177話 サタン化症候群
「生人君!! 伏せて!!」
美咲さんが飛び上がり、熱さに苦しみもがいている彼女に瓶から取り出した液体を振りかける。
そうするとみるみるうちに姿は人間へと戻っていき、掴み上げられていた人は風斗さんが触手を斬り落とし椎葉さんが落ちてくるのをキャッチすることでなんとか助かる。
「まさか父さん……私とティオの研究を利用して? こんな最悪なことをするなんて……」
美咲さんはこの事態が何なのか推測が立ったようで、同時にこの中で一番絶望感を味わう。
この理解することが拒まれる地獄を理解してしまい頭を抱える。
「一体どういうことなんですか?」
辺りを飛んでいたサタンを撃ち落としながら峰山さんがこちらまで銃器の反動でスライドしてくる。
「恐らく父さんは人間を"進化"させようとしている。人間からサタンへ」
「進化させて楽園へと至れるようにね」
時間停止能力を扱われたのか、いつのまにかボク達の真ん中に智成さんが現れる。
そしてボクと美咲さんの顔面に拳を一発叩き込む。
「人間のままではワタシの創る楽園へと入ることはできない。体が耐えられないんだ。だからこうしてワタシの創る世界に耐えられるようサタンにしてあげているんだ。
まぁサタン化も個人差があるからなれる人となれない人とあるようだが、そこは楽園へと入る資格と考えて我慢してもらおう」
罪悪感を覚えたような口振りで申し訳なさそうに語るが、その内容は狂気そのもの。まともな思考の元出されたものとは到底思えない。
「ぐっ……みんな! みんなはまだサタンになりきっていない人がいたらこれで元に戻すんだ! 私はこいつを抑える!」
美咲さんはボク達に数十枚のカードを投げ渡す。
「一人で抑えるの!? そんなことしたら美咲さんが……」
「私は何度でも復活できる! だからみんなは救助をしてくれ!」
無謀ながらも美咲さんは智成さんに飛びかかり組み付き動けなくする。
もちろん圧倒的な能力差で何度も殺されるが、その度に懲りなく復活しては彼に貼り付く。
「行きましょう生人さん……今は逃げ遅れた人とサタンにされてしまった人を助けるのが優先です!」
戸惑いながらもボク達は美咲さんの元を去り他の人の救助に当たる。
先程の人達は田所さんが安全な場所まで運ぶこととなり、ボクと峰山さん。風斗さんと椎葉さんに別れてサタンになりかかっている人を元に戻していく。
さっき美咲さんが渡してくれたカードはいつぞやの分離液で、これをかければサタンになりかけの人はたちまち人間へと戻る。
だがその一方で戻らない人達もいた。ボク達が駆けつけたのと同時にサタンになってしまった人に使っても効力がないのだ。
「ちょっ……待って! 落ち着いて! その牙をしまって!!」
厚い毛皮に覆われ牙を剥き出しにする元人間のサタンをボクは必死に押さえ込もうとする。
だが言葉なんて全く届かず、彼は暴れボクのことを突き放そうとする。
「あっ……!!」
痛めつけないように抑えるのは予想以上に難しく、調整する力の中隙を見つけられ逃げられてしまう。
「待ちなさい!!」
しかし逃げた先の地面を峰山さんががむしゃらに撃ってくれたおかげで、奴は走ることがままならずその場に倒れ転がる。
そこに捕獲用の網を発射して捕らえ動けなくさせる。
「ありがとう峰山さん!」
「いえ……それよりも手遅れ……みたいですね」
分離液をかけても元に戻る気配はなく、彼はもう完全にサタンになってしまっている。
「でもこの事件が終われば美咲さんがなんとかしてくれる可能性もある。だからこの人はこのままにしておこう」
念の為に捕獲用の網を更にもう一回上から被せ、絶対に逃げ出したり他者に危害を与えたりできないようにする。
「手遅れになる前に可能な限り助け出しましょう……それがわたくし達ヒーローの役目ですから」
「うん……!! みんな戦っているんだ。ボク達も頑張ろう!!」
どんな辛い状況や逆境でもボクはめげず、二人でこの街で起こるサタン化現象に手元の分離液で対処していくのだった。