1話 あの日の幻影(田所視点)
「ふぅぅぅ今週も疲れたぁ〜」
自分はDO待機室のソファに深々と座り込み大きな溜息を吐く。
「今週は生人がエジプトに調査に行っている都合で仕事が増えてますからね」
「頼むから寧々ちゃん戻ってきてくれよー! おじさんこのままじゃ過労死しちゃうよー!」
「みっともない真似はやめてください。あいつはあいつの道を今も歩いているんですから。俺達は応援しましょう」
寧々ちゃんは今や大企業の社長。しかもたった五年で会社を立て直してしまった。
「寧々ちゃんも気づかないうちに雲の上の存在になっちゃったなぁ……最後に会ったのいつだっけ?」
可愛い後輩が立派になったことを喜びたい一方でやはりどこか寂しさも覚えてしまう。
智成さんが倒されそれから色々方針を決めたが、今でも自分はこの判断が正しかったかどうか断言できない。
今ではマシになったが、それでも生人や自分といった寄生虫に対する不安の意見は寄せられるし、DOの体制に関する誹謗中傷めいたクレームもよく入ってくる。
正直に言って自分はあの時の選択を信じられなくなってきている。それを更に加速させた原因はついこの前判明したあれだ。
「そういえば美咲? 結局のところ災厄の日とかで死んだ人を生き返らすことってできないのか?」
「君もしつこいね。無理だよ。もう調べきったろう? それにたとえ生き返るとしてその際に生まれる問題はどうする気だい? 人権関連の手続きや命の価値の低下。それこそ命を粗末にする特攻作戦が流行してしまったらどうする気だい?」
「へいへい分かりましたよっ!!」
自分は大人気なく不機嫌そうに美咲が向かっていた机を一回叩き自分の部屋に帰る。
「はぁ……」
自分はなんて嫌な奴なんだ……これじゃ十五年前と、災厄の日以前と何にも変わんねぇじゃねぇか。
あの日から必死に変わろうとし続けた。何度も過去を忘れて今を、未来を生きようとした。しかしそれでもあの日のことが、死んだ親友の事が頭から離れない。
あんなに明るく振る舞っておきながらいつまでもウジウジしている自分に本当に嫌気が差す。
ランストからうるさくアラーム音が鳴り響く。もうダンジョンやサタンが出現することはない。このアラームが鳴ることなんてありえないはずなのに。
また昔の幻覚でも見ているのだろうか?
「いや……違う。これは……!?」
幻覚ではない。いくら経っても音が鳴り止まない。自分は急いでランストを取り出して確認する。
やはり幻覚ではなかったようで、近くの街にサタンが出たらしい。風斗ちゃんと美咲はもう現場に向かっているらしく、自分は一歩遅れてしまっている。
「クソ……何やってんだ自分!!」
部屋から飛び出て足のタイヤをフルスロットルで回し現場に急行する。
焦りと罪悪感に心を押しつぶされていたせいか、それともただ単に雨で濡れていたせいなのかみっともなく滑ってその場に横転してしまう。
「なんなんだよ……あぁクソ!!」
自分は地面を強く殴りつける。この変わりきった寄生虫の拳で。
なるべく考えないようにしてはいたが、今の自分は人間ではないと、風斗ちゃんや親友とは違う存在なのだと大きく凹んだ地面をみてふと考えてしまう。
「よっ! 相変わらず暗い顔してどうした?」
「はっ! またお前の幻覚か。もういいって……」
親友の幻覚を無視して風斗ちゃんの元まで向かおうとするが、あろうことかその幻覚が自分の肩を掴み顔を引っぱたいてくる。
大きな水溜りの上に尻餅をし、自分は目を見開き彼の顔をじっと視認し確かめる。
「そんな……ありえない。だってお前は死んだはずじゃ……!?」
「そんなこと言ったらお前もだろ? なぁ……ジブン一人じゃ寂しいからさ……」
親友の、武の顔に太い血管が、いや寄生虫が何匹も浮かびあがる。表情がおぞましい悪意が籠ったものへと豹変していき、ランストを装着する。
[ロブスター レベル30 ready......]
何度もともに仕事をしてきたあの鎧に、深紅の鎧を身に纏いジリジリと距離を詰めてくる。
あの日喧嘩別れした親友が、あの日の続きを行おうとしている。




