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35話 エックスの正体(田所視点)

「いてて……全くあのキュリアとかいう野郎。容赦なくぶん殴りやがって。自分のこのハンサム顔が傷ついたらどうするつもりだったんだ」


 自分はぶつくさと今ここにいるはずもない人物に文句を垂れながら歩いていた。

 病院から抜け出して、後でまた看護師さんに怒られるかもしれなかったが、それでも自分には今どうしても行きたい場所があった。

 それはDOの本部があるのと同じビルにある、ダンジョン研究員用の部屋だ。正確には最高責任者、つまり美咲の部屋だ。


「おーい。いるか?」


 自分は乱雑にドンドンとノックし、中から返事が聞こえ扉が開かれる。


「これはこれは田所君。どうしたんだね?」


 彼女はさぞ平然に、何も隠し事はしていないと主張するようにニッコリと微笑む。捻くれているかもしれないが、今の自分にはそう見えた。


「ちょっと話があってさ、今時間空いてる? ないなら最悪……他の人に話すつもりだけど」


 その一言に彼女は少し顔を引き攣らせ反応を見せる。どうやら自分が言いたい意味が伝わったようだ。


「中に入るといい。この部屋には基本私しかいないし、しっかり鍵も閉めるから二人っきりで話ができるよ」

「それはよかった」


 自分は彼女に招かれ部屋に入る。中はいかにも研究室という感じで、様々な器具や薬品が置いてある。机には数枚のカードなども置いてあり、ここがダンジョン研究に使われているのだということを実感する。


「ここは私が個人的に調べたいことや興味があることを調べたりしていてね。実際ここで出た面白い仮説を仕事に持ち込んで活かすことも……あぁ悪いね。今は君が話に来たのに私が喋ってしまって。研究者の悪い癖さ気にしないでくれ」


 薄暗いこの部屋で、聞いてもいないのに彼女はペラペラと話をし出す。


「じゃあ早速用件を言わせてもらおうか。エックスに変身していたキュリアとかいう奴は誰だ?」


 自分はここに世間話をしに来たわけでもないので、さっさと本題に入る。先日あったあのキュリアとかいう謎の青年についてだ。


「キュリア……確かエックスの正体だった男だと聞いているが……少なくとも私はそれ以上の情報は知らないね」

「いや知っているな。あいつはお前が用意した影武者なんだからな」


 自分は食い気味に彼女につっかかる。正直半信半疑で現状証拠はなかった。しかしそれでも集めた状況証拠と元警官としての自分の目がこいつが犯人だと伝えている。

 元より司法でどうこうできなそうなことは分かっていた。だからこちらも法外でメチャクチャな戦法を取るしかなかった。

 

「影武者? 何を言ってるのか私には理解できないな。実は私がエックスの正体で、疑いを逸らすために彼を使ったとでも言いたいのかい?」

「その通りだ」


 自分の自信ありげな返答に彼女は目を細めこちらを睨む。ここまで自信たっぷりなのは想定外だったのだろう。彼女がこちらがどれほど情報を持っているか分からない以上、もし彼女が犯人なら動揺を見せるはずだ。

 現に彼女から今まで貼り付けていた愛想笑いが消えている。自分の中で彼女への疑いが更に高まる。

 

 とはいえこれだけでは流石に証拠に欠ける。自分は現状ある手札でこいつから更に情報を聞き出さなければいけない。


「もちろん根拠もなく人を疑ったりはしないよね?」


 睨んだ目を戻し、また人が良さそうにして話を再開させる。

 

「そうだな……例えば前回以外のエックスが出た時間帯お前がどこにもいなかったり、つい先日ショッピングモールでお前がコソコソと生人をストーカーしてたこととかは知ってるぞ」


 自分は仕事をサボるように見せかけて色々調べていた。先日は仕事もなかったので怪しいと睨んでいた美咲の後を追っていたのだ。

 そしたらなんと彼女は生人のことをつけていたのだ。その姿はまるでストーカーさながらで不審者そのものだった。


「それは偶然とは片付けられないかな? 証拠としてはいささか弱すぎ……」

「じゃあ何であの日生人をつけてた? その目的は? それにまだ不自然なところがある。どうして昨日お前がトイレに入って長時間出てこなくなった途端にダンジョンが現れた?」


 ここが攻め時だと思い自分は今出せるだけの手札をぶち撒ける。ちまちまやるよりかはこうやって一気に出した方が効果的だからだ。


「女性をそこまで尾行するなんていささか失礼じゃ……」

「いいから質問に答えろ三十路ババア」


 この白々しい喋り方。そして瞳に宿る悪意に自分はこいつこそがやはりエックスなのだと確信する。

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