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176話 楽園への必須条件


「えっと……それで美咲さんのお父さんが遊生を殺して、その上その力を奪い取った……?」


 智成さんが立ち去ってから一時間程が経過した。気を失っていた椎葉さんに事情を説明したが、全く状況を飲み込めていない。

 かくいうボク達も先程起こったことが信じられなく、今でも夢なんじゃないかと思ってしまうほどだ。


 しかし先程起こったことは間違いなく現実。みんなそのことは十分分かっている。だからこそ今の絶望的な状況を噛み締めている。

 智成さんが何をするのかイマイチ分かっていないが、言動から考えてロクでもないことは、一般の人々に犠牲が出ることは確実だろう。


「とにかく今は父さんが何を企んでいるか突き止めるのが先決だ。あの鎧の対処は……後々考える」


 いつもなら新しく発明品を作りなんとかしてやると、寧ろ研究が捗ると意気込みそうなものだが、今の彼女は自信がなさげで下唇を噛んでいる。


「あっ……日が昇ってきましたね。とりあえずどこかで休みませんか? このままここで考え続けても体力を消耗するだけです。

 備えて……どうにか作戦を立てて智成さんを止めませんと……」


 峰山さんの言う通りボク達は今疲労を重ねボロボロの状態だ。何をするにもまず体を休める必要がある。


「この山の麓に使われていない小屋があったはずだ。こんなところに居るよりかはマシだしそこに行こう」


 そうしてボク達は美咲さんについて行きこの山を降りる。

 そして街が遠目に見え始めた辺りで異変に気づく。

 街から煙が上がっている。それも何箇所も。更にボクの聴覚だからこそギリギリ聞き取れたが、色んな人達の悲鳴が街中で鳴っている。


「みんなあれ!! それにこの声……まさかもう智成さんが!?」


 ボクは寄生虫の姿となり、十メートル程飛び上がりそこで視力を向上させ街の様子をここから観察する。

 サタンが街で人を襲い、建物を壊している。だが何やら少し様子がおかしい。

 

「なんだあれ……サタンと人間が混ざってる?」


 ボクの視界が捉えた光景は悍ましいものだった。

 男性の半身がドス黒い異形の者へと変わり辺りの人を襲い始めていた。いや彼だけではない。街全体を見渡せば何人か似たような症状の人がいる。


「何があったんだい!?」


 ボクは美咲さんの元まで降りてみんなに見たことをありのまま話す。


「それは……間違いなく父さんがしたことだろうが、一体何のために?」

「そんなこと言ってる場合かよ……俺達で何とかしなきゃ被害はもっと拡大する……考える前にまずは何とかしに行くぞ!!」


 連戦続きでみんな体に限界が来ていたが、そんなことは命を見捨てる理由にはならない。

 ボク含めみんな文句一つ垂れずに現場に急行する。


「助けてください……体が熱い……熱いんです!!」


 変身し街に辿り着いた途端ある人に絡まれる。

 巨大な赤い花に取り込まれた女性だ。いや、取り込まれているのではない。よく見ると体が完全に花と融合している。

 それにこの人が感情的になる度に花は連動して暴れ出す。花の根に当たる部分だろうか、深い緑色の触手がその場に居た逃げ遅れた人を持ち上げ締め上げる。


「ま、待って落ち着いて! 一回深呼吸しよう……?」


 ティオとの戦いで椎葉さんによって告げられた最近のサタンの件。そして今のこの状況。

 ある結論に至るには十分なほど根拠は出揃っている。

 だからこそボクはサタンに攻撃せず彼女を諭し落ち着かせようと試みる。


「熱い……熱い熱い熱いアツいアツイアツイぃィィ!!」


 声がみるみるうちに淀んだ悍ましいものへと変わっていく。花に体が更に吸収され一体化していく。

 人間がサタンと化していく。ボクはそれをただ傍観するだけしかできない。

 締め上げる力は段々と強まっていき、持ち上げられていた人の骨が悲鳴を上げ始める。

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