180話 やっと勝ち得た勝利
「キュリアクン! 約束通りキミには生人クンと戦わせてあげよう! だから四人は任せてくれたまえ!」
「あぁ……ありがとなおっさん!」
キュリアはボク以外のみんなを智成さんに任せて、清々しいまで楽しむことだけに集中しボクに殴りかかってくる。
その一発を受け止めるが、その一撃だけで今までとは何もかも違うということが分かる。
炎のように熱いその手に、水中に沈められたかと錯覚してしまうほどの威圧による窒息感。
かまいたちのように襲いかかる素早い攻撃に、押し返そうともピクリとも動かないズッシリとした体幹。
「さぁ……キミ達がキュリアクンの邪魔をしないようワタシが相手しないとね」
峰山さん達は智成さんに邪魔されボクを助けに来れない。
今ボクとキュリアは一対一。タイマンの状態に持ち込まれてしまった。
[armed……サムライ レベル100]
武者鎧を纏い刀で奴の拳をガードする。
武器を使えば対応することは可能で、段々とこちらが優勢になってくる。
「まぁ簡単には終わらないよな……いいぜ。やっぱりお前との戦いはこうでなくちゃな!」
キュリアは右肩に嵌った四色の円を外しボクに向かって投げつけてくる。
回転がかけられたそれを斬り落とそうとしたものの、どれだけ力を込めようともその円が傷つくことはない。
そのまま押し切られ、ボクの刀は弾かれ顔面にその回転を押し付けられる。そうして円が彼の手元まで戻り、そこで更なる変形が起きる。
円は槍と剣と斧が融合した謎の形状の武器へと変形する。
更には彼の両手にはいつのまにかグローブが装備されており、今までのキュリアとの戦いからそれらが間違いなくとんでもないものだということを理解してしまう。
[スキルカード ジャンプ]
本来上方向に向ける脚力を、地面を蹴る方向を調整して前方に向ける。バネを爆発させて彼の武器を破壊する気でいく。
ただそれでも彼の武器の硬度が勝る。どれだけ足や手に力を入れても彼の武器には傷一つつかない。
「今はオレの方が上だ……!!」
鍔迫り合いの最中、彼が手に込める力を一気に強める。ボクの刀は軋む音を上げ、やがてヒビが入り終いには接触部分が粉々に砕け散る。
そのまま武器はボクの顔から胸を斬り裂き、裂き終わった後に突かれ胸に風穴が開く。
[必殺 フォースディバイジョン]
キュリアの体が四つに分裂し、それぞれ円と鎧の色が赤、青、緑、黄色に分かれる。
「これでオレの勝ちだ!!」
まず赤色のキュリアが迫ってきて、その真紅のグローブで眼では追えない速度の連撃を繰り出す。
それにより宙に浮かせられ、そこに残りの三人が一斉に攻撃を仕掛ける。
水の噴射を利用した突きに、風の刃を纏って鋭さを増す斧。そして大岩の如き重さを持った大剣が振り下ろされる。
最後の一撃でボクは完全にダウンしてしまい、鎧は解かれ落とされた先の地面にぐったりと倒れてしまう。
「やった……ついに正々堂々のタイマンで生人に勝ったぞ!!」
キュリアは一人に合体して戻り、そして無邪気に、対戦ゲームで勝った子供のようにはしゃぐ。
ボクは胸から止まらない血に包まれ、生温かいそれにより意識が遠のき始める。
「やっぱりオレは最強だ! じゃあ次は……!!」
キュリアは四人と戦っている智成さんに狙いを定める。
「あんただおっさん!!」
[スキルカード 疾風]
四人と交戦する彼の背中を容赦なく疾風の速度で蹴りつける。
智成さんは初めてダメージを負い、大きく体を揺らす。
「やはりというべきか……お子様のキミは信頼や義理といった感情が足りないようだね。
まぁいい。せっかくあげた、死ぬ前の願いを叶えるチャンスを与えたワタシを無碍にするなら、キミには最悪の死をプレゼントしてあげよう」
「へっ! やれるもんならやってみろよ!」
ボクを倒したことによりキュリアは完全に調子に乗っており、その速さのまま智成さんの周りを跳び回り翻弄する。
「ここは一旦退くぞ!」
智成さんがキュリアに気を取られているうちに風斗さんがボクを持ち上げ回収する。
智成さんはそれに気づくが特に止めたり追いかけてくる気配はない。ボク達なんていつでも始末できると言わんばかりに。
そうしてボクは風斗さんに抱えられ、激しい戦闘を行う二人を見ながらここから敗走するのだった。