9話 ただの女の子
「ふぅ〜疲れたし喉も乾いたな。生人ちゃん何か持ってない?」
「ここじゃ喉は乾かないよ? ふざけてないでモルスを探さないと」
村に入り、ボク達は軽口を投げ合いながらもしっかりとモルスの捜索にあたる。
「お兄さん達面白い格好してるね!」
その集中力は背後からかけられた女の子の声によって掻き消される。明るいものだったので気づくのに少し時間がかかったがそれはモルスのものだ。
振り向くとそこには現代で見たより少し幼く見える彼女が笑顔でボク達の方を見つめていた。
この世界では覗かれた本人しかボク達に干渉できないし認識もできない。逆も然りだ。だからこの子がモルスで間違いない。
「おいおいこの子が本当にモルスちゃんなの? ずいぶん雰囲気違わない?」
「おじさん何言ってるの? モルスはモルスだよ!」
彼女は自分という存在を目一杯見せつけるべく両手を広げて自分を主張する。屈託のないその笑みに今までの疲れを忘れられて癒される。
「じゃあモルス。君のことを教えてくれるかな? いつもどんな風に過ごしてるのかとか」
こんな純粋そうな子に色々詮索するのは気が引けるが、ここに長居できるとも限らない。なるべく手短に、より多くの情報を手に入れる必要がある。
「えーっとね、お母さんの洗濯を手伝ったり、お父さんの農作業手伝ったり……後は友達と遊んだりだよ!!」
「うーん……これだけじゃ何も分からないな。田所さんは何か分かった?」
「いや何にも。って、何だあれ?」
田所さんが指差した空には一つの物体が高速で動いていた。そしてそれはこちらに向かってきており、数秒もしないうちにそれは村の近くに落ちる。衝撃がここまで伝わりボク達は立っていられなくなる。
それと同時に頭痛が酷くなっていきボク達の意識は闇に落ちていく。
☆☆☆
ボク達は同じ村で目を覚ます。だが一目で時間がかなり経ったということが分かる。人々の活気が明らかに減っている。というより体が痩せこけており目が死んでいる。
「大丈夫生人ちゃん? で、これは……」
田所さんも目を覚まし辺りを観察する。とりあえずどういう事態か探るために村の中を散策する。
「何を言っているの!!」
民家から女性の怒鳴り声が聞こえてくる。ボクらは気になり誰にも見えていないので堂々と民家の中に入る。
「あの人怖い……会いたくない……」
中には涙目で子鹿のように震える半裸のモルスの姿があった。露出された上半身には痣が多くあり、下腹には一度切り裂かれ中身を取り出されでもしたのか縫合痕がある。
「おやおや。どうしたのですか?」
ボク達の背後の扉から男が入ってくる。今回の事件の元凶、そしてボクの同族であるバランだ。
長身のため腰を曲げながら家に入った後ボク達をすり抜けてモルスの前まで近づく。
「嫌だ……もう痛いことしないでよぉ!! 死んじゃうよ!! もうやめてよ!!」
途端にモルスは暴れ出し家にあるものをやたらめったらに投げる。
「やめなさい!!」
母親なのかどこかモルスの面影がある女性が彼女を羽交い絞めにして口に布を詰め込む。
「むぅ!! うぅ!!」
口に含んだ布が涙と唾液で濡れる。地面にもそれらの混合液が垂れ落ちる。それをみてバランは怒るどころか機嫌が良さそうにして我慢はしているが隠せないほど口角を上げる。
「モルス。キミがワタシのじっけ……儀式に参加しないのは勝手だ。でもその場合誰がキミの代わりになると思う?」
モルスの抵抗がピタリと止む。俯きながらもこくりと頷く。それからどこかに出かけるのか彼女は着替えを始める。
「このいけ好かない野郎が黒幕ってことか。胸糞悪ぃ」
ボクも同意見だ。同じ寄生虫だから酷いことをするのは分かってはいたがここまでくると触れられないと分かりつつも殴り飛ばしたくなる。




