58話 コンプレックス
「あら遅かったわね」
中は赤色を基調とした上品さが感じられる部屋で、ソファーが二つ向かい合うように置かれその片方にもう既に峰山さんのお姉さんが座っていた。
峰山水希。峰山さんのお姉さんであり、世間からは天才と呼ばれる女性。
そして峰山さんが嫉妬心を抱いている相手だ。
実際目の前にしただけでも彼女から気品と風格が感じられ、只者ではないことは一目で分かる。
「遅くなって申し訳ございません」
峰山さんがソファーに座り水希さんと対面する。僕も彼女の隣に座り粗相がないようにとりあえず黙っておく。
「あら? 生人さんもいらっしゃるのね」
「別に一人で来いとも、一人で行くとも言ってませんよね?」
空気がピリつきだし、舌に辛いものを乗せられたような錯覚に陥る。
「まぁいいわ。それでこの前の、DOを今後どうするかは考えてくれたのかしら?」
峰山さんの敵意のある態度など気にも止めず、早速本題であろう話題に入る。
「辞めずにこのまま続けていきます」
峰山さんはハッキリと、何の迷いや憂いもなく水希さんの目を真っ直ぐ捉える。
それに何か感じるものがあったのか、水希さんの表情に少し変化が見られる。意外なものを見て不意を突かれたようだ。
「あんな危険な仕事あなたには向いてないわ。あまり強がって無理しなくてもいいのよ?」
「強がりではありません。わたくしがやりたいからです」
捉え方によっては煽っているようにも受け取れる言葉を聞いても峰山さんは動じない。目を逸らさない。
「どうせあの母親に私のことをダシに何か吹き込まれたんでしょ? そんなくだらない対抗心は捨てなさい」
「違います……」
峰山さんは確か両親に言われてDOに入ったと言っていた。
水希さんが言おうとしていることはそのことと何か関係があるのだろうか。
ともかく表には出さないようにしているが、劣等感を覚えている相手にこのように詰められているので峰山さんの内心は穏やかなものではないだろう。
「DOにいること以外で会社とダンジョン関係の仕事を結びつける手筈は済んでいるわ。分かったらあなたも我儘言っていないでいい加減にしなさ……」
「違うって言ってるだろ!!」
峰山さんが突然声を荒げ、いつもはしないような荒々しい口調で話し出す。
これには水希さんも呆気に取られてしまい口を閉ざす。
「いっつもいっつもあなたは何なの!? 自分の才能がそんなに誇らしい!? あなたといつも比べられるわたくしの気持ちなんて考えずに!!」
溜まったものを全て吐き出すように、容赦や遠慮などなく今までの禍根を全てぶつける。
「姉さん……前はこんな風じゃなかったよね? どうして今みたいになっちゃったの?」
「寧々……」
過去に水希さんには何かあったのか、現在の彼女は峰山さんの言う頃の彼女とは違う性格だったらしい。
しばらくの沈黙が流れ僕も口を挟めずにいて、重苦しい空気の中ようやく峰山さんが口を開こうとする。
[ビー!! ビー!!]
しかしその声を鞄から鳴り響くアラーム音が遮る。 そのアラーム音は新しいダンジョンの出現を知らせるものだ。
「何かしら? そのアラー……」
水希さんが言い終わる前にもう既に僕達は部屋から飛び出していた。
水希さんがまだ何か追加で喋っていたが、今はそれどころではないので早く外に出るべくエレベーターのボタンを押す。
[エンジェル レベル1 ready……]
「こっちの方が速いです!!」
峰山さんは変身して、近くにあった窓を開けてこちらに手招きする。
[ラスティー レベル1 ready……]
僕も変身して彼女の手を取り、そのまま窓から飛び出して二人で宙を舞う。
「生人!! 聞こえてるか!?」
ランストの通話機能を使いどこにダンジョンが出現したか聞こうとしたが、先に父さんから連絡が来てくれる。
「聞こえてるよ! 場所は!?」
「門矢市の山沿いの南川の近くだ! 今ランストに場所を送った!」
ランストの機能で送られたマップを見てみたが、ダンジョンはここからそう遠くない距離にあり、その場所を峰山さんに伝えてそこまで急加速して飛んで向かう。
「あ! サタンだ!」
ダンジョンの近くにはもう数体のサタンがおり、自衛隊の人達が銃で応戦してくれていた。
巨大なカエルのサタンで、初めて峰山さんと行ったダンジョンにいた奴とは違い水滴を辺りに発生させそれを弾丸のように飛ばしていた。
ここからDO本部までは距離があるので他の三人はまだ来ていなく、自衛隊の人達は少し押され気味で劣勢だ。
[アーマーカード ホッパー レベル6 start up……]
[アーマーカード ガトリング レベル 5 start up……]
僕達は空中で更に鎧を纏い、そのサタン達に応戦すべく、自衛隊の人達に加勢するべく急降下するのであった。




