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28話 恥じらう天使

「あ、いたいた生人くんー!」


 どう言葉を返そうかと思っていると、少し離れた棚の所から顔を覗かせた岩永さんに呼ばれる。


「ちょっと寧々ちゃんが呼んでるから来てもらっていい?」


 峰山さんが? どうしたんだろう?


「友達かい? 行ってきなよ。私はやることがあるから」

「うん! また今度ね!」


 僕は岩永さんの呼びかけに応じてそちらに向かい、そして彼女に試着室の前まで連れて行かれる。

 カーテンがかかっており中が分からないが、峰山さんの靴が置かれているのでこの中に峰山さんがいるのだろう。


「生人くんに見て欲しいんだって」

「え? 何で僕に?」

「あー……これは寧々ちゃんも苦労人だなー」


 岩永さんは苦笑いを浮かべ、僕のお腹をツンツンと突いてくる。


「どういうこと?」


 僕は突いてくる彼女の手を払い自分のお腹を手で覆い守る。


「生人くんにもそのうち分かる日が来るよ。あ、寧々ちゃん? 連れて来たけど開けても大丈夫?」


 岩永さんがカーテンの方に近づき向こう側にいる峰山さんに声をかける。向こうから構いませんと一言返ってきたので、岩永さんはおもいっきりカーテンを開け放つ。

 カーテンの向こうには赤いワンピースを着た峰山さんがこちらを向いて立っていた。

 太腿の中程までの長さの明るく淡い赤色のワンピースで、透明度が高く割れたお腹がうっすらと見えている。


「どう……ですか?」


 その姿を見せつけるようにしながら、若干不安が含まれた声色でこちらに感想を求める。


「どうって……可愛いと思うよ! この前言った僕の好みの色にわざわざ合わせてくれたんだね。ありがとう!」


 この言葉は別に彼女を気遣って言ったお世辞ではない。本当に本心から可愛いと思ったのだ。

 それに僕の言った好みに合わせてくれたのも単純に嬉しかった。


「決めました。これにします」


 僕の感想を聞いてから彼女は即この水着にすると決め、水着を脱いで着替えるためにカーテンを閉める。


「あらら……分っかりやすいねー」


 岩永さんが楽しそうにニヤつき僕の方と試着室の方を何度か見る。


「確かに言い方が直接的すぎたかな?」

「いやそうじゃなくて……まぁいいか。それより生人くんは水着決まったの?」

「あ! まだだった!」


 僕はもう一度美咲さんと話した場所まで戻り、良いサイズで尚且つそこまで子供っぽくない物を何とか探すことができた。アロハ柄の下だけの水着で、これが一番無難だった。


「良いもの見れたわー」


 各々水着を買ってこのお店から出るなり岩永さんが満足そうに言葉を出す。

 

「そんなに良い水着でもあったの?」

「いやーそれよりも良いものを……ね?」


 彼女はチラリと視線を峰山さんの方に向ける。その視線を追いかけると彼女の若干口角の上がった顔に辿り着く。


「ど、どうしたんですか?」


 僕達二人に急に顔を凝視され、彼女はいつものような無表情に戻る。


「なーんか寧々ちゃん嬉しそうだなーって思って」

「こうやって友達と買い物だなんて来たことがなかったので、楽しいし嬉しいですよ」

「ま、今はそれでいっか。こういう面白いのが見れなくなるのも残念だし」


 岩永さんは僕にはよく分からないことをぶつぶつと呟く。


「じゃあ水着も買い終わったし、まだ時間もあるから今からゲームセンターに行くのはどう?」


 呟き終わるなりこちらに振り返り、呟きとは反対にハキハキと言葉を述べる。


「いいね! メダルゲームとかし……」


 僕がその提案に賛成しようとしたところ、グラリと大きな揺れが僕達を、いやこの場にいる全員を襲う。


「じ、地震!?」


 岩永さんは驚き、揺れの強さから転びそうになるので立つことをやめその場にしゃがむ。

 僕と峰山さんは日頃から鍛えているのでこれくらいの揺れなら耐えられた。怖がる岩永さんの一方、峰山さんは冷静に情報を得るためにスマホを開く。


「緊急地震速報が出ていない……!?」


 そしてスマホを操作すればするほど冷静さが失われ、焦りが汗と共に出始める。


「警報がないってことは、地震がないってことだよね……この衝撃が地震じゃないとしたら……!!」


 僕も恐らく彼女と考えが一致し、すぐに行動に移らなければここが悲惨な姿になることを即座に理解する。

 だからこそ僕達二人はすぐに行動に移る。DOとして。ヒーローとして。

 

「岩永さん! 今すぐここから逃げてください!」

「え? いやでもこの建物新しいし倒壊はしないと思うけど」

「そうじゃありません!!」


 人命が関わっている可能性があるので、峰山さんはいつも見せないような鬼気迫る表情になる。

 彼女が叫ぶのとほぼ同時に、僕と峰山さんのバッグからアラーム音が鳴り響く。それはランストに設定してあるダンジョンが現れた際になる音だった。


「やっぱり……峰山さん! 僕は先に門の方に向かって出てきたサタンに対処するから避難誘導をお願い!」

「分かりました!」


 ダンジョンの出現を確信してからの僕達の行動は早かった。僕はすぐに見渡しの良い二階まで上がり、門がないかを探す。


「生人!! 聞こえるか!?」


 ランストから父さんの声が聞こえてくる。その声色は焦りが含まれていて、自然と僕の緊張を更に引き締める。


「うん! ダンジョンがショッピングモールに出たんでしょ!?」

「あぁそうだ。今そこにいるのか?」

「そうだよ。門の場所は分かる?」


 時間は一刻を争うかもしれないので、手短に早口で情報をやり取りする。


「場所は西口三階だ。田所と真太郎もそっちに向かっている。それまで寧々と二人で持ち堪えてくれ!」

「分かった!」


 ランストの通信を切り、僕が急いで三階へ向かおうとするとすぐに三階から悲鳴が聞こえてくる。

 僕は急いで三階に向かいその悲鳴の出所まで走る。


「うぁ……だ、誰か助けてぇ!」


 そこには腰を抜かしてしまったのか、床にへたり込む男の子の姿があった。そして何よりそのすぐ近くに今にもその子を襲おうとしているサタンがいた。

 二足歩行の、毛むくじゃらの巨大な狼が牙をチラつかせながら今にも子供に飛びかかろうとしていた。

 辺りの大人は助けず、というより助けられるはずもなく悲鳴を上げ逃げ惑っている。


「やめろっ!!」


 僕の怒声を浴び、サタンは興味を男の子から僕へと移す。それから間髪入れずにこちらに走ってくる。その速度は地上の狼以上で、まるでバイクのような速度だ。


「変身!!」


 そんな姿に怯えることなく、僕はランストを装備して変身し奴と対峙するのだった。

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