序章 古代遺跡
時系列としては最終話から五年後の世界の番外編です。
後日談までの保管や新たなストーリーを行っていきます。全25話前後です。
「あのー生人隊長? 本当にこの先行って大丈夫なんすかね? いや最初は俺も現地の人の大袈裟な迷信って笑ってましたけど……悪寒がすごいっていうか。今からでもいいからみんなを呼びに行きません? 二人だけだと怖いですって」
エジプトにある古代遺跡の中。ボクを隊長とする調査隊の一人が足を震えさせる。実際ボクもこの言い知れぬ不安を肌で感じており、この先にある棺桶へと近づく度にそれは強くなっていく。
「怖いからって何も調べずに逃げるわけにもいかないでしょ? ちゃんと仕事はこなさないと」
「おぉ……生人隊長はやっぱ貫禄があるなぁ。俺より年下のはずなのに。あれ? 今おいくつでしたっけ?」
「この前の夏に二十になったよ」
「まじっすか!? じゃあ今度お酒飲みに行きましょうよ! 実家が居酒屋だからうまい酒とか紹介できますよ!」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうことにするよ。それよりもう無駄口は慎んでね」
薄暗い階段を下り終え、今にも崩れ去ってしまいそうなほど脆い扉の前に着く。近くの壁面には何か文字が未知の言語で書かれている。
「この文字は……何でここに?」
「その文字知ってるんすか?」
「い、いや気のせいだったよ。それより棺桶を調べにいこう」
扉を開けて中に進めば思っていたより二回り大きな部屋に出る。その中央にポツンと石で作られた棺桶が置いてあり、悪寒の出所がそこなのだと一目で理解する。
「キシャァァァ!!」
そこには棺桶を守るように一体の二足歩行の蝙蝠型サタンがおりこちらに敵意を剝き出しにして襲い掛かってくる。
「須藤君は下がって美咲さんに送る用にカメラ回してて!」
ボクは彼を下がらせ、飛び掛かってくる奴に回し蹴りを放つ。寄生虫の力を引き出し、そのまま押し出すようにして跳ね飛ばし壁に激突させる。受け身を取らせず即座に拳を叩き込み奴の胸部に大きな風穴を開ける。
「カードにならない……?」
奴は完全に事切れたというのにカードに変わる気配が一切ない。それはこの生物がサタンではない未知の存在だということを証明している。
「一体何なんでしょうねこいつ?」
「それもこれも全部これを開けてみれば分かるかも……カメラしっかり回しといてね」
「りょーかい」
ボクはゆっくりと棺桶に手をかけ重い蓋を慎重に開けていく。
「これは……ミイラ?」
中に入っていたのは人間のミイラだ。体格は小さく十歳前後程だろうか。
どこかの王朝のご子息とかなのかな……? ここは寄生虫の力でもっとよく調べてみるか。
ボクは手をこいつの頬に近づけ、体の一部を寄生させようとする。
しかしボクの手が頬に達する前にミイラの腕が跳ね上がりボクの腕を掴み上げる。同時にこいつに何かを吸われるような感覚に襲われて力が抜けていく。
「放せ……!!」
ボクは何とかその手を振り払い、ランストを取り出しつつ後ろに下がる。
「須藤君は逃げてて!! あと上にいる人達を避難させて!!」
「分かりました!!」
すぐさま指示通りに動いてくれて、ボクはこの空間で自由に暴れられるようになる。
「変身っ!!」
[ラスティー レベル30 ready......]
お馴染みのこの鎧を纏い、ボクは正体不明の怪物に対峙する。
「ここは……そう。やっと覚めたのですね」
ミイラの顔にみるみる内に生気が宿り、ハリのある美しい褐色の少女に変わる。長い黒髪を携え手にはいつのまにか金色の杖が握られている。
「君は一体……ぐっ!?」
突如として背中に激痛が走る。腹部から黒い稲妻が突き出しており、背中からこれを刺されて貫通してしまっているようだ。
「これはこれはデウス君じゃないか。お久しぶり。あれ? 雰囲気が変わったんじゃない?」
黒髪の金色の仮面を着けた男に背後を取られてしまっており、段々と力が抜けていき意識が遠のいていく。
「君は気に入っているからね。特別に見せてあげよう。この星の最期を、そして新たなる宇宙の誕生を」
そこまで聞き取ったあたりで限界を迎え、ボクの意識は闇の底へと落ちていくのだった。