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物語の終わり


[必殺 ライバルストーレン!]


 ボクはたった今小さな男の子に襲いかかろうとしていた巨大な竜に黄金の一閃を放つ。

 その蹴りは奴の体を貫き、ボクはまた一つの命を救う。


 そして変身が解かれる。自分で解いたわけではなく勝手に、自然に解除される。


「大丈夫だった?」


 ボクは気怠く立っているのも辛いのに、強がって何ともないように振る舞う。


「あ、ありがとう……お兄ちゃんは誰?」

「ボクは……ヒーローだよ」

「ひーろー?」

「うん……君みたいな戦えない人のために戦う正義のヒーローさ。

 ほら、こんな山奥は危ないから人がいるところまで降りよう。すぐそこの街から来たの?」


 また先程のような化物に来られたら多分だがもう勝てない。ボクは半ば強引にこの子の手を引っ張り山道を降りる。


「ところで君はどうしてこんなところに?」

「近所のお兄さんとお姉さんにいつもお世話になってるから、二人が結婚するっていうからお祝いに珍しいお花を取りに来たんだ」

「そうなんだ。でもね……自分の命は大事なしなきゃダメだよ? こんな危ないところに一人で来て……もし死んだらその二人も悲しむよ」


 子供は俯いて押し黙ってしまう。反論できない言葉に年相応に拗ねてしまう。  


 懐かしいな……ボクも昔はこんな風だったのかな?


「ねぇ僕もお兄さんみたいに強くなれるかな? 僕も強くなって、一人であんなドラゴン倒せるくらい立派になりたい」

「……なれるよ。きっと。でも力を持つだけじゃダメだよ。その力を正しいことに、誰か大切な人を守ることに使わないと」

「うん分かった!」


 元気良く明るく、純粋な昔のどこかの誰かのように笑顔を返してくれる。


「あ! リュージお兄ちゃんにミーアお姉ちゃん!」


 木々の間から黒髪の青年と紫髪の美人な女性が出てくる。子供の反応から考えて恐らくこの二人が近々結婚するご近所さんなのだろう。

 二人ともお互いを信用し合っているのが見て取れる。


「あっ! こんなところに居たのか……心配したんだぞ!」


 青年の元に子供が駆け寄っていき彼の胸元に泣きつく。


「あの……ありがとうございます。あなたが助けてくれたのでしょう?」


 紫髪の女性が少年の顔を見た後こちらに一言お礼を伝えるが、ボクはそれを受け止める余裕はもうない。

 時間が……ない。


「もう危ないことしちゃダメだよ。それじゃ……」


 ボクはこの場から立ち去り姿を消そうとする。木々と葉の間に体を溶け込ませるように。


「あ、あのっ! お礼と言っては何ですが食事でもどうですか? ご馳走しますよ」


 しかし青年が去ろうとするボクの背中に話しかけてくる。いつもならそれに応じてご馳走させてもらうのだが、今はもうそんなこと言ってられない。


「いえ……急いでるので。またいつか寄った時にお願いします」


 ボクはもう振り返れず、手で口元を押さえながらとにかくここから離れる。


「お兄さんありがとう!!」


 最後に少年からとびっきりの良い声で感謝される。最期に聞く声がこれになるだろうから、ボクは幸せ者だ。

 それからボクは誰もいない岩の近くまで行き、そこに力なくもたれかかるようにして座り込む。


「ゴハッ!!」


 口に溜めていた血を吐き出し、服と地面を真っ赤に染め上げる。もう人間の姿を保つのも限界だ。ボクは崩れるように姿を変えて虫の姿になる。


 地球を飛び出てから何年経ったのだろうか? 数百億年? いや数千億年だろうか? もう認識することも困難なほどなのは間違いない。

 その間に数多の星を救って、そして数多の星を助けられなかった。

 出会って、別れて、また出会って。そんな繰り返しの日々を送っていた。


 真っ先に田所さんが死んだ。ティオによる無理矢理な造りだったため限界が来て、もうどれくらい昔になるか分からないほど前に衰弱死した。


 次に椎葉さんにも限界が来て、その次にキュリアにも寿命が来て死んだ。

 最後に美咲さんも復活システムや体に限界が訪れ最期にボクの頬に触れながら笑いながら死んでいった。


 そのことに後悔はない。みんな命を謳歌して満足して死んでいったのだから。

 ただ、残されたボクには思い出がありつつもやはり寂しさもあった。


「でも……最後の最期までヒーローでいられてよかった……」


 触覚を震わせ、誰が聞いているわけでもないのに岩や木に向かって話す。

 体の崩壊が止まらない。やっとこの体にもガタが来た。やっと……死ねる。


 すっと視界の機能を遮断し、ボクはゆっくりと安らかに眠りにつく。

 ヒーローはこの永い物語に幕をかけ、今エンディングを迎えようとする。


「久しぶり。おかえりなさい」


 聞き覚えのある、温かい声がどこからか聞こえてくる。辺りに誰かがいる気配はない。ならこの声は一体誰のものなのだろうか?

 いや、ボクはすぐに分かった。ありえるはずがないから疑問が浮かんだだけだ。


 でも今の自分の状態から全てを察してボクはそれらを受け入れ崩れゆくこの体で大事な想い人の名を告げる。


「ただいま……寧々」

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