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44話 妹の面影(風斗視点)

「大丈夫か生人!?」

「うん大丈夫! でもちょっとまずいかも!」


 いきなり床から高圧の水が噴射されたと思い転がり何とか躱わせたと思ったら、それが障壁となり生人と分断されてしまった。

 水の向こう側の歪んで見える光景はあまり良いものではなかった。六匹程のサタンが入ってきて生人を襲い始める。


「生人!」


 俺はすぐに助けに入ろうとするが、目の前の水の壁に触れた途端鋭い痛みが手を襲い弾かれてしまう。


「ちょっと真太郎さん!? 明らかにこれ通れる感じじゃないでしょ!」


 自分らしくもなく焦ってしまい、最善ではない行動をしてしまった。十個程歳が離れている女の子に注意され我ながら情けなくなる。


「そうだな……生人! すぐにボスを倒してここを制圧する! それまで持ち堪えてくれ!」

「了解!」


 その指示を聞き生人は攻め重視の戦い方から、時間稼ぎがしやすい受けや躱し重視の戦い方に変える。それでも更にサタンが集まればいくら生人でも持ち堪えられないだろう。

 つまり、俺とアイで短時間で今後ろで演奏している舐め腐ったボスを倒さなければならない。


「アイ。できる限り手短にあのクラゲを倒すぞ。それが今俺達にできる最善の行動だ」

「それが良さそうね。アタシも使える手札は全部使って速攻で倒しにいくわ」


 俺はすぐに気持ちを切り替え、二人でギターを演奏する奴に突っ走っていく。もうすぐ手前まで来たところで奴がやっと反応を見せる。その長い触手を活かしギターをこちらに投げてくる。

 野球選手顔負けの速度で投げられたそれは距離がまだあったから躱せたが、剣の射程でやり合っていたらどうなっていたかは分からない。


 近くでやり合うのは得策ではないな。ここはあれを使うか。


[スキルカード サウンドブラスト]


 辺りに金属音が鳴り響きそれが段々と大きくなっていく。剣の周りの空気が揺れて歪み、その歪みはやがて剣先の一点に集中する。

 俺はそれを奴に向かって突き出す。もちろん剣は奴に届くはずもない。剣で攻撃するには距離がありすぎる。


 しかし剣先にある歪みが高速で奴に向かって射出され、奴の帽子の部分に命中し爆発する。


 予想もしていなかったであろう一撃を貰い奴はふらつきつつもこちらに数本の触手を放ってくる。

 闇雲にやってくる攻撃はさほど脅威ではないが、万が一だが走る軌道上に飛んでくる可能性もあるので、俺は警戒して速度を緩める。


「隙ありだよっ!」


 触手の攻撃を掻い潜ったところで、アイがマイクを奴に向けたままそれについているボタンを押す。勢いよく発射された球体は奴の爆発で傷ついた部位に当たり、その部分がグニャリと変形する。

 奴は発声器官がどこにあるのかも分からないが、ともかく奇声を発し更に暴れ回る。

 

「意外に体力あるわね。こんなに暴れ回られたら……あっ」


 精密性が低い攻撃を俺達は躱していたが、運が悪いことにアイが躱した先に攻撃がピンポイントに来てしまう。

 彼女は躱すことはできなかったが咄嗟に手と足で体を庇い最大限ダメージを減らす。だが問題は当たったことによる衝撃ではなかった。


「あ、あぁぁぁぁぁ!!」


 奴の触手に触れた瞬間彼女の体がビクンと跳ね軽い痙攣を起こす。幸い彼女は弾かれたことによって奴の毒を浴びせられたのは一瞬で、特に何事もなく立ち上がる。


「大丈夫か!?」


 俺は彼女を抱きすぐに奴から距離を取る。


「だ、大丈夫よ。思ったよりビリってきてビックリしただけ。でもあれを長時間やられたら……」


 彼女はそれ以上言わなかった。だがその先の言葉は容易に想像できる。

 彼女の先程の反応。あれに掴まれて捕らわれたら最後激痛を与え続けられショック死してしまうのだろう。

 その時偶然目の前の地面を叩いた触手に俺は斬撃を食らわせ、触手がこの剣で斬れることを確認する。


「斬れるな……よし。お前は下がってていい。後は……」

「大丈夫だって言ってるでしょ」


 彼女の傷は本当に大したことないらしく、痛がる素振りもなく彼女はスッと姿勢を立て直す。


 心配しすぎだったか? だめだ。あいつの顔がどうしてもチラついてしまう。


 俺の頭にチラつくもの、それは彼女に似ている死んだ……いや、俺が殺したも同然の妹のことだ。

 アイが歌ったり踊ったりするのを見ているとまるであいつがそうしているように思えて、その時だけあの時のことが頭の中で薄れてくれる。

 だから俺は趣味でもないアイドルをテレビで見たり、今日みたいにライブに行ったりしていた。


 俺が過剰に心配したり、俺らしくもなく優しくしてしまうのもそういうことなのだろうか? もういないと分かっていてもこいつにあいつを重ねてしまっているのだろうか?

 俺の頭に動揺の二文字が浮かび上がる。しかしそれは目の前に迫る触手と、数年やったおかげで身に付いた体の反射によるスイッチの切り替えで消え去ることとなる。

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