59話 ジャングル
[スキルカード 疾風]
峰山さんと共に地面に着地し、間を置かずに僕は疾風を使用して複数体のサタンに攻撃を仕掛け、奴らを退かせて自衛隊の人達から遠ざける。
退いた奴らの頭部に峰山さんの矢が次々に突き刺さる。
僕達二人が来たことでサタン側が劣勢になるが、それでも奴らは闘争本能からなのか戦い続ける。
残った三匹のカエルは水滴の弾丸を峰山さんに飛ばす。自衛隊の人達の盾の凹み具合を見るにかなりの威力があるに違いなく、生身だったら下手したら骨が折れるかもしれない。
いくら変身しているとはいえ何発もくらえば蓄積するダメージは計り知れないので躱すのが定石だろう。
もちろん峰山さんは躱そうとしたが、背後には自衛隊の人達がいる。
その中の数人かは盾が壊れてしまっており、もしここで弾丸が当たり、更に当たりどころが悪ければ死んでしまうかもしれない。
なので彼女は両手で自分の頭部を守り、その弾丸計十発を体で受ける。
[ランスモード]
追加で放とうとした弾丸を許す程僕は甘くない。それらが放たれる前に全て槍で叩き落とし、二匹のカエルを突き刺す。
残った一匹は怯んだ隙に自衛隊の人達の集中砲火を受け倒される。
「いったぁ……」
峰山さんは体についた水滴を叩き落とし、体がまだ正常に動くか、骨が折れていないか確かめる。
「エンジェルさんありがとうございました!」
先程盾が壊れて自分の身を守る手段を失っていた人が峰山さんの側まで行き頭を下げる。
それに対して彼女が何かを言う前に隊長らしき人に勝手に動くなと怒られ連れてかれる。
「おーい寧々ちゃーん! 生人ちゃーん!」
建物を垂直に登りながら走る田所さんがこっちに向かって来て派手に着地する。
数回転したところで止まり足をタイヤから二足歩行状に戻す。
「そっちはどう? こっちはとりあえず七匹は倒したけど」
流石田所さんだ。きっとここに来る道中で通り魔のように圧倒的な強さと速さで倒したのだろう。
「こっちは二人で九匹倒しました」
「やるねぇ二人とも。とりあえず見た感じもう外にいるサタンはいない感じかな? 自衛隊の人達からも応援要請もう来てないし。
となるとあとはダンジョンの門の正確な位置を探すだけか。えーと指揮官がくれたマップによると……」
田所さんがランストから表示されるウィンドウを弄りマップを見ようとしたが、先に風斗さんからの通話が入ってくる。
それは僕達と峰山さんの方にも同時にかかってくる。
「みんな! ダンジョンの門を見つけたぞ! マップに正確な場所の印をつけたからサタンを殲滅し次第来てくれ!」
通話の向こうからは椎葉さんの叫び声と共にカエルの悲鳴が聞こえる。二人で動いていて門を見つけたのだろう。
「とりあえず自分らもサタンがいないか探しつつ門まで向かいますか。二人とも怪我とかないよね?」
「僕は大丈夫だけど……」
「わたくしも大丈夫です。先程攻撃をくらいましたが擦り傷です」
さっき弾丸をくらった峰山さんだったが、頭部やお腹など弱点となる部分はしっかり守っていたこともあって活動に支障がでるほどではない。
そこから峰山さんが上空からサタンがこれ以上いないか探しつつ三人で門の方まで向かい、道中これ以上サタンと出くわすことはなかった。
「あ! みんなー! こっちだよ!」
門と二人が視界に入るなり、椎葉さんが手を振りながらこちらに走ってくる。
「風斗ちゃんそっちはどんな感じ?」
田所さんはそれをスルーして風斗さんの元へと向かう。
「中を少し覗いて見ましたけど、大洪水の中のジャングルって感じでしたね。今回は空を飛べる寧々が行くべきでしょう」
そうして二人で戦況報告と短い会議を始める。
「生人くんと寧々ちゃんは大丈夫だった?」
「僕と峰山さんの方はカエルのサタン数匹相手にしたけど、特に怪我もなかったよ」
椎葉さんも特に立ち振る舞いに違和感なく、身体の故障や不都合は感じられない。初めて会った時から感じていたが体の動かし方が僕同様に人間離れしているからだろう。
「よし! 集まれお前ら! 今指揮官と話し合って今回の突入メンバーを決めたぞ!」
田所さんがランストの通話を切りみんなに集合をかける。
「まず今回突入するのは自分と寧々ちゃんと生人ちゃんだ。
今回は木々が多い大洪水の中のジャングルとなっている。だから壁や空を使って移動できる者で行く」
「了解! 僕はいつでも準備オッケーだよ!」
前の訓練で僕のホッパーの脚力と僕の身体を操る技術が組み合わされば壁と壁の間を伝って移動したり、足を突き刺し留まれることは確かめてある。
そういう意味では僕は適任だろう。
「寧々ちゃんも準備はいい?」
「は、はい……!」
「どうしたの緊張なんかして。別に今回が最初じゃないでしょ? いつも通りやればいいから」
反応が一瞬遅れ、どこか緊張しているような振る舞いを見せる峰山さん。
田所さんや他のみんなは気にも留めなかったが、僕はあることが頭をよぎってしまう。
この配信をもしかしたら水希さんも見ているのではないかと。
「大丈夫……いつも通りやればいい……大丈夫……」
彼女の方に注意を向けている僕以外には聞こえないくらいの小さな声で呟く。
その不安げな声は自己暗示のように勇気づけようとしている。
その姿を見て、僕は彼女の肩を軽く叩く。
「峰山さん……頑張ろうね!」
「……はい。頑張りましょう」
僕がいるだけで勇気がもらえる。それなら今の僕にできることは僕という存在を、僕というヒーローを彼女に意識させることくらいだ。
効果はあったのかどうかは分からないが、少なくとも先程の自己暗示の呟きはなくなる。
「よし! じゃあ突入するぞ! 外は任せたぞ。風斗ちゃんに愛ちゃん!」
そうして僕達は門を潜り抜け、大雨が降り続き大洪水を起こしているジャングルに出るのだった。




