172話 愛の夢
「何だその鎧……まさか田所の奴いつの間に……!!」
[スキルカード 疾風]
[スキルカード サウンドブラスト]
逃げる隙など与えない。ボクが高速で辺りを移動し奴の体を何発も殴りある一点に固定する。
そこに風斗さんの大剣から放たれる音撃が命中し、その重たい一撃により奴の体は大きく宙を舞う。
ボクはその先に位置取り、飛んだ先で強烈な踵落としをくらわせ地面に叩き落とす。
「ぐっ……この程度で……!!」
[スキルカード ポセイドンウェーブ]
[armed……スネーク レベル100]
ボクは鎧に鱗を刻み、風斗さんは何もないところから辺りを覆い尽くすほどの水を発生させる。
その物量は圧倒的で、ボク含めてこの場全てを包み込む。その大海の中でもボクと風斗さんは波に流されることはない。
風斗さんは大剣を地面に突き刺し踏ん張り、ボクは体をうねらせて海蛇のように波を掻き分けて流される奴を腕で絡みとる。
[必殺 スネークバインド]
[必殺 ガーディアンフラッシュ]
まずボクが体を蛇状に伸ばし、それで奴のことを絡め取って締め付ける。
ダイヤモンドの硬度でも砕け散りそうな締め付けに奴の鎧にヒビが入る。
「後は頼んだよ風斗さん!!」
ボクは最後に水底に奴を投げつけ離れる。
そこに風斗さんの閃光の如き一閃が突かれる。
彼が突いた箇所の水は蒸発し、一点に込められた莫大なエネルギーが奴の鎧を破裂させる。
「うっ……何だこの力は。何でお前らがこんな力を……!?」
「それは俺達がお前に持ってないものを持っているからだ。せいぜい地獄で考えるんだな! 後は頼んだ生人!」
風斗さんは変身が解けた奴を羽交締めにして動きを封じる。
「うん……!! 今助けに行くよ!!」
ボクは鎧を解除し椎葉さんに、彼女の心に寄生する。その中に抑えつけられている彼女を助けるために、悪魔を取り除くために体の中へと入り込んでいくのだった。
☆☆☆
「あれ……ここは?」
彼女の体に寄生した途端視界が真っ暗になり、光りが差し込み見え始めた景色に見覚えはない。
ピンクが多い女の子の部屋と思われる空間に、一人の中学生くらいの女の子がテレビをじっと見つめている。
「君はだ……」
「かっこいいなぁ……」
女の子は一人でに話し出す。ボクのことは見えていない。認識していないようだ。
ここは椎葉さんの……いや、愛花さんの精神世界なのだろうか?
「愛花? 入るぞ」
扉の向こうからノックが聞こえ、風斗さんが一言と共に部屋に入ってくる。ボクと同い年くらいに見える彼。やはりここは愛花さんの生きている頃の精神世界なのだろう。
「おはようお兄ちゃん」
「おはようって……もう12時だぞ? 学校に行かないっていう選択は責めないし、学校が辛いのも分かる……でもせめて健康には気を使ってくれ。お前は大事な妹なんだ……」
「もう分かってるって。心配性だなお兄ちゃんは」
微笑ましい兄と妹の会話。
ボクが地球に来たせいでこれを壊したのだ。そう思うと自然と握る拳に力が入る。
「テレビ……アイドルか?」
「うんそうだよ。あたしと同い年くらいなのに、頑張ってるんだって。すごいよね……かっこいい」
彼女がテレビに向けるそれは憧れと羨望のそれであり、ボクがヒーローとして活躍している時に向けられるそれと、そして椎葉さんがアイドルとして活動している時に向けられるそれと似ている。
「ここがアタシの始まりだったんだ……生人くん」
いつのまにか空間がガラリと変わり、辺り一面真っ黒な空間に変わる。愛花さんや風斗さんは消えていて、うずくまっている椎葉さんだけがここに居る。
目元には隈ができており酷く憔悴している。まるで今の彼女の心理状態を表しているかのように。
「ならその夢は終わってなんかない。寧ろこれからだよ! だから……」
言葉を続けようとするが、背中に凄い衝撃が加えられボクは話を中断されてしまう。
「流石はデウスだ。まさかこんな強引な手を打ってくるとはな。寄生虫でもお前じゃなきゃできないやり方だ」
どこから現れたのか、遊生の体の姿のティオがボクの背中を殴ったらしい。
今やることはこいつを外に追い出すことだ。そのためには椎葉さんに前を向いてもらう必要が、生きようと強く願ってもらう必要がある。