171話 守護神
「何だよ?」
「どこに行こうとしてるんだ?」
首をほんの少しだけ回しこちらに鋭い視線を返す。
「あ? 帰るんだよ。お前らにはもう付き合ってられねー。大体なんであそこで椎葉を殺さなかったんだよ? あそこで殺しときゃもう終わりだったのに」
やはりこいつは倫理観を持ち合わせていない。
ティオや美咲さんみたいにズレているわけではない。本当にそれが何かを理解していない。
「ボク達は椎葉さんを助けるんだ! 殺すんじゃないって言ってるだろ!」
「だから助ける意味が分からねぇって言ってんだろ!!」
お互いに胸倉を掴み合い、至近距離でガンを飛ばし合う。
「やめるんだ生人君! 今はそんなことしている暇はない! それにそいつに倫理を説いても無駄だ!」
ボクは不本意ながらも掴んでいたその手を離す。
頭ではこんなことしてる暇がないことは理解している。だがそれでも何故か彼のあの行動や今の言動を前にするとどうしても止めなくてはと焦らされてしまう。
「ちっ……オレはオレなりの方法で強くなる。せいぜい死ぬなよ」
キュリアもボクから手を離し闇に包まれた森へと消えていく。
「あぁもう!!」
ボクは自然と体が力み、それを逃すようにその場で地面を一回蹴り付ける。土埃が辺りを舞い少しは落ち着ける。
「ごめん風斗さん……行こう」
椎葉さんが苦しんでいる。そう自分に言い聞かせて心を鎮め、ボクは風斗さんと一緒に端末を当てに山の中を進む。
「生人……大丈夫なのか?」
どこか心に余裕がなくなっていることを見抜いたのか、まだ距離がある中こちらを心配してくれる。
「大丈夫……今は椎葉さんのことだけ考えるよ。うん。そうする。
キュリアのことはとりあえずこれが終わってからだ」
ボクはいい加減に気持ちを切り替えることにして一回頬を強く叩き自分を鼓舞する。
「よし! 行こう! 椎葉さんを助けに!!」
もうボクは椎葉さんのことしか見えていない。風斗さんも気合いを入れて大事な人を助けに歩を進める。
そして発信機の反応が近くなってきたあたりで、木陰から椎葉さんの体が、それを乗っ取ったティオが現れる。
「しつこいなお前ら……こんなものまで付けやがってよ」
ティオは小型の黒い装置をこちらに見せそれを握り潰す。
もう発信機はない。ここで逃したらもう椎葉さんは助からないだろう。
「椎葉さんを助けるためだからね。ボク達は何だってやるよ」
「くっ……くくく。残念だったな。あいつはもう完璧にオレの中に取り込まれた。もう助けることは不可能だ」
両手を広げ嫌らしい笑みをこちらに見せる。だがそんなことでは今のボク達は動揺などしない。
互いに仲間のことを信じているから。そんな戯言には応じない。
「そうかどうかは俺達が決めることだ。だろ? 生人」
「そうだね……行こう風斗さん!!」
[complete…… レベル80]
[スーツカード フェンサー レベル1 ready…… アーマーカード ガーディアン レベル70 start up……]
「はぁ……本当に嫌な奴らだ。いいよ。お前らの希望をここで打ち砕いてやる」
[parasite…… stage second]
お互いにそれぞれ最強の姿へと変わる。
風斗さんは初めてその鎧に体を通す。
全てを包み込む優しい緑色の騎士の鎧。何かを傷つけるのではなく、守るための大剣。
彼は今まさに全てを守る守護神へと成り変わった。
「さぁ……ヒーローの出番だ! 今……助けるからね」
そうしてヒーローと守護神の二人は巨悪から椎葉さんを救うべく最後の戦いの幕を開けるのであった。