170話 理想に縋る
「後はボクに任せて! こいつは……ボクが倒す!」
全身が勇気と希望に満ち溢れた虹色の鎧に包まれる。これで奴に立ち向かえる。
「まぁいい……久しぶりに二人で水入らずの決闘といこうぜ!!」
「いいよ……ここで決着をつけよう」
[armed……サムライ レベル100 ブレイドモード]
鎧が外れかかりその場で回転して武者の印が背中に入ったものとなる。右手には日本刀が出現し、空いた左手に剣を取り出す。
奴はそれを視認し終わり、右に左にゆらゆらと体を揺らす。赤と青の色が交互に光りいつこちらに飛び込んでくるのか分からない。
だからこちらから飛び込む。右手の日本刀で音速を超える突きを繰り出す。
だがそんな速さでも奴は対応して反撃を放ってくる。両手に前の形態で必殺技の際に生み出していた小規模の宇宙を纏わせ、躱し際にボクの腹にその拳を打ち込む。
「ぐっ……!!」
[summon…… ホッパー レベル80]
バッタ鎧の者を召喚して彼の手を掴み上げさせる。短時間の接触だったためボクの鎧は多少傷がついただけだ。
[スキルカード ワイドサンダー]
ボクは動きを封じられた奴の両肩に剣を突き刺す。想像以上に硬く先っぽしか刺さらないがこれでも問題ない。
両手から溢れる電流は金属を伝い奴の体内へと直接流される。椎葉さんに悪いと思いつつも奴を引き剥がすためボクは容赦しない。
「こいつ……本気か!?」
奴は内心椎葉さんの体を本気で攻撃しないと思っていたようで、その思惑が外れて動揺しつつも冷静にバッタ鎧の腹を貫いて消滅させ、直後に剣と日本刀を引き抜き後ろに引き下がる。
「逃げるのか?」
「誰が逃げるか。ここから本ば……ん……」
一瞬奴の体がフラつく。まだ致命的なダメージは与えてないはずだ。なのに奴の動きが鈍くなる。
「まだ理想に縋って抵抗しやがって……クソが!!」
奴は手に纏ったそれを峰山さんの方へと飛ばす。
「峰山さん!!」
[スキルカード 疾風]
しかし十分に間に合う距離だったので、ボクは彼女の前に立ち放たれた二つの球体をそれぞれ真っ二つに斬り裂いて無力化させる。
「よくも……」
卑怯な手を取る奴に憤慨するが、気づいた時にはもう奴の姿はこの場から消え失せていた。
「逃げたのか……」
奴の気配は完全に消えており、ボクは変身を解いて峰山さんの元まで駆けつける。
先程の戦いの余波で気を失ってしまっている彼女への手当てを始めようとする。
「待つんだ生人君! 今は愛君を助ける方が先だ! 恐らく彼女にはもう時間が残されていない。今彼女は必死に遊生の寄生に耐えているんだ!」
ボクはその手を止め、代わりに手当てを美咲さんに代わってもらう。
「そうだぜ生人ちゃん……ガホッ! 生人ちゃんが遊生に寄生して奴を追い出すんだ。そしてその際にあの子の体を弄って爆弾を摘出してくれ。
本来ならさっきやるはずだったが、すまねぇな……大人である自分ら二人が不甲斐なくて……」
田所さんもあの遊生相手に粘っていたためもうボロボロ。体の一部が寄生虫になっているのか原理は知らないが、異常なスピードで傷が塞がっていっている。
しかしそれでもすぐに動けるまでには回復していない。
「俺はまだ動けるぞ……囮くらいにはなれる」
風斗さんは万全とは言えなかったがそれでも立ち上がって動いてみせる。
「そうだ風斗ちゃん。これ今までのお詫びってことで受け取ってよ。風斗ちゃんならきっと使いこなせるから」
田所さんは一枚のカードを風斗さんに手渡す。
「先輩……ありがとうございます!」
「あっ、でも居場所が……」
「それなら心配いらないよ。私がさっき組み上げた時にこっそり発信機を付けたからね。位置は丸わかりだ」
美咲さんが投げ渡してくれた液晶端末には赤い点が表示されており、この場所からそう遠くない。
「とりあえずボクと風斗さん二人で行くってことだね。それはそれとして、ちょっと一つだけいいかな……キュリア?」
傷は治り、今この場を離れようとしているキュリアの背中にボクの低い声が突き刺さる。