30話 Third X
「そろそろか……」
僕はデッキケースから疾風のカードを取り出す。カードを見たが、使用不可状態の際に見られる黒く変色した状態ではない。
奴らがここまで来るよりも先に僕はカードをセットする。
[スキルカード 疾風]
風になったような速さで奴ら四体を一気に翻弄し、各々に何発も拳を叩き込む。
十秒経過し疾風の効果は切れてしまったが、それでも奴らの陣形を崩すことには成功したので、僕はすかさず一体一体トドメを刺していく。
しかし最後に残った鳥のサタンが僕に臆したのか、その場から飛び立ち逃げていってしまう。
「逃すか!」
逃した場合の被害を考え、僕は素早くカードを二枚取り出しセットして奴に追撃を仕掛ける。
[スキルカード ジャンプ ヒート]
全身が発熱して熱されたフライパンのようになる。つまり莫大なエネルギーを持つ。それに加え足にオーラを纏って僕は跳び、容易に奴の頭上まで行く。
「はぁぁぁぁ!!」
僕はそのまま奴の頭を足で挟む。ジューと肉が焼け焦げる音と匂いが発生し、奴は飛ぶ余裕がなくなり真っ逆さまに落下していく。
しかし地面に激突するよりも先に僕は足に更に力を加える。ギチギチと嫌な音を立て始め奴の首が引きちぎれ宙を舞う。
僕が華麗に地面に着地しスキルカードの効果が切れ、奴はカードとなり数秒時間を置いて落ちてくる。
「よし。そこそこ強いサタンだったけど、何とか倒せた」
グッと拳を握り締めて、僕は喜びたかったが今はそんなことしている状況ではないのですぐに三階へ戻ろうとする。
戻ろうとした僕の視界の端に紫色の球体が映り込む。
「えっ? うわぁぁ!!」
それは目の前で破裂し僕は大きく吹き飛ばされる。
「まさか……エックス!?」
球体が飛んで来た方向には既にシャークのアーマーも着ていたエックスの姿があった。
「こんな忙しい時に……返り討ちにしてやる!」
強気な言葉を言い放つが、今は僕の方が圧倒的に不利だ。戦闘の疲労はそこまでではないが、有用なスキルカードが今ほとんど使用不可状態なのだ。
これではトランプ三枚でポーカーをやっているのと同義だ。
「ラスティー……いや生人と呼んだ方がいいか。オレと戦え。オレを楽しませろ!」
奴はまるでおもちゃを与えられた子供のように、機械音声なので分かり辛かったが抑揚をつけている。ピョンピョンと跳ね準備体操を始める姿からは本当に子供っぽさを感じる。
あれ? 前に見た時と様子が違う? 前はもっとクールな感じだったような……いや、話し方なんてどうでもいい。今はヒーローとしてコイツを倒すことだけに集中するんだ!
「行くぞ!!」
奴はこの前よりもキレと速さのある走りでこちらに迫ってくる。その威圧感はまるで生身でライオンに睨まれたかのようだ。
その威圧感に飲み込まれないように意思を保ち、僕は強敵と対峙し拳を固める。
まず奴が繰り出した高速の拳を手で掴み受け止める。
「っ!? 何だこの拳……重い……!!」
その拳はまるで巨大な岩石のような重さが乗っかっており、受け止めたはいいものの僕は段々と後ろに下げられる。
前より動きのキレも、殴り方も良くなっている。認めたくないけど物凄く強い。でもここで僕がやられるわけにはいかないんだ……!!
目を血走らせて必死になり、その拳を何とか押し返す。
今の一撃サメの噛みつきを使っていたら僕は負けていた。まさか舐められているのだろうか?
そう思うと奴に小馬鹿にされたような気がして、奴が好き放題していることも相まって怒りが湧いてくる。
「生人さん! 伏せてください!」
背後から峰山さんの叫び声が聞こえてくる。僕はすぐさまそれに反応し地面に伏す。僕の頭上を数多もの光矢が通り抜けて奴に命中する。
奴はすぐに物陰まで隠れガトリング砲の脅威が及ばない場所で潜む。
「偶然にも初めての時と同じメンバーですね」
背後から彼女が砲を構えたまま歩いてくる。
「とは言ってももう田所さんにも風斗さんにも連絡はしました。すぐに来るでしょう。それまであなたを逃すつもりはありません。あなたの負けです」
彼女のその言葉に反応し、奴が僕にだけ丁度顔が見えるくらいまで顔を出し声を出す。
「四人全員が来るのか。それは好都合だ全員まとめて倒してやる」
そう啖呵を切ったと思い僕達は奴の攻撃に警戒したが、奴が取った行動は予想だにしないものだった。
何とこちらに背を向けて逃亡しだしたのだ。
「は? え!? 戦う流れじゃないの今の!?」
あまりに言葉と行動が噛み合ってないこともあり、僕はついツッコンでしまう。
「ツッコミ入れてる場合じゃないでしょう! 早く追いかけますよ!」
峰山さんに軽く叱責されつつも、僕もすぐに奴を追いかける。峰山さんが飛んで先回りして撃つも、奴はそれを容易に躱しどこかへ向かう。
エックスは何が目的なんだ? 僕達二人に勝機がないわけではないのに。もしかして増援を来させないために引き剥がしている? だとしたらこの状況はまずいのか?
「峰山さん! 僕を奴に向かって放り投げて!」
「え? わ、分かりました!」
意図を説明する暇はなかったが、それでも何か策があるということは彼女も理解してくれて、迷いなく僕を三階まで逃げた奴に向かって放り投げてくれる。
奴には届かなかったが、それでも十分だった。奴をある程度近くで遮蔽物のない直線上に捉えられたのだから。
僕は先程念の為に拾った、峰山さんの撃った光の矢によって崩れた壁の小さな破片を宙に上げる。それに向かってオーバーヘッドキックをし、拳銃よりも速い速度で射出する。
奴は予想している攻撃には、例え銃弾の速度だろうと見てからでも躱せる。でも予想外の虚を突いた攻撃なら……峰山さんの最初の一発が当たったように命中するはず!
「ちっ、間に合わない」
奴は舌打ちをし、僕が蹴ったそれに向かって紫色の破裂する球体を発射して相殺する。
迎撃こそされてしまったが、その分奴は減速した。僕が全速力で走って追いつくには十分な程に。
走る勢いをそのまま利用して、バッタの強力なこの足でドロップキックを奴に放つ。奴は防御するものの大きく吹き飛ばされ地面を転がる。
「逃げるのもここまでだ……ってここは」
奴が転がった先はダンジョンの門のすぐ前だった。僕は奴の進行方向に蹴り飛ばしたので奴はここに来たかったということだろう。
「何をするつもりだったんだ? 峰山さん。警戒して。何をしてくるか分かんないよ」
「言われなくても分かっています。奴の動きや周りに注意して確実に捕えましょう」
僕達がジリジリと詰め寄ると、奴は立ち上がりこちらに向き直ったかと思うとすぐにバックステップし後方に跳ぶ。
「なっ!? 待てその先は!!」
僕が駆け出し、峰山さんが咄嗟に撃つも既に遅く、奴は門を潜り抜けダンジョンの中へと入って行ってしまった。




