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175話 流水の時間


「一体何が……ボク達は何をされたんだっ!?」


 智成さんは最初居た場所から一歩も動いていない。それなのにボク達は一気に瓦解させられてしまった。


「分からない……私でもどのように動いたのか全く視認できなかった……」


 手加減してくれたのか、ボクと美咲さん以外は動けないほどに痛めつけられているが誰も致命傷には至っていない。

 

「流石は生人クンだ。あの程度の攻撃は耐えてしまうか。ワタシも久しぶりに運動するとしようか」


[summon……サムライ ドラゴン バット レベル80]


 三体の味方を召喚して智成さんの元へ向かわせる。今度こそ出方を見極めようと目を凝らす。

 

「何度やっても、何人で挑もうと結果は変わらない。楽園へと向かう道はもう開かられた。誰にも止められやしない」


 彼はまた五つのボタンを出現させ、その中央のものを押す。

 また一瞬にして倒れていく。何も見えていない。動いていないのに三人はほんの少しの時差もなく倒れ消滅する。


「ん……?」


 何をしたか全く検討がつかなかったが、目を凝らしていたことであることに気がつく。

 彼の足元に、そして三人が居た場所にあった木の枝が折れている。そこに歩いた者はボクが見た限りではいないというのに。


 まるでほんの少しの時間も経たない、0秒の内に誰かが通ったような感じだ。


「まさか……!?」


 ある一つの考えに辿り着き、同時にそんなことはありえないと。そんな反則な能力使えるはずがないと現実から目を逸らしてしまう。


「その反応……生人クンは気づいたようだね。そうだ。ワタシのこの鎧は時間を止めることができる。

 楽園を創造しても時が流れなければ動かせないだろう? そのための能力さ」


 ボクの予想は的中してしまっていた。

 奴は0秒の間に、止まった時の中を動いていたのだ。

 ボク達が無抵抗になる空間の中で一方的に攻撃できる。そんな強敵勝てようがない。


「ほぉ……ワタシの能力に気付いてもまだ戦う意志を失わないか。キミのその精神は尊敬に値するよ。

 それに応えてもう能力は使わずにこの鎧の素のスペックで戦ってあげよう」


 ボタンを消してこちらにゆっくりと、正面を向けて正々堂々と立ち塞がってくれる。


[ブレイドモード]


 ボクも剣を取り出し彼を真正面に捉える。能力を使わないのであれば好都合。それなら勝機はあるかもしれない。

 

 数秒息を呑んだ後、互いに地面を蹴り戦闘を再開する。

 奴の拳がボクの剣の真ん中を捉えるが、拳は一切傷つかずこちらが跳ね除けられてしまう。


 ボクの腹に重たい一発が深くめり込む。しかしこの鎧の強度は計り知れなく、なんとかその一撃を受け止めきれる。


[スキルカード 疾風]


 正面突破は無理と判断し、疾風を使って速さで彼を翻弄する。

 あらゆる角度方向から斬り裂くが全く動じずダメージは入らない。


「そこだっ!!」


 挙句の果てにはこの速さにも対応され、回し蹴りを放たれ止まれずにそれを顔面で受けてしまう。

 火に入る虫のように手の上で遊ばれ、ボクは地面に倒れ変身が解かれてしまう。


「キミ達の力を持ってしてもここまでということだ。ワタシの計画はもう完了したも同然。

 だが安心したまえ。ワタシはキミ達のことを心の底から尊敬している。自分より強き者に立ち向かうキミ達を。

 だから殺さない。せめて残された楽園までの時間にやりたいことをやりきっておくがいい」


 彼は変身を解きこの場から立ち去ろうとする。


「待って父さん!! 私に言ったあの言葉は何だったんだ!? 今更全部ひっくり返すつもりか!?」


 だがそれを美咲さんが引き留め、不覚にも親子水入らずとなったこの状況下で彼に説得を試みる。

 しかし彼の心は揺るがない決意で固定されており、いくら言葉を投げかけても動かすことなどできない。


「あぁ……言ったろう? 踏ん切りがついたって。それに嘘は言ってないさ。ワタシはお前を大切な家族だと思っている。心から愛しているよ。

 だがそれとこれは別だ。二度とお前のような善良ながら道を踏み外してしまうようなことを起こさせないためにも、ワタシは楽園を築く必要があるんだ」


 月が雲から出始め彼を照らし神々しさを醸し出す。その光と辺りの闇に包まれ彼は姿を消すのであった。

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