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53話 寄生虫(田所視点)

「あークソ。変身できるならアジトまですぐ行けるのに」


 自分は今ある山の獣道にいる。携帯が圏外になるほどの山奥で、方向音痴の人は場合によっては遭難してしまうかもしれない。

 自分がこんなところにいるのにはもちろん理由がある。美咲達に会う約束があるからだ。


「ちっ。それにしたっていくら盗聴を警戒するにしたってあんな山奥にしなくてもいいだろ」


 木々に向かって文句を言いながら歩いているうちに自分は美咲に言われた廃墟に着く。

 元はホテルだったらしいが、今は見る影もない。何なら今にも倒壊してしまいそうだ。


「おい美咲いるか?」


 念の為扉をノックしようとしたところ、中から物が倒れる大きな音が聞こえてくる。


「おい美咲!?」


 まさかこの場所が誰かにバレて奇襲を受けているのではと思い、自分は扉を蹴破り中に入り込む。

 中では物が散乱していて、キュリアが美咲の胸ぐらを掴んでいた。


「あぁ? 田所か……」


 こちらに視線をよこし表情が見える。明らかにイラついており、不満たっぷりのご様子だ。


「何を怒ってるんだ? 美咲を離せ」

「こいつがまたオレの戦いを邪魔しやがったんだよ! 三日前の生人との戦いも本当に良いところで邪魔入れやがって!!」


 キュリアの掴む力がより一層強くなる。美咲の服がミチミチと音を立て伸びる。


「言っただろう? まだ本気で戦う時じゃない。生人君も君もまだ発展途上なんだ。

 君だって中途半端な状態で決着をつけるのは不本意だろう?」


 美咲は胸ぐらを掴まれてもなお冷静に、焦りや萎縮を一切見せずに話す。その様子は煽りのようにも受け取れる。


「全く……待つこともできないのかい?」


 その一言にキュリアが反応して目を鋭くさせる。

 一発殴るのかと思ったが、キュリアは手を離し美咲を地面に放り捨てる。


「クソが!!!」


 八つ当たりにそこら辺にあった瓦礫を地面に叩きつける。

 コンクリートでできた瓦礫は粉々になり、地面は大きく凹んでいる。


 これが……"寄生虫"の力か。


 キュリアは不貞腐れ、壁にもたれかかりそれ以上何も話さなくなる。


「早速本題に入ろうか。キュリア君と田所君に話したいのは生人君についてだ」


 服を直し、美咲が今回自分らをこんなところに呼んで話したかった内容を切り出す。

 寄元生人。ダンジョンを生み出し災厄の日を起こした張本人でもあり、人間ではない存在。その話題を。


「前にも説明した通り、生人君は確かにこの世界を混沌に導いた元凶ではある。しかし私の考えではあの子は寄生虫時代の記憶を失っている」


 寄生虫。美咲が言うには宇宙からこの地球に来た存在で、ダンジョンを生み出したその寄生虫とやらが今生人ちゃんに取り憑いているらしい。


「あの子は人間と寄生虫の狭間の存在だ。

 だがこの前あの子を眠らせてサンプルを採取して調べてみたが、昔と比べて人間より寄生虫寄りの体の構造になっていた」

「何でだ?」

「さぁ? ダンジョンに潜り過ぎたことか、それとも同じ寄生虫のキュリア君と出会ったことで共鳴したのか、原因は分からない」


 自分は今でも生人ちゃんが彼女の言う寄生虫だということが信じられない。

 あの純粋で、真っ直ぐな良い子があの事件の元凶だなんて信じたくなかった。


 壁にもたれていたキュリアが不満げな表情そのままに美咲の方に歩み寄る。


「なぁ美咲? もう生人に本当のこと伝えようぜ。何でこんな回りくどいことするんだよ」

「それは絶対にだめだ」


 美咲は語尾を強めはっきりと言い切る。


「今の生人君の心は完全に人間だ。もし真実を知ってしまったら……心が壊れてしまうかもしれない。

 そうなればあの子は全てを破壊し尽くす悪魔と成り果てる可能性がある。

 キュリア君だってそれは本望ではないだろう?」

「まぁ……何も考えられない奴と戦うのは楽しくないな」


 ショピングモールの時はキュリアが極悪人に見えたが、今は感じ方が違う。

 彼はどこか生人ちゃんに似ている。目指しているものこそ違うが、それに対して一途で純粋。その点が非常に生人ちゃんに似ていた。


「田所君には引き続き生人君の監視を頼みたい。そしてあの子を真実から遠ざけてほしい」

「もちろんだ。あんな良い子を守らない理由はない。それにこういう仕事は大人の役目だ」


 格好をつけたのはいいものの、実際自分はあまりこの仕事をしていない。

 確かに生人ちゃんのことは監視していたが、それは本心で可愛い後輩と接していただけで、あの子が真実を知ってしまう危険性や兆候などは全くと言っていいほどない。


「私はまたダンジョンをこの世から消し、これ以上ダンジョンを出現させないための研究を秘密裏に続ける。

 キュリア君も随時手伝ってもらうよ」

「オレは強い奴と楽しい戦いができればなんでもいい。でも……」


 キュリアは美咲を強く睨みつけ声を低くしドスを効かせる。


「あんまり焦らしたり舐めたことすんなよ」


 それだけ言うとコンクリの壁を蹴りでぶち抜いて帰っていくのだった。


「そういえば生人ちゃんの話からズレるんだけどいいか?」

「なんだい? 必要ならキュリア君を戻してくるが」

「いやいい。あいつは関係ない。聞きたいのは寧々ちゃんについてだ。

 最近あの子の様子がおかしい。なんというか余裕がないような感じがするんだけど、何か知らない?」


 寧々ちゃんは元々喋る方ではないし愛想が良いとは言えなかったが、生人ちゃんと出会ってから変わった。

 感情が言葉に籠るようになり、特に生人ちゃんと一緒にいる時は幸せそうで、自分から見ても付き合っていないのが信じられないほどベッタリくっついている。

 それなのに最近になって昔に戻って、何なら昔よりも酷くなっている。

 明らかに焦りが見え言葉の節々が荒くなっている。


「いやすまない。生人君以外の個人情報は特に興味がなかったから知らないな」

「そうか。じゃいいや自分はもう帰るから、あんたも研究頑張れよ」


 その件については特に進展はなく、自分は来た道を戻り暗くなる前にDO本部に戻るのだった。

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