舞台に立っていない今でさえもアイで居ようとしている。

 もちろんそこに本心がないわけではないだろう。僕や他のDOのメンバーのことはちゃんと仲間として大切に思ってるだろうし、別に邪な感情があるわけでもない。


 それでも彼女は理想の自分を演じて僕達との間に壁を作ってるように思える。

 何故ならその姿は日頃ヒーローを演じている自分とよく似ているから。


「そういえば生人くん最近体調どう? 変なこと起こったりしてない?」

「特にないかな」

「そっか……なら良かった。ところで報告書には光が漏れ出した時に眼球内に虫がいるようだったって記載があったけど、あれどんな感じだったの?」


 数日前のキュリアと戦った時のことが脳内にフラッシュバックする。

 そして今から美味しいご飯だというのに食欲が失せてしまう。あの虫が蠢く光景と、中世風の街が燃え人が次々に死んでいく景色を思い出してしまったから。


「あ、ごめんね。食事前にあんまりこういうお話はしたくなかったよね……」

「でも、あれが何だったとしても僕がやることは変わらないよ。ヒーローであり続けるだけだから……僕は」


 あれが何だったのかは結局分からず仕舞いだったが、それでも僕の中にはあの時助けてくれたヒーローがいてくれるから、精神を真っ直ぐに保てることができる。


「やっぱりアタシ達似てるね。アタシは最高のアイドルに、生人くんは最高のヒーローになりたい。そっくりなのに……」

「椎葉さん? どうしまし……」

「カップル限定ハートミックスジュースでございます」


 店員さんが大きなグラスに注がれハート型のストローが刺さったジュースを持ってきて机の上に置く。

 

「わー大っきー! 一緒に飲も!」


 カップルの演技なのか、先程とは声のトーンを変える。話をはぐらかすように。

 でも単純な僕は目の前の美味しそうなジュースを前にしそのような余計な考えは消え去ってしまう。


 お互いにハートの反対側ずつについている飲み口に口をつけてジュースを吸い始める。

 林檎にオレンジにブドウ。色んな果物の味が口の中に広がり、どれかが主張しすぎるということもない良い味だ。


「そういえば生人くんはアタシが文化祭でライブやるってこともう知ってる?」


 ジュースが半分ほどまで減ったあたりで椎葉さんがストローから口を離す。


「今日友達から聞いたよ。応援してるから頑張ってね!」

「うんそれはありがとう。それで一つ君に頼みがあるんだけどいいかな?」

「頼み? 僕にできることなら何でもするけど……」

「アタシと一緒にライブやってみない?」


 

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