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19話 友達

「負けちゃった……強いね峰山さん」

「いえ。生人さんのスピードも中々でしたよ」


 彼女は僕の上から体を退かし、倒れている僕に手を差し伸べて立ち上がらせてくれる。

 その後も数本組み手をやり、勝敗は五分五分といった感じとなった。


「わたくしに付き合ってくださりありがとうございました」

「僕も中々良い経験になったよ。ありがとう」


 組み手や互いの動きについて意見を言ったり訓練をして、時刻は十二時を回りそうになっていた。僕達はそろそろ切り上げることにして、ストレッチを始める。

 

「そういえばなのですが、どうして生人さんはわたくしにこんな親身に接してくれるのですか?」


 僕が座り足を大きく広げ体を前に倒していると、峰山さんからふと質問が飛んでくる。

 

「親身にって言われてもこれが僕の普通だしなぁ……強いて言うなら、前言った理想のヒーロー像が、困っている人は積極的に助けるってものだし理由はそれかな?」


 僕は他人に優しく、親身にすることがさぞ当たり前かのように話す。

 実際僕はこの生き方以外知らないし教えられてこなかった。


「あなたらしいですね。でも、わたくしはそのあなたらしさに実は結構助けられてるんですよ? 本当にありがとうございます」

「どういたしまして! 僕もそう言ってもらえるとやる気がでるし助かるよ」


 僕はただ当然のことをしたまでなのに、あまりに彼女がこちらを褒めてくるので少し気恥ずかしくなってしまう。


「わたくしは今まで家の都合であまり同年代の人と関わってこれませんでした」

「そうなの? 峰山さんは中学校とか小学校に行ってなかったの?」


 同年代の人と関わってこなかったという言葉に僕は首を傾げてしまう。

 大企業の社長の娘で、しかも容姿がとても良い。嫌でも誰かしら話しかけてきそうなものなのだと思っていたからだ。


「行ってはいました。ただ話しかけてくるのは親に興味がある人だったり、わたくしの容姿などに興味がある人だったり、本当の意味でわたくしと向き合って話してくれる人はいませんでした」


 常に親や容姿などの偏見の眼鏡をつけて見られ、誰にも対等に、友人として接することができなかった。それは彼女の人生にとって大きな要因となっていたのだろう。


「ですからそんな色眼鏡をつけずに接してくれる。純粋なあなたには感謝しています。

 ですので……わたくしと友達になってくれませんか? DOの仲間とか……社長令嬢とか。そういうのを抜きにした……ただの友人になってくれませんか?」


 彼女は恥ずかしいという感情を押し殺すように所々で言葉を詰まらせながらも言い切る。友達になってくれと。


「え? 僕達もう友達じゃなかったの?」


 しかしその頼みは僕にとってはおかしなものだった。何故ならもう友達だと思っていた相手に友達になってほしいと言われたからだ。


「ふ……ふふふ」


 きょとんとした僕の顔を見て、おかしい頼みをしたのだと気付いたのか、彼女は小さく笑い出す。


「そうでしたね。すみません、いかんせん友達というものがよく分からなくて」

「気にしないでよ。僕は今までも、これからもずっと君のことを友達だって思ってるから!」

「えぇ……ありがとうございます」


 話しているうちにストレッチが終わり、着替えてシャワーを浴びた後に僕達はトレーニングルームを出る。


「お、生人ちゃんじゃん」


 トレーニングルームを出て待機室に出ると、そこには一旦仕事にキリをつけたのか、田所さんが炭酸飲料を飲んで休んでいた。


「おはようございます田所さん!」

「ん。おは~まぁ昼だけど。てか寧々ちゃんも一緒なんだ」

「はい。こんにちは田所さん」


 普通のただの取り止めのない会話だったが、何を思ったのか田所さんは僕達の方を、特に髪を凝視してくる。


「あれ? 二人とも髪濡れてるけど、シャワーでも浴びた?」

「まぁわたくしと生人さんは先程シャワーを浴びましたけど……」


 峰山さんはしっかり髪を拭いたりドライヤーをかけて乾かしていたが、一方僕はかなり雑にやってしまっていた。

 一応そんな僕を見兼ねて峰山さんがドライヤーをかけてくれたが、彼女曰く他人のをやるのは慣れないらしく完全には乾いていないらしい。

 

「そういうこと?」


 田所さんが目線を峰山さんに飛ばし、最小限の言葉で何かを伝えようとする。僕は彼が何を言いたいのかさっぱりだったが、峰山さんには意図が伝わったようで、呆れた顔を浮かべて溜息を吐く。


「違います。先程まで組み手に付き合っててもらっただけです……隠語じゃありませんからね」

「真面目で誠実な寧々ちゃんならそういうことしないって思ってるし信じるよ〜」


 田所さんと峰山さんには、DOの仲間としての付き合いがあるのである程度の信頼があるのだろう。

 ということは分かったがここまで言葉を濁されていては僕は何を言っているのかさっぱりだ。


「ねぇ峰山さん。どういうこと? 隠語って何?」


 僕は素直になって隣にいる彼女に尋ねてみた。


「生人さんにはまだ早いですので知らなくて大丈夫です」


 まるで子供扱いするかのように突き放された。僕は友達といったのにすぐこうやって距離を置かれたことに少し不満に思ったが、こちらのためを思って言っているのだろうと思うことにしてこれ以上は食いかからない。


「冗談はいいとして、生人ちゃんはお昼食べた?」

「まだですけど」

「それじゃあこっからちょっと離れた所に上手いラーメン屋があるらしいから、自分の奢りでいいから今から食いに行かない?」

「え? ラーメン!?」


 ラーメンという言葉を聞いて、食べ物に釣られる小さな子供のように僕は反応してしまう。


「その反応ならオッケーみたいだね。寧々ちゃんは……あー、脂っこいの苦手だったりする?」

「そうですね。わたくしは苦手ですので今回は遠慮させてもらいます。それにわたくしは今日はやることがありますし、お構いなく楽しんできてください」

「ごめんね。また今度美味しいスイーツ見つけてくるから」


 田所さんは両手を合わせて座ったまま彼女に軽く謝る。彼女自身も気にしていなかったので、分かりましたと適当に受け流し自室に戻って行った。


「じゃあ行こうか。こっから車で少しかかるけど、我慢できそう?」

「大丈夫! むしろお腹が空いてた方が美味しいからね!」


 時刻は十二時半前。となると食べるのは一時過ぎくらいになるだろう。これくらいなら我慢できる範疇だ。

 僕達はここを出てこのビルの駐車場に向かい、そこに停めてある黄色の車の所まで行くのだった。

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