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03 思い出


 キュリアと別れボクはラボの近くの瓦礫の上で座り込み考え事をしていた。


 寧々も、風斗さんも、岩永さんも、みんな死んでいった。みんなとずっと一緒に居たかったのに……なんでボクはそんな叶いようのないことを……


「あれ? 生人ちゃんじゃ〜ん。どうしたのそんな暗い顔して?」


 どれくらい時間が経ったのか分からなくなるあたりで背後から田所さんに呼ばれる。

 いつも通りの明るい声は変わらずボクの元に届く。


「美咲さんの話は聞いた?」

「まぁねぇ〜生人ちゃんはどうするつもり?」

「ボクは……まだ決められないよ。一週間くらいここを空けてちょっと……一人で考える時間が欲しい」


 ボクは立ち上がり一つの目的地へ向けて歩き出す。


「生人ちゃん! 自分は君の選択に文句は言わない! でもせめて後悔がないようにしろよ!」


 その一言を背中で受け止めて、そして噛み締めながらお墓まで向かっていく。

 道中桜坂高校や昔よく行っていたショッピングモールに寄るが跡形もなくなっていた。

 DO本部も瓦礫の山となっており見る影もない。


「やぁ……久しぶり……寧々」


 しばらく進んだ山の中。ボクは寧々が眠る墓の前まで来る。

 人がいない静かな場所だったため直接的な爆風は免れ、ボクが定期的に手入れしているおかげで今でもそこそこ綺麗だ。

 しかし地面には何回か掘り返したような跡があり、それがボクの悲しみの感情を刺激する。


「ねぇ聞いてよ……美咲さんが宇宙に行こうって言うんだ。ボクもヒーローとして他の星の人達を助けに行きたい。

 でも……でも…………そうしたらもう君には会えなくなるよね?」


 墓石を彼女に見立てて抱きつき、ボクの頬に一筋の露が流れる。


「寂しいよ……」


 数分その体勢を続けた後に、ボクは地面に手をやり掘り始める。

 倫理的に問題な行為かもしれないが、それを咎める人はもういない。

 ボクは一切止まらずに掘り続け、骨が入っている箱を取り出す。


「あぁ……寧々……」


 その骨に触れ、ほんの少し自分の一部をそれに寄生させる。

 昔に一度したことがあるから分かる。これが寧々なんだと体で感じられる。

 これだけが今のボクに残された彼女を感じる方法。もうボクにはこれ以外……


「っ!? 誰っ!?」


 人なんているわけないのに背後に気配を感じて急いで振り返る。


「寧々……?」


 ありえるはずがない。そこにはボクと出会ったばかりの頃の姿の寧々が立っていた。


「ど、どうしてここに!? だって君は……」


 驚き問い質しながらも、再び会えた喜びに笑顔を溢し彼女に近づく。

 しかし彼女から手渡されたのは言葉や抱擁ではなく平手打ちだ。鋭い痛みと共に頬が赤く腫れ上がる。


「な、何するんだ!」


 この言葉にも返答はなく、寧々は厳しい目つきを、哀れみも込めたその視線のまま体がどんどん消滅していく。


「えっ……ちょっと待ってよ。やっとまた会えたのに!」


 もう一度だけその体に触れたくて手を伸ばすが、それは間に合わず彼女の体は完全に消え去ってしまう。

 最後に一瞬笑顔をこちらに向けて。


「あぁ……そうだよね」


 ボクはやっと踏ん切りがつき、掘った穴に箱を置いて埋める。


「ごめんね何度も起こして。でもこれで………………最後だから。おやすみ」


 ボクは自分の首元にあるネックレスに手を当て、彼女に永遠の別れを告げる。地面に何粒も水滴が落ちるが、ボクは構わず立ち上がり墓に背を向ける。


「でも思い出だけは絶対に忘れないよ……ありがとう。寧々」


 ボクは迷いや未練を全てここで落とし、ラボまでの帰り道を辿る。いつも通っていた道を通り、思い出と共に歩いていく。

 そうしてラボまで着き宇宙船の設計をしている美咲さんの元まで向かう。


「美咲さん」

「ん? あぁ生人君か。悪いね今手が離せなくてね。それでどうかしたのかい?」

「早いけどボクはもう決めたよ。ボクも宇宙船に乗せて。美咲さんの旅に連れてってよ」


 これは大きな決断となるだろう。しかし後悔はない。もう未練なく全てをやり終えたのだから。


「……もちろんだよ。これからもよろしくね、生人君」

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