181話 希望への切符と変わる感情
ボク達は惨めに逃げた後、避難が終わり誰も居なくなったビルに入りそこで体を休める。
数十分経ったおかげで胸にあった風穴も塞がりボクの傷は完治する。
「はぁ……はぁ……生人さんは大丈夫みたい……ですね」
ボクと美咲さんは生物としての性質や特殊な能力により傷は完治できている。しかしそれ以外のみんなは未だに全身傷だらけだ。
峰山さんと風斗さんはボロボロ。田所さんと椎葉さんはボクと比べ再生速度が遅いので傷が塞がりきっていない。
「すみません。わたくしなんかよりずっと傷ついたはずなのにこんな体たらくで」
峰山さんは申し訳なさそうに血が滲む包帯が巻かれた腕を押さえる。
「なぁ美咲……何か良い策とか発明品とかあったりする? 自分はもう万策尽きたって感じだよ〜」
田所さんが手を広げその場にバタリと寝転がる。
「その前に智成さんは何故あんなことを? 俺が仕事で会ったりして知っている限りではとてもじゃないがあんなことする人とは到底……」
「それに関しては私が戦闘の際に聞けた。あいつは……この世界中の人間をサタンに変える気だ」
世界中の人間をサタンに変える……この街で起きたあの地獄を世界規模でやる。
誰もがその光景を想像してしまい苦痛の表情を浮かべる。
「ただ今はできないだろうね。父さんはまだ寄生虫の力も、あの鎧も使いこなせていない。だがこの世界の寿命はもう長くない。
楽園とやらを鎧の力で創造して、サタンになった内耐えられる人物のみをその世界に連れ込む気なのだろう」
自分の理想を押し付けて、選ばれなかった者は見捨てる。そんな考え許されるわけがない。
「だがたった一つだけあいつの作戦には欠点がある。それがこの計画は全てあいつ主体で行なっているということだ。
楽園の創造も、サタン化もあいつが死ねば全て止まる」
「でも……アタシ達じゃどうやっても智成さんには勝てない。時間を止めたり、戻したり、まだ何か隠している可能性もある。
一体どうしたら……」
「あいつを倒す方法なら私が見つけた。それがこれだ!」
美咲さんはボクに一枚のカードを投げ渡す。それは美咲さんが度々使っていた無敵のスキルカードだ。
「私がそれを使っている間だけだが止まっている時間を動けた。無敵の全てを無効化する能力が時間停止に対しても効力があったんだ!」
「でもこれって短時間しか効果ないしこれじゃ……」
「だからここで君の力が必要なんだ。そのカードに対して寄生の力を使ってアーマーカードに変えてくれ。そうすればきっと時間制限もない無敵の存在になれるはずだ」
そのカードを手に取るが、寄生虫の力でそんなことできるのだろうかと疑念が浮かぶ。
だが迷っている暇はない。今こうしている間にも智成さんの計画は進んでいる。
ボクは神経を目の前のカードに集中させ、身体の一部をカードに寄生させる。
「あぐっ……!!」
それは凄まじい力を秘めており、入り込むだけでその熱さがボクを焼き潰そうとする。
しかしそんな痛みこれから苦しむかもしれない人々のものと比べたら些細なものだ。
数分の格闘の後ボクはそのカードを改造し終わる。手には新しいアーマーカード。
この力があれば……!!
☆☆☆
【キュリア視点】
「どうした? さっきの不意打ち以外まともな攻撃を当てれていないじゃないか?」
先程からずっと戦っているが、オレの攻撃はあれ以降一向に当たる気配はない。
「うるせぇ……うるせぇ!!」
最強の力を手に入れたはずなのに、オレは誰よりも強いはずなのに奴には歯が立たない。
クソ……なんだよこれ。全く楽しくない。何でだ!?
今まででも勝てない戦いはあった。生人との戦いでも何回か負けた。
でもあの時はそれでも楽しさがあった。それが今の戦いにはない。奴はオレのことを敵とすら見ていない。
[スキルカード 疾風]
「またそれか……芸がないな」
奴は五つのボタンのうち真ん中から一個ズレた位置のあるボタンを押す。
「なっ!? 消えっ……」
オレの視界から奴が消えるが、その次にすぐオレの頭に強い衝撃が走る。
「後ろかっ!?」
背後を振り返るが、素早い物体を視界の端で捉えるのが限界だ。
「どうだ? 加速できるのがキミだけの特権とでも思っていたのかい?」
いつのまにかまた背後に回られ、背中に重たい一撃を叩き込まれる。
「く……そ……」
どれだけ工夫して戦っても歯が立たない。目の前の得体が掴めない敵に楽しさが湧かず別の感情が芽生えてくる。
「ふふふ……威張っていながら結局はキミも怖いんじゃないか」
オレは指差され初めて足が震えていることに気づく。
「こ、これは……」
「別に恥じる必要はない。圧倒的な存在の前に、神の前では恐怖を感じることは数千年前からある生物の当たり前の反応だ」
「違う……オレは、オレは……うわぁぁぁぁ!!」
[必殺 フォースディバイジョン]
必殺カードを使ったはずなのだが、大きく吹き飛ばされダメージを受けたのはオレだ。
感情的な怒り任せの動きは見切られ、時間を停止させるタイミングを合わせてきて盛大なカウンターをもらってしまうのだった。