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47話 誕生日プレゼント

「いやー生人ちゃん腕上げたね。そのホッパーのアーマーにも慣れた?」

「はい!」


 海上ライブから一ヶ月程経った九月半ば。僕達は今、DOのメンバー全員の予定が偶然空いていたということでみんなで比較的安全なダンジョンを攻略していた。

 お互いの新しいスキルカードなどの確認や、連携などの練習などをしていたのだ。

 

「真太郎さんさっき使ってたカードってどこで手に入れたんですか?」

「二週間前に蛇のサタンを倒して手に入れたんだ」


 椎葉さんは先月DOに入隊してから風斗さんといることが多く、今回も彼女は彼に動きなどを見てもらっていた。

 ダンジョン攻略が終わったので解散して各々自室に帰ったり別の用事でDO本部から出ていく者がいる中、僕は峰山さんが思い詰めたような顔をしていることに気がつく。


「顔色が優れないけどどうかしたの?」


 他の人が出払い僕と彼女だけになった空間で、僕は明るく笑顔で話しかける。


「大したことではないのですが、わたくしは本当に成長できているのかと思ってしまいまして」


 大したことはないと前置きした割にはその表情はどこか深刻そうで、まるで余命宣告を受けた患者のもののようだ。そこからは焦りも感じ取れて、それを見た僕から笑顔が消えてしまう。


「生人さんは出会った頃より動きにキレが増してますし、何より新しいアーマーカードを手に入れました。

 田所さんと風斗さんは相変わらずお強い上に最近はキュリアの影響か更に強くなろうとしてます。

 この前入った椎葉さんも人間とは思えない反射速度や体の柔らかさでわたくしにはできないような動きをしてみせます」


 彼女が感じているであろうもの。それは劣等感だ。

 僕は彼女の努力を知っていた。毎日懸命にトレーニングをしたりダンジョンに行ったりして訓練を積み重ね、それ以外のことも何でも吸収しようとほぼ毎日僕の所に来るくらいだ。


 だからこそなのだろう。彼女が今直面している伸び悩みという苦難は僕なんかでは想像できない程なのだろう。


「DOで成果を残せなかったらもう後がないのに」


 僕が悩む彼女に返す言葉を慎重に選んでいる最中。僕が聞こえるギリギリくらいの声で彼女が呟く。

 声の感じからして無意識に言ったのであろうが、それは本音というか本心が籠った言葉だった。尚更重たく感じられた。


「後がない? それってもしかして最初に出会った日に言ってた家のことと何か関係が……」

「いえ。生人さんには関係がないことです」


 僕が探るように話すのを妨害するように、彼女が無理矢理言葉を出し会話を堰き止める。


「こんな暗い話をしてしまってすみませんでした」


 彼女はぺこりとこちらに一礼すると自分の部屋に戻っていこうとする。


「あの峰山さん!」


 悲しそうに、寂しそうにも見えたその背中に僕は再び声をかける。


「峰山さんの複雑な事情はまだ分からないし、無理に話してなんて言わない。でも僕は何があっても君の味方だから、困ったら頼ってね?」


 言葉による優しさ。今僕が彼女に対してでき、与えられるものはこれくらいしかない。


「はい……ありがとうございます」


 彼女は手で顔を擦ると振り向きこちらに向かって笑みを浮かべてくれる。それは僕に対してもう心配はいらないといった意味が含まれていたのかもしれない。

 それくらい先程の表情からは考えられないほど晴々とした笑顔だ。


「じゃあ困った時が来たら頼らせてくださいね」


 彼女は重い足取りで部屋に戻っていく。


「……成長かぁ」


 しかし悩んでいるのは彼女だけではなかった。確かに僕は成長しているとは思う。峰山さんからの言葉もあってそれは確信になっている。


 だがそれでもあのキュリアに勝てるイメージが全く沸かない。


 前回戦った時は一発入れることができたが、あれは自分でも信じられないくらいの力が出た結果で、どうしてそんな力が引き出せたのか、どうやってその力を引き出すのかは現在微塵も分からない。


 あいつと戦ってから一ヶ月以上経つけど、あの時の力を引き出す感覚は未だに掴めてない。

 というよりあの時は意識が朦朧としていたしそもそもあまりよく覚えていない。僕も人のこと心配してる場合じゃないな……


「やぁ生人君。随分とお熱いことやってたね」


 僕も自分の部屋に戻ろうとしたところ、待機室の方から美咲さんがこちらに向かってくる。


「こんにちは美咲さん。それでお熱いことって?」

「自覚なかったのか……まぁ君だしね。それは気にしなくていいよ。早速本題にも入りたいしね」


 彼女はバックからゴムの輪っかがついた三角形の金属の物体を取り出す。

 三角形の中には更に小さな三角形が三つ描かれており、それぞれが頂点を合わせるような配置となっている。

 その三つの中に模様が描かれており、それは剣と槍と斧のように見えた。

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