60話 カマキリ
入った途端にあまりの雨の強さに田所さんが数歩下がろうとして、ツルッと滑りその場に尻餅をついてしまう。
「いてて……たっく何だよこの雨の量。ゲリラ豪雨より強くない?」
門ができている場所は大きな岩の上で、他より標高がそこそこ高いおかげでまだ浸水はしていない。
とはいえ雨に濡らされてはいるので油断すると田所さんのようになってしまう。
「この雨じゃ視界も悪いですね。とりあえず飛んで辺りを確認してみます」
峰山さんが雨の中でも関係なく翼を力強く羽撃かせて飛翔する。
「いや~相変わらず寧々ちゃんのあれ便利だよねぇ……本当にいてくれて助かったよ」
もし彼女がいなかったらダンジョンの制圧も、地上でのサタンや逃げ遅れた人を見つけるのもかなり難しくなる。
本人は自覚していないかもしれないが、確実に彼女は今までDOに貢献している。
[マシンガンモード]
急に何の前触れもなく田所さんが銃を水面に向かって乱射する。
「どうしたんですか田所さん?」
「いや……何か動いたような気がして。反射的に撃っちまった」
撃った先の方向を見てみれば、確かに何かが動いている。
そしてそれはゆっくりと水面に現れる。
「魚……?」
田所さんによって作られたのであろう風穴を開けた魚が数匹浮かび上がっていた。その魚は三十センチ程の大きさで鋭い牙を持っている。
カードになるまで、つまり奴が絶命するまでほんの数秒時間があり、その間に奴から流れる血が水に染み込んで流れていく。
「あれってもしかして……ピラニア?」
僕はその魚を前にテレビで見たことがあった。
アマゾン川などに生息する魚であるピラニア。血に反応し興奮することで群れで襲ってくる習性がある。
水には奴が流した血が滲み込んでおり、そこからブクブクと泡が立ち始める。
「生人ちゃん!! 顔を引っ込めろ!!」
田所さんは覗き込んでいた僕の頭を掴み引っ張り上げる。それと同時に泡が爆発して水の中から大量のピラニアが飛び出してくる。
その勢いは凄まじく、ピラニアはかなりの高さまで上がってくる。僕の眼前をピラニアの歯が通り過ぎ、あと数センチ顔を前に出していたら顔をズタズタに引き裂かれていただろう。
[ランスモード]
[必殺 ヒートランス]
僕は降り注ぐピラニア達を熱を放出する槍で跳ね飛ばし自分の身を守る。水滴が触れた槍はそれを一瞬で蒸発させ、水蒸気を放ちながら奴らを焼き殺していく。
田所さんもマシンガンで次々に撃ち落としていくが、二人がかりでも百を超え更に追加で湧き続ける奴らに押されてしまう。
「よし! 一旦木の高い所まで退くぞ!」
田所さんは両手足をタイヤに変形させて近くの木に飛び移り、そのまま垂直に走りピラニアが来れない高さまで逃げる。
僕の方はシンプルにバッタの脚力で跳んで田所さんと同じ木の枝を掴む。
「二人とも大丈夫ですか!?」
上空で辺りを探索していた峰山さんが僕達の高さまで降りてくる。
下の方では何百匹ものピラニアが餌に群がるように跳ねていて、もしここから落ちたら一瞬で全身を食い尽くされてしまうだろう。
「うん大丈夫! でもこれ高い木を伝ってじゃないと危ないよね。水面が高いところも通れないし」
今現在も田所さんが無尽蔵の弾を水面に撃ってくれてはいるが、数は一向に減らず寧ろそれによって血が流れ更に数を増している。
「とりあえず開けた場所なら見つけました」
峰山さんがランストのカメラ機能を使って取ってくれた写真を見せてくれる。
この豪雨で見え辛かったが、木々が少ない場所がありそこに半径三十メートル程の円型の平らな岩がある。
まるで格闘技の舞台のようでここにボスが居そうだ。
「じゃあ三人でボスを倒しに行こう!」
峰山さんが飛んで先導して、僕と田所さんは木を伝ってそこまで向かう。
数分後、岩のステージの近くで僕達は止まる。
岩の上には巨大なカマキリかおり、大きな二つの瞳がこちらを捉えていた。
「何あれ気持ち悪! 自分虫嫌いなんだけど……まぁでもやるか」
田所さんが嫌々ながら先陣を切ろうとしたが、そんな僕達の真横を何かが通り過ぎる。
それは黄緑色の刃だった。円型の刃が高速回転しながら飛んできて僕と田所さんがいる木の隣の木を切断する。
それでも刃は止まらず何本も木を切り倒していく。
「何つぅ切れ味と貫通力だよ! みんなあいつを倒すぞ! どうせここも切断される!」
田所さんが真っ先に岩の上に飛び移りカマキリに向かってタイヤを高速回転させる。
僕と峰山さんもそれに続き奴へ挑むのだった。




