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12話 最終バトル(椎葉視点)


 愛花ちゃんは元は自分の体だというのに容赦なく攻撃を放ってくる。その拳一発一発に明確な殺意が込められ、上手く防げず意識が段々と刈り取られていく。

 それでもこのまま無抵抗で殺されるわけにはいかない。


[スキルカード マジック]


 アタシは二体の分身を向かわせ彼女の両腕を掴み上げさせようとする。


「へぇー……こういうことするんだ。じゃあこっちも……やれ」


 途端に止まっていたサタン達が動き出す。大砲を一斉にビルに向かって構える。


「ぐっ……!!」


 歯を噛み締めながら分身二人をサタンの方に向かわせ、自分もサタンの腹を蹴り抜き発射される大砲の数を少しでも減らそうとする。

 しかし動揺していたこともあってかこれが作戦だと気づくには一秒ほどかかってしまう。ガラ空きになった本体であるアタシに彼女はマイクの球体部分を飛ばす。

 身を捩りギリギリの所で躱すがこれも彼女の想定内の行動だった。マイクの糸がアタシの体に纏わりつき拘束する。それを手繰り寄せるようにしてアタシは引っ張られる。


「あなたは元々いるはずのない害虫だ!! だからさっさと死んでよ!!」


 両腕を縛られた状態で憎しみが籠った拳が何発も顔面に飛んでくる。


「アタシの体を奪っといて、アタシの夢や感情を自分のもののように扱って……気持ち悪いのよ!!」


 何度も。何度も。血が流れ彼女自身も手が痛むはずなのに、そんなこと無視してずっと殴り続ける。


「それでも……!!」


 アタシはマイクの糸を引きちぎり、何十発めかの拳を手で受け止める。


「あなたの体を奪ったことはアタシの許されない罪よ……でも、あの子の記憶があるから分かる。あなたは愛花ちゃんじゃない!!」


 迷いを振り切り彼女の腹に膝を捩じ込む。鎧は深く凹み彼女を大きく後退させる。


「愛花ちゃんなら……こんな恨みをぶつけるような戦い方はしない……迷いなく自分のために人を傷つけることなんてできない!!」


「くっ……くくく……どうやらデウス君の記憶とは違い君は相当精神的に成長しているようだね」


 彼女の体がカクカクとまるでロボットのように、所々間接が音を立てながら不気味に動く。

 そして稲妻と同様の黒いオーラが飛び出しそれが女の子の、モルスの姿となる。


「ここからはワタシ自ら遊ぶ。お前はサタンを連れて別の場所に行け」


 奴は手から例の黒い稲妻を出してサタン達と愛花ちゃんに投げ渡す。キュリアくんが触った時は凄まじい衝撃が走っていたが、奴らは触れてもなんともないようだ。

 モルス以外みんな去っていくが追いかけていくなんて、この底無しの邪悪を孕んだ瞳で睨まれた状態で隙を晒すなんてとてもじゃないができない。

 

「あれだけの数がたった一人になってくれるなんて好都合だわ」


「数日前は楽しむ暇もなかったからな……用事も済んだことだしやっと本腰を入れられるよ」


「数日前……? まさかあなたは……!!」


 その口振りと瞳。そして今の発言。アタシの中で奴はモルスに対して威圧的に当たっていた男だと確信する。


「そうだが。まぁ気にせずやろうか。お前の死体を見せた時のデウスの反応が楽しみだ」


 デウス……確か生人くんの寄生虫時代の名前だったはず。だとするともしかしたら……


「生人くんはまだ生きてるの?」


「ん……そうか。狭間に行ってたから感覚がおかしくなってた。お前らはデウスがまだ生きてるのを知らなかったのか」


「じゃあ生人くんはどこに……?」


「ここだ」


 奴は親指で自分の胸を突き刺す。血が滲み出るが微塵も痛がりはせずグリグリと更に深く捩じ込む。

 引き抜けば傷口は黒いモヤに包まれ瞬時に再生する。その再生速度はアタシはもちろん、生人くんやキュリアくんのそれよりも遥かに速い。


「あいつらは今ワタシの中にある生と死の狭間でワタシの分身と戦っている。デウスの妨害のせいで見つけるのに時間がかかったが、なんとか間に合って分身に任せてこっちに戻ってきたってわけだ」


「じゃあ今生人くんは……」


「向こうでワタシと必死になって戦っているよ。とはいえ彼らが負けるのは時間の問題だがね」


 生人くんが生きていたことに安堵したいが事態はそう楽観的ではないらしい。すぐにでもこいつを止めなければ生人くんは殺されてしまうかもしれない。 


「その前にアタシが……止めるっ!!」


 地面を強く踏み込み一気に距離を詰めて拳を突き出す。時間があまりない。時間をかけずに奴を倒すのがベストだ。

 しかしアタシの拳は容易く受け流されてしまいカウンターのパンチを腹にもらってしまう。


「この前の戦いを覚えていないのか? そこまで馬鹿とはデウスの記憶にもなかったはずだが……」


「うるさい……!!」


 血を含んだ口で強気に言葉を発し、アタシは戦闘を続行させるのだった。

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