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39話 オープニングショー

 出てすぐに岩永さんが指定した焼きそば屋さんの前に行くが、流石にまだ二人とも来ていなかった。

 雲一つなく照りつける陽に焼かれながら待つこと数分。砂に足跡をつけて遊んでいると女子更衣室の方から二人が歩いてくる。


「いたいた。遅れてごめんね生人くん」


 二人が来たので僕は足跡に砂をかけて消す。

 峰山さんはこの前の明るい赤色の水着を着ていて、岩永さんは派手でカラフルな色のビキニを着ていた。


「うん? ど~こを見ているのかな?」


 岩永さんが前屈みになりグイッと顔を僕の顔前まで近づける。


「岩永さんの水着だけど……明るくカラフルで君らしくて似合ってると思うよ!」

「あ~うん。本当ピュアだね君……まぁからかうのはこれくらいにして、今からどうしようか? オープニングショーまでまだ少し時間があるし」


 僕はジップロックからチラシを取り出し、そこに書いてある時刻予定表を見る。

 最初にアイが今日のイベントに対して意気込みを語ったり軽く歌ったりするオープニングショーまであと一時間程ある。


「どうしますか? 何か食べるにしても時間的に早すぎますし」

「それならウチが持ってきたこれで遊ぼうよ」


 岩永さんが空気の入っていないビーチボールを取り出す。


「バレーですか。いいですね。場所は……」


 峰山さんが辺りの砂浜を見渡すが、人がそこそこいてバレーができるスペースはないように見えた。

 これは困ったなと思ったが、僕はここである一つの案を思いつく。


「あそこの海の中が空いてるから、海の中でやってみる?」

「良いと思いますよ。ちょっと試してみましょう」


 早速僕達は海の中に入る。冷たい感触が全身を伝わり、暑さが緩和されとても心地が良い。

 安全確認をし、僕がボールを膨らませそれをとりあえず峰山さんにパスしてみる。

 しかしその球は僕の予想とは違った動き方をした。風に煽られ高く飛んでいってしまう。


「あ、ごめん! 手元が狂った!」

「大丈夫です! 任せてください!」


 峰山さんが水飛沫を立て跳び上がり、高校のバレー選手くらいなら届かないような高さにあるボールを叩き落とす。

 それは勢いを落とさず僕の方へ真っ直ぐ向かってくる。


「せいやっ!」


 手で受けるのは無理だと判断し、僕はそのボールに回し蹴りを放つ。バンッ! と衝撃音が辺りに響き渡り、そのボールはフワッと宙を舞い海に落ちる。


「す、すみません。加減を間違えてしまいました。大丈夫でしょうか?」


 峰山さんがボールを拾いつつ僕の元に駆け寄ってくる。


「ちょっとジンジンするけど大丈夫でしょ」

「え~結構大きい音なったけど。ちょい見せてみ」


 岩永さんが僕の足を掴み軽々と持ち上げ凝視する。ゆっくりと足を摩りながら十数秒程そのままの体勢で、何も言わない彼女に僕は不安が込み上げてくる。


「怪我はないけど……」


 含みのある言い方で、深刻そうな彼女の顔もあり僕の不安は更に大きくなる。


「もしかして何かやばい感じ……」

「いや? 生人君の肌ってめっちゃもちもちのすべすべだなーって」


 返ってきたのは怪我とは無縁のどうでもいい感想だった。


「びっくりさせないでくださいよ。言い方的に生人さんの足に何か重大な問題があると思ったじゃないですか」


 緊迫感がなくなり峰山さんが呆れた顔で安堵する。


「ごめんごめん。ところで生人君は何か化粧品とか使ってるの?」

「生まれてこの方そんなもの使ったことないけど」


 僕の発言に二人が固まる。そしてお互いの反応を確かめるように顔を見合わせる。


「おいおいそれはウチ達女子二人への嫌味か~?」


 岩永さんが僕の両頬を掴み捻る。そのまま彼女はお餅みたいに伸びる頬を上へ下へと動かす。


「ウチらがどんだけ美容に労力割いてるのか分かってんのか~ねぇ寧々ちゃん?」

「そうですね……ちょっと羨ましいです。今日だってわたくしは時間かけて色々しましたのに。生人さんは……」


 二人にどうしようもないことで迫られ、僕はどう言葉を返したら良いのか分からず何も言えなくなってしまう。


「冗談はこれくらいにして、バレー再開しよっか! バレーと言ってもネットもコートもないパスだけのバレーだけど」

「そうですね。今度は力加減を間違えないようにしませんとね。それでは生人さんからお願いします。今度は間違って上に飛ばさないでくださいよ?」


 二人とも凄むのをやめてくれて、僕は峰山さんからボールを受け取り、良い感じの位置を探す。


 何だ冗談だったのか良かった。あまりに真剣な表情だったから本当に怒ってるのかと思っちゃった。

 

 それから僕達はボールでバレーをして遊んで時間を潰し、オープニングショーが始まる頃になったので、今日一日様々なことで使うライブステージへと移動する。


「写真で見たより大きいですね」


 ステージは今回のイベントにだけ作られた割には大きく、舞台にはライトや何かを噴出する装置のような物も見えた。

 僕達が着いてから数分経つと、横に置いてあるスピーカーから音が流れる。


「やっほー! みんな聞こえるー!?」


 その声は僕が配信で聞いたアイの声だ。可愛らしく、それでもってハキハキして明るい声だ。

 周りから歓声が上がり、彼女の声によって場のテンションが上がるのが肌で分かる。


「良い感じに盛り上がってきたね! それじゃあアタシ登場までのカウントダウン開始!」


 ステージの奥にあるモニターに電源がつき、そこに5という数字が大きく表示される。次に4となりカウントダウンが始まる。

 数字が小さくなる度に会場の熱気が増していき、その盛り上がりが最高潮になったところで数字が0となる。

 

 ステージに設置されていた装置から一斉にスモークが噴射され、その中から一人の少女が飛び出してくる。


「みんなのアイドル!! アイ参上!!」


 ピンクに染めた、いや恐らくピンクのウィッグをつけたアイがステージ前方の観客席の前まで飛び出す。

 ダンジョン配信などの活動を通じて知識があるので分かるが、彼女の動きには無駄がなく、より少ない労力で走ったりジャンプしたりしている。


 何て洗練された動きなんだ……そうか。彼女自身もダンジョン配信を行っているんだし多少なりとも訓練とかはしているのか。

 

 それからアイは今日のイベントの内容や、メインイベントである午後からの新曲披露などについて身振り手振り使って話す。


「こんな感じで今日一日飽きずに楽しめると思うから、みんなよろしくねー! で、本当はここで退場の予定だったんだけど、あまりにみんなが盛り上がってくれちゃったから、一曲歌っちゃおうかな!」


 彼女はステージから降りようとしたが、クルッと片足を軸に回転し、そのまま周りながら跳んでステージ中央に戻ってくる。

 時間を見るにまだオープニングショーの時間は残っている。多分今のこれも予定通りなのだろう。


「一曲歌います! "蘇った夢"!」


 そして彼女はデビュー曲でもあり、今の若い人なら知らない人はいないであろう曲を歌い始める。

 歌い始めた瞬間彼女の口から発せられる声質がガラッと変わる。まるで喉に全く別の生物でも飼っているようだ。

 その美声で演奏される歌で、この最高のイベントは幕を開けるのだった。

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