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18話 組み手

「うぅ……だるい……」


 医務室に連れて行かれて様々な検査を受けさせられた次の日の朝。僕はだるさに体を悩まされていた。昨日検査が終わり部屋に戻ってきたのは十一時過ぎ。

 学校に行き、ダンジョンを制圧し、その直後に様々な検査を受けた。それは想像以上に体に負担がかかっていたらしく、僕の体にはとてつもない疲労が溜まってしまっていた。

 

 大体途中で何個か意味分からない検査もあったような……異常がないか調べるための検査薬って何だったんだろう? 美咲さんに聞いてみたけど専門的すぎて分からなかったし。

 

 そんな風にベッドでゴロゴロして、三十分くらいすれば体調は少しはマシになっていた。


「起きているかい? 生人君」


 僕がそろそろ起きようかと思いベッドから立とうとした時、ドアの向こうから美咲さんの声がした。


「起きてるよ! 入って大丈夫だよ!」

「おはよう生人君。体調はどうだい?」


 手には自販機で買ったのか、僕の大好きないちごミルクのペットボトルを持っていた。それを僕に渡してくれたので、一言お礼を言ってから僕はそれに口をつける。

 僕の大好きな甘い味が口の中に広がる。


「それが飲めるならとりあえずは大丈夫そうだね」

「疲れで体がだるいけど、別に変なところはないよ! 昨日の検査でも異常なしって出たし、心配しすぎなんじゃない?」


 何度も何度も調べても、大丈夫だと分かっても心配してくる風斗さんや美咲さんに、僕は心配しすぎだ。過保護だと感じていた。

 

「心配にだってなるよ。君はかけがえのない、代わりのいない存在なんだから」

「僕みたいなヒーローになれるのは、僕だけってこと?」

「ふふっ……それもそうかもしれないね。でも、君は私にとってかけがえのない子なんだよ」


 美咲さんは僕のことを非常に優しい目と共に手を僕の頭に乗せ、いちごミルクを飲んでいる僕を構わず撫でる。


「まだ小さい頃の君と出会って、君のあの無邪気で純粋な、キラキラした瞳を見れたから、今の私がいる。君に会えたから私は今まで、そしてこれからも頑張れるんだよ」


 いきなり真正面から褒められたので、気恥ずかしくなってしまい手に持っていたジュースを一気に飲みその感情を誤魔化す。


「何はともあれ元気そうでよかったよ。でもまだ何かあるか分からない。何かあったらすぐに私に言うんだよ? 君の力になってあげるから」

「それには及ばなさそうだけど、何かあったら遠慮なく言わせてもらうね。ありがとう美咲さん!」


 僕は心から心配してくれている彼女に感謝する。それから少し話した後彼女は仕事に戻り、僕は遅めの朝食を軽く済ます。


「今日は特に予定もないし、何しよう?」


 今日はDOの仕事も入ってなく、学校もGWでないので特にやることがない。

 何もやらないというのも僕の性に合わず、僕は部屋を出てここの施設の一つであるトレーニングルームに向かう。

 そこはベンチプレスやルームランナー。大体の筋トレ器具が揃っている素晴らしい施設だ。


「おはようございます生人さん」


 ジムには既に先客がいた。峰山さんだ。

 スポーツ用の黒いズボンに、黒のスポブラをつけている。体にはほんのりとかいた汗が滴っており、朝早くから今までここでトレーニングしていたのだろうということが分かる。


「おはよう峰山さん! 昨日ダンジョン制圧があったのに、今日も頑張ってるね!」

「えぇ……わたくしはまだまだですから。風斗さんや田所さんみたいに強さがあるわけでも、生人さんのように人を惹きつける魅力があるわけでもありませんから。

 それにエックスの件もありますし、最悪わたくし一人だけの状況だとしても倒せるくらいには強くならないと……」


 エックスはいつどんな時に襲ってくるのか分からない。こちらが一人になったところを襲ってくる可能性だってあるだろう。

 だからこそ個々が強くなる必要がある。まだ高校生の僕や峰山さんでも奴を完全に倒せられるように。


「今からシャワーを浴びてきますので、上がったら組み手をお願いできますか? サタン相手を想定するならやる価値は低いですけれど、エックスは人間ですので対人間の戦闘法も磨く必要がありますので」

「そうだね。この前二人でも歯が立たなかったし。じゃあ先に行って待ってるよ」


 僕は彼女と一旦別れ、トレーニングルームのうちの一室である柔道場へと向かう。

 赤い四角のラインに、それ以外は全て緑色の空間。裸足で地面に触れると、マットの冷たさが足に伝わってくる。

 僕はそこで柔道着に着替えて峰山さんを待つ。十分程すると峰山さんが来て、すぐに柔道服に着替えてまた戻ってくる。


「それじゃあ始めましょうか」

「うん! 顔はなし、怪我をしないよう最大限気をつける。相手を地面に倒して三秒取ったら一旦終了。みたいな感じでいい?」

「問題ありません。女だからって手加減はいりませんので、構わず全力で来てください」

 

 彼女は静かに構え自分はいつでも始めてよいと示す。

 

 手加減って……体格差的に少しでも手加減なんかしたら僕の方がすぐにやられちゃうよ。身長も体格も峰山さんの方が大きいんだし。

 

 僕も彼女をエックスだと思うことにして、彼女を裏切らないよう本気でいこうと意気込む。


「じゃあ始めよう!」


 僕の一言と同時に僕達はお互いに睨み合う。隙を探り、相手につけ込む空間を見つけようとする。

 

 数秒睨み合った後に先に動いたのは僕の方だった。低身長を活かし、相手の下に潜り込んで投げ飛ばそうと目論み強く踏み込む。

 

 しかし峰山さんは僕の動きからどう動くのか、何をしようとしているのか予想がついたようで、僕が掴もうとしたその足で素早い膝蹴りを放ってきた。

 それは正確で僕の胴体を捉えた。僕は鍛え抜かれた反射神経で反応し、ギリギリのところで左腕を胴体と膝の間に入れて防御する。

 

「いだっ……」


 美しくとも筋肉質な、まるで棘を持っている薔薇のような足から繰り出されたその一撃はとても重く、防御したとしてもその衝撃は腕を伝わり、僕は軽く吹き飛ばされる。

 地面にぶつかる前に受け身を取ろうとするも、空中で上手く身動きが取れない中で峰山さんに肩をグッと力強く掴まれしまう。


「てりゃぁぁぁ!!」


 彼女は大声を上げ、僕を勢いよく振り上げる。彼女の頭上を通り過ぎ、僕は地面に強く叩きつけられてしまう。

 そして立ち上がる暇も与えられず、彼女の体が上に乗っかってきて力を加えられる。

 そうなってしまえばもう僕にはなす術がなく、そのまま三秒取られてしまうのだった。

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