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48話 存在価値

「このかっこよさそうなのは?」

「私からの君への誕生日プレゼントだよ。開発に時間がかかってしまってかなり遅れてしまったけどね」

 

 彼女から手渡されたそれを僕はペタペタと触り感触を確かめる。

 黒を基調とした硬い質感だったが、輪の部分は柔らかくゴムのように伸びる。


「これは大きさ的に腕輪?」

「そうだよ。君にぴったりのサイズに作ったから着けてみてくれるかな?」


 僕はその腕輪に左手を通す。手首くらいの位置で腕輪を止め、カチッという音と共に三角形の部分が黄色に淡く発光し出す。


「光り出した……これってどういう物なの? ただのアクセサリーってわけじゃないよね?」

「その通り。それは君専用に私が作った新しい武器さ。とりあえず剣の模様が描かれた所を押してくれるかな?」


 剣の模様が描かれている所を押すとそこが凹み、まるでゲームのボタンを押したかのような感覚だ。


[ブレイドモード]


 ブレイド。剣でも現れるのかと思ったがそんなことはなく、ただ音声が流れるだけだった。


「あれ? 何も起こらないけど……故障?」

「その品のお礼代わりに君に一つ頼みがあるんだ。その腕輪を装着したまま君のデータを計らせてくれないかな?」


 カチャカチャと腕輪を動かし動作を確認している僕に、彼女が申し訳なさそうにして一つ頼み事を提案してくる。


「実はその腕輪まだ未完成なんだよ。完成させるためには使用者の身体データが必要で、それを今週の金曜から日曜にかけて計ってもいいかな?」


 なるほど。まだ未完成品だから剣が出てこなかったのか。完成したら三種の武器を扱えるとかそんな感じになるのかな?


「うん! 今週は特に予定もないし大丈夫だよ!」

「それはよかった。じゃあ金曜の学校が終わった後に車をここの前に回しておくから、それでデータを計る場所まで行こう」

「了解! 明日からよろしくね!」



☆☆☆



「な、なぁ生人?」


 美咲さんとの約束の金曜日の昼休み。

 今日も峰山さんが作ってくれた弁当を食べようと鞄から取り出そうとしたところ、クラスメイトの晴人に話しかけられる。


「DOにアイが入ったって本当?」


 晴人は苦笑いを浮かべ、半信半疑という感じで尋ねてくる。

 DOにアイが入ったという情報は、つい先日椎葉さん自身が動画サイトで公表したのでそこで知ったのだろう。

 SNSでは連日話題になっており、僕の配信にも彼女のファンと思われる人がいた。


「本当だよ。強くてとっても頼りになる人だよ」

「へぇ……俺は配信とライブくらいしか見たことないけど、どんな人なのあの人?」

「強いだけじゃなく良い人だと思うよ。ちょくちょく食べに連れてってくれるし」


 僕はこの一ヶ月で三回程彼女に食べに連れて行ってもらった。

 その間彼女はすごいマシンガントークをしてきて、僕もそれに応じて色々話したりした。


「あれ? 弁当がない」


 鞄を探っても、手に弁当箱の感触がない。中身をひっくり返しても弁当箱がどこにもない。

 

「どうしたんだ生人? 弁当忘れたのか?」

「そうみたい。どこかに置いてきちゃったかな……」


 僕は記憶を探り弁当箱の行方を思い出そうとする。


 確か峰山さんから受け取って、それで……あ!


 僕はここで弁当箱をDOの待機室に置いてきてしまったことに気づく。


「DOの部屋に置いてきちゃった」

「あぁ……どんまい。でも生人の足なら多分間に合うだろ」

「そうだね。ちょっと面倒だけど走って向こうで食べてくるよ」


 僕が教室の扉に手をかける前に、ガラガラと開かれ扉の向こうに椎葉さんがいた。


「椎葉さん? 何でここに?」

「生人くん! ここにいたんだねよかった。はいこれ」


 椎葉さんの手には僕が忘れてしまった弁当箱がある。


「もう今度からは忘れちゃだめだぞ。せっかく寧々ちゃんが作ってくれたんだから」

「ごめんなさい。今度からは気をつけるよ」


 僕が今日は峰山さんとご飯を食べようと振り返り彼女を探す。

 しかし彼女よりも先に口が開きっぱなしの晴人に目がいってしまう。


「どうしたの晴人?」

「も……もしかしてこの人がアイ?」


 晴人は椎葉さんを指差し、僕の耳元で小声で話す。


「んー? どうしたの?」


 帰ろうとしていた椎葉さんがクルッと僕達の眼前まで戻ってくる。


「あ! もしかして君アタシのファン?」


 あたふたする晴人を見て察したのか、椎葉さんが明るい笑顔を彼に見せてあげる。


「は、はい!」

「うふふ……しばらくアイドル活動の頻度は落ちるかもだけど、これからもよろしくね!」


 椎葉さんは軽く晴人に握手してあげ、手を振り去っていく。


「や、やべぇ。俺アイを初めて生で見たけど、やっぱりめっちゃ可愛いな」


 上の空の晴人をそのままにして、僕は今度こそ峰山さんをお昼に誘おうとする。


「あれ? どこ行ったんだ?」


 まだお昼が始まって数分しか経っていないが、もう彼女の姿は教室にはない。


「峰山さんを探してるのか? そういえば彼女なら屋上に行ってたぞ」

「屋上?」

「俺授業終わってからジュース買いに行ったけど、その時の帰りに屋上に行ってるの見たんだよ」

 

 珍しいな。峰山さんが屋上でお昼を食べるなんて。いつもはまず僕を誘いにくるのに。


 違和感を感じたものの、僕は特に何も考えず屋上にいるなら行けばいいかと思い屋上に向かう。

 

 屋上には晴人の言った通り峰山さんがいた。

 しかしご飯は食べておらず、神妙な表情を浮かべスマホを凝視し何か呟いていた。


「無駄だったから……もっとわたくしは……」

「何してるの?」


 僕はスマホの画面を覗き込むように彼女に近づくが、その前に彼女はスマホの画面を伏せて電源を切ってしまう。


「何か用ですか?」

「いつもみたいにお昼一緒に食べよーって誘いに来ただけだよ」

「そうですか……すみません。わたくしはもう済んでいますので。では」


 峰山さんは僕の呼び止める声も聞かず、そそくさと屋上から出ていってしまう。


「あ……もう行っちゃった」


 どうしたんだろう? 本当に最近峰山さん様子おかしいな。大丈夫かな?


 彼女が何か悩んでいて苦しんでいるのは問題だが、何より重大なことは彼女が僕を頼ってくれないことだ。

 頼ってくれないと、頼られないと僕は助けてあげられない。ヒーローとしていられない。

 そうなってしまうと自分の存在価値がなくなってしまう。それがたまらなく怖かった。

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