22話 水流ステージ
「さぁ、ヒーローのレース開始だ!!」
僕はいつものお決まりのセリフを少しアレンジしたのを言い、それと同時にカウントが0になり僕含めた全員が一斉に走り出す。
バイクの轟音が周りで鳴り響き、僕達は急加速し一番を取りに行く。
「くらえっ!」
僕が慣れないながらも頑張り前に繰り出そうとした時、横からサタンの一匹が急に足蹴りを放ってきた。
距離が少しあったのでなんとか躱すことができたが、危うく大事故になるところだった。
「何をするんだ!? これはレースゲームじゃないの!?」
「あぁそうだよ。破壊妨害何でもありのレースゲームさ! 楽しもうぜ!」
奴は一本の槍をどこからか取り出しこちらに向かって投擲してくる。
「破壊妨害って、本当に何でもありなのか……」
呆気に取られながらも、僕は槍がこちらに届く前に素早く疾風のスキルカードをセットする。
[スキルカード 疾風]
本来の数倍になった速度で地面を蹴り抜き、バイクごと自分を宙に浮かして槍を躱す。そのまま跳んだ勢いを利用して、ハンドルを強く掴みバイクをおもいっきり振って奴にぶち当てる。
槍で防がれたもののその質量から放たれた衝撃は大きく、奴は大きく横にブレるがコースアウトにまでは至らない。
何でもありのレースか。これはよく考えて動かないと隙を突かれてやられちゃうかも。
僕と田所さんを含めてレースの人数は六人。つまりサタン達四人が僕の妨害をしてくると考えるとかなり厄介だ。一匹ならまだしも四匹とも対応するとなると流石の僕でも骨が折れる。
「おーい生人! そろそろ下気をつけろよ!」
四人の位置を見極めながらどうしようかと悩んでいる最中、後ろから田所さんが大きな声で叫ぶ。
「え? 下?」
言っている言葉の意味が分からず、とりあえず言われた通り奴らの他に下にも警戒を向ける。すると突然ガクンと地面が沈むようにして揺れ始める。
体勢を何とか保とうとしている間にも揺れは段々と大きくなっていき、更に大きく地面が沈む。
もはや道などはなく、僕達六人は地面の下に何故かある空洞へと落ちていく。
「落ちるーー!!」
空中に放り出されて身動きが取れず、峰山さんならこの状態で飛んだりもできただろうが、僕にはどうすることもできない。
段々と速くなっていく感覚に囚われ不安が込み上げてくるが、下に水が見えたことでその不安は掻き消される。深さもかなりありあそこなら落ちても大丈夫そうだ。
そう考えて一秒もしないうちに僕はその水に叩きつけられる。バイクを離さないようにしながらもそこそこの衝撃が襲ってきたので、僕は表情を歪ませる。
「ぶはっ!」
沈んだ後浮かび上がり水面に出て僕は大きく一呼吸する。
「他の奴らはどこに……ん? 何だこの水流?」
僕は今自分の体が流されていることに気がつく。その流れる先を見てみればそこには大きな土管があり、その口は下の方を向いていた。
「え? また落ちるの……? うわぁぁぁぁ!!」
叫び声こそ上げたものの今度は大して高くなく、すぐに着地した。着地した先は透明な巨大の管の中だ。謎の透明な物質の向こう側は一面海のような場所である。
さっきまでレース場にいたのに今度は海の中か……ダンジョンなんておかしくて当たり前だし考えても無駄か。
僕は混乱する脳内に無理矢理理屈をつけて落ち着かせ、もう既に前に行ってしまった奴らを追いかけバイクを発進させる。
「そういえばこのバイク防水なのか……驚いた」
『何これ? 明らかに物理法則無視してない?』
『そもそも何でバイクが水に沈んだのに動けてるんだよ』
『ダンジョンじゃ気にしたら負けだぞ』
コメントをチラリと見てみたが、視聴者のみんなもここの他とは違う異質さに困惑していた。
まぁでも仕方ないか。現に僕も頭がパンクしそうだし。でもここは何か言っておいた方がいいかな? ついて来れなくなる人もいるかもだし。
「みんな大丈夫! どんなおかしな状況でも、どんなに難しいことでも、この僕、ラスティーなら何とでもなるさ! だからこのまま配信を切らずに僕がこのレースで一位を取るところを目に焼き付けてね!」
僕のこの一言でとりあえずだが場は盛り上がってくれて、困惑するコメントの量も減った。
さて、こうは言っちゃったけど、結構キツいかもな……今多分田所さんが裏にいることを考慮して五位だろうし。実質最下位か。一気に巻き返していかないと。
僕はグッとハンドルを強く握り加速する。そうして同じ変わらない景色を見続けながら、奴らに近づいていることがドンパチと争っている音から分かる。
サタン同士でもやり合っているのか。ちゃんとレースとしては全員敵としてやってるのは感心するな。
水をパシャパシャと弾きながらグングンとその音に近づいていると、目の前からいきなりブーメランが飛んでくる。
「くっ……!!」
あまりに唐突だったのと、こちらが加速している最中だったこともありかなりギリギリの回避となってしまい、一瞬視界を切り前を見ない時間を生んでしまった。
「まずは一人目ぇ!!」
バッタのような顔と体の、言うなればバッタ人間が僕に襲いかかってくる。その跳躍力で僕の視線が切られたほんの一瞬の隙をついて急接近してきたのだった。




