42話 海上ダンジョン
「なっ、あれは!? 生人! 寧々! ランストを装備してすぐにステージに行くぞ!」
風斗さんはオタク道具でも入っているのかと思われたバッグからランストを取り出し、バッグを放り捨てながらランストを装備する。
門を見てからの行動は素早く、DOに数年勤めているだけのことはある。僕もカードからランストを取り出し、それを装備してステージに向かう彼を追いかける。
「ダンジョンが現れました! 岩永さんは早くここから逃げてください!」
「え、え!? またダンジョン!?」
峰山さんは戸惑っている岩永さんに状況を軽く説明し、すぐ僕の後を追いかける。
「これってショーの演出……?」
「なわけねーだろあそこ見ろ! 何もないところから化物が何体も……あれ本物だ逃げないと!」
周りの人達は唐突な出来事に錯乱状態に陥っている。
ステージには既に三体のサメに人間の手足が付いた気持ち悪いフォルムのサタンがおり、アイに向かって襲い掛かろうとしていた。
「寧々! お前は避難を手伝え! あの数なら俺と生人だけで十分だ!」
「は、はい! 分かりました!」
峰山さんはエンジェルに変身して、翼を広げて飛び上がりこの場にいる観客に避難指示をし始める。
僕と風斗さんもデッキケースからスーツカードとアーマーカードを取り出しその二枚を挿入する。
「変身!!」
「変身」
[ラスティー レベル1 ready…… ホッパー レベル6 start up……]
[フェンサー レベル1 ready…… ナイト レベル6 start up……]
僕達は鎧を纏い、アイを助けるべくステージに跳び乗る。
僕は今にも襲い掛かろうとしていたサタンを一匹蹴り飛ばし、風斗さんが残りの二体を剣をバットみたいに振り回しアイから遠ざける。
お互いサタンを遠ざけ、尚且つ他の人の所まで飛ばさずに気を使ったので威力がかなり落ちてしまい仕留めるまでにはいかない。
「DOの人? 助けに来てくれてありがとー!」
こんな状況でも彼女はマイクから手を離さず、ライブの時と同じ口調や声色で喋っている。
「あなたは喋ってないで逃げてください!」
僕は逃げるよう促すが彼女は一切避難する素振りを見せない。
「アタシもライブ壊されてちょっーと頭にきてるんだ。だからアタシも混ぜてよ。スタッフ!」
彼女が舞台裏に向かって叫ぶと、そこからひょこっと一人の男性が顔を出す。その手にはランストが握られており、それを彼女に向かって放り投げる。
「ありがと!」
このライブのため何回も練習したかのように、完璧に彼女の元に吸い寄せられるようにしてランストが彼女の手元に渡る。
スタッフさんはそれを確認してすぐに駆け出して避難する。
「それじゃあいくよ……変身!」
彼女はマイクを投げ捨て、ランストを装備してカードを一枚セットする。
[アイドル レベル1 ready……]
彼女はピンク色の可愛らしさのある鎧を纏い目の前のサタンと向き合う。
「一般人に戦わせるのは気が引けるが、無理矢理止める時間も余裕もない。危険だと思ったらすぐに逃げるんだぞ。いいな!」
彼女を止めることは難しいと判断した風斗さんは、戦うことを嫌々許可しつつも自己判断で逃げるように前もって言っておく。
「分かってるって。相変わらず心配性だな……」
僕達三人はサタン三匹と向かい合い、自然と一人一体ずつ担当するかのように各々少し距離を取り対峙する。
奴らはタイミングを合わせるようにして、一斉に歯を剥き出しにしてこちらに向かって走り出す。
[スキルカード ジャンプ]
[スキルカード オートアタック]
この後制圧も控えているので変に体力を使うわけにもいかず、僕と風斗さんは最小限の動きでサタンを倒す。
僕はオーラを纏った足を奴が来るタイミングに合わせて突き出し貫通させる。一方風斗さんは奴の攻撃を容易に受け流し、手足があるのを良いことに組み伏せてその隙に剣を自動で動かし奴の腹をズタズタに切り裂く。
「マイクアターック!」
