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184話 恐怖(キュリア視点)


 先程までとは違い、こちらの戦意を削ぐ程の威圧感と覇気を纏った生人が迫ってくる。


「ちっ……やってやるよ!!」


 オレは三つの強さが籠ったその武器で、そしてこの真紅のグローブで素早く振り上げ生人の頭に叩きつける。

 全く動じない。手応えはあるのに奴は一切声を上げない。

 

「こんな程度で最強? 笑わせるなっ!」


 武器を乱暴に取り上げられ遠方に放り捨てられる。そしてその強靭な足で反撃が飛んでくる。

 オレの腹に膝がめり込み、吐瀉物が喉まで逆流してくる。


「ぐっ……」


 一旦引こうとするが奴はそれを許してくれない。それよりも先にオレの頭を両手で掴み固定して、そこから何度も顔面に膝蹴りを打ち込んでくる。

 鼻の骨が折れ、眼球や歯にもダメージを負い不快な痛みが顔全体に広がる。

 強さに固執していたオレを否定するように無慈悲な攻撃が続く。


「離し……やがれ!!」


 オレはこのまま終わるほど弱くない。作業のように冷徹に叩き込まれる膝の動きを読み、奴の膝をキャッチする。

 そして逆転の起死回生の一手を打つ。ノーガードの奴の顔面にお返しの拳を入れる。

 その高速の一撃は真っ直ぐ命中する。だがしかし奴は全く怯まない。痛覚がないのかと思うほどに。


「ぐっ……うぉぉぉぉ!!」


 オレは地面を蹴りオレ達の周りの地面から大岩を飛び出させる。それによりお互いダメージを負うがオレは奴から離れることができる。


「一旦ここから……」


 オレはこの場から立ち去り体勢を立て直そうと考える。だがそれはある一つの意地が邪魔して実行には移らない。


 逃げる……オレが? 何で最強のオレがそんなことしなくちゃ……

 

 迷いの中オレは手足が震えていることに気づく。そして生人と智成に言われた言葉を思い出す。


 オレは怖いと思ってる……? そんなわけない! そんなわけ……


[スキルカード 疾風]


 自分の感情に戸惑いが隠せず動きが止まる。今の容赦のない生人はそれを見逃してはくれない。

 疾風の速さで何度もオレのことを通り魔のように蹴りつける。


「クソ……ならオレも……」


 オレも使おうとしたが、カードを取り出した途端奴は一気に速度を上げてオレの腕を掴み上げる。

 そしてそのまま肘の所を手で押さえ、有無を言わさず肘を反対側に折り曲げへし折る。


「あがぁぁぁぁぁ!!!」

「うるさい……!!」


 生人はオレの疾風のカードを取り上げ、そこから顔面を、特に口の部分に容赦なく肘で強く打つ。


[summon…… サムライ ドラゴン タイガー レベル80]


 奴は三体の分身を召喚しそれらをオレに差し向ける。こいつらは本来オレの敵ではない。

 だが片腕が折れて他にもダメージを負った、恐怖心を植え付けられたオレにとっては強敵だ。


「くっ、クソ……離れろっ!!」


 掴みかかり組み伏せようとする奴らを倒そうとするが、嫌らしく動き更には生人の援護もあるのでオレはその連携に押され最終的には三体に怪我をしていない残りの四肢を掴まれ押し倒される。


[スキルカード ヒート ワイドサンダー]


 そこに生人が全身を発熱させ、更には手にバチバチと青白い稲妻を発生させながらオレの胴体の上に馬乗りになる。

 押し付けられる足からはとてつもない熱が伝わり、オレの鎧が焼ける音を出す。


「やめっ……」

「あぁぁぁぁあぁぁ!!」


 生人は絶叫と共に何度も何度もオレの顔面を殴りつける。熱と電流が籠ったそれは正に拷問のようで、オレはこの攻撃により体だけではなく心までも完全に壊される。

 怖い。恐い。誰かに助けてほしい。そういう想いが心を支配する。


「ボクは……悪魔だ」


 ひとしきり殴り終わりカードの効果が切れた頃。生人がぼんやりと言葉を一つ溢す。

 虚無感が漂う雰囲気の声色だったが、ドスが効いたその声にオレの恐怖心は更に増すことになる。


「どうにかしてみろよ! 最強なんだろ!? 一人で!! なんとかしてみろよ!!」


 一度止めた手を再びオレを傷つけるために振るう。容赦も負い目もなく振るわれる悪魔の如き暴力にもう心は折れているのに、それなのに何度も振るう。


「時間切れか……」


 召喚していた分身が消えて、生人はオレの首根っこを掴み上げ持ち上げる。


[必殺 ホッパーハイキック]


 そして手を離し、容赦ない回し蹴りがオレの胴体を捉える。そのままオレは飛ばされ背後にあった建物をいくつか貫いた後壁にめり込むのだった。


「分かったか!? これが命を失う怖さなんだよ!!」


 変身が保てなくなったオレを慈悲なく掴み上げてまた説教を始める。

 だが今のオレにはそれがよく染みる。その恐怖を身に染みて痛感してしまったから。


「もういい。お前には頼らない。その怖さをみんなに味合わせたいなら、自分がまた味わいたいなら勝手にしてろ!!」


 生人はオレに吐き捨てるように言葉を締め括り、オレを乱雑に投げ捨ててこの場を立ち去るのだった。

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