目の前の敵を倒し、心配になりアイの方に視線を向けるがどうやら杞憂だったようだ。
アイは少し大きめのマイクを持っており、球体部分が外れて奴に向かって飛んでいき、更にはそこについている糸のようなもので球体の動きを自由自在に動かして奴を糸でグルグル巻きにする。
「からの~ジャンプ!」
彼女は膝を曲げ跳びステージの鉄骨に乗る。もちろん糸に捕らわれた奴はそれにより宙吊りになり尾と足をバタつかせる。
彼女は次に鉄骨から飛び降り、落下した分奴は引き上げられ最終的に鉄骨に頭部を叩きつけられる。
一方彼女はまるでマイクと糸を木の蔦のように扱い再び鉄骨付近まで戻りマイクを上空へと投げる。
「ふんっ!!」
その場で横に一回転して奴の頭を蹴り抜きそれは鈍い音を奏でる。
彼女は落ちてくるカードと共に先程投げたマイクもキャッチし、それに付いているボタンを押すことで糸と球体のみを消してそれをまたマイクの元へと出現させる。
「どうだったアタシの動き? 中々やるでしょ?」
完璧な動きを見せた彼女が得意げそうに胸を張る。
実際アーマーカードを使用していないのにあそこまで動けるのは誇っていい。かなり戦闘慣れしている。
「はぁ……改めて言うが、お前はDOに入っていない一般人だ。だからここは俺達に任せて早く避難するんだ」
彼の少し強めた言葉を聞いても彼女は一切臆することなくこの場から離れようとしない。
「アタシも戦えるからここに残る。だから……いいでしょ?」
彼女は風斗さんに数歩歩み寄り、彼とは反対に口調を少し弱めて訴える。
「危なくなったら逃げるんだぞ」
彼は頭を悩ませた結果彼女の同行を認める。
「えっ、いいの?」
いつもの彼なら意地でも突き放すように厳しく接すると思ったが、今回は全然そんなことなく寧ろ甘い対応だったので僕は不自然に思い彼に一度確認を取る。
「俺の判断だ。責任は俺が取るから気にするな」
「何だか風斗さんらしくない……どうかしたの?」
いつもとは違う態度が気になってしまい、僕は気にするなと言われたが再び尋ねてしまう。
「完全に俺の私情だ。自分でも情けないと思っているよ」
僕は先程彼がアイのことが妹と似ていると言ったことを思い出す。それで彼は妹と似ている彼女にあまり強く言えないのではと察する。
あまり強く言っても彼女は退かないだろうし、実際戦力になることは間違いないので僕はこれ以上何も言わないことにする。
そう決めるのと同時にランストから父さんの焦る声が聞こえてくる。
「生人! お前の向かったイベント会場でダンジョンが出現した! 今そこにいるのか!?」
まだこちらの状況を掴めていなく、緊急性を訴えかけてくる声だった。僕は手短に一応の安全確保はできたことやアイのことなどを説明する。
「少々心配だが、無理矢理引っ張っていくわけにもいかないしな。分かった。そのアイっていう子にも協力してもらう方針でいく」
反対されるかと思ったが、父さんはすんなり彼女が同行することを認めてくれる。これには横から会話を聞いていた風斗さんも驚く。
「あと田所がそっちに向かった。あと数分で着くと思う」
「え!? 田所さんが!? まだあの人動いちゃだめなんじゃなかったっけ!?」
彼は仕事に復帰するには一ヶ月を要すると判断されていた。まだあの事件からは一週間しか経っていない。どう考えても戦ってはだめだ。
「オレも行くなと言ったんだが聞かなくてな。激しく動くのは無理でも門から出てくるサタンを一方的に撃つくらいならできると言って飛び出したんだ」
相変わらずめちゃくちゃだなあの人……頼もしいんだけどいつか死んじゃいそうな勢いで心配になるな。
「指揮官。田所先輩と寧々。それと後々来てくれる自衛隊の人達で門を取り囲んでサタンが出てこないか見張りつつ安全確保。俺と生人とアイで制圧といった感じでよろしいでしょうか?」
風斗さんが制圧のプランを父さんに提示する。特に異論を言う余地もなかったので父さんは承諾してくれて、田所さんが合流するのに合わせて僕達三人は門を通りダンジョン内に入るのだった。




