169話 救援者
「そんなっ……!!」
彼女は決して善人とは言えない。でも、それでもボクに対して間違いない愛情を持ってくれていた。
それにボクの心を救ってくれたのも、峰山さんを助ける手段を貸してくれたのも彼女だ。
まだ罪も償えていないのに、これからもたくさん時間はあったはずなのにそれを容赦なく奪われる。
「これにて生人達は全滅……物語みたいに正義が勝つなんて単純な話はないんだよ。
じゃあ……お前も終わりだ」
ティオの体が人間体から寄生虫の姿へと変わり椎葉さんの体へと入っていく。
「いや……いやァァァァァ!!」
悲痛な訴えがこの闇の中響き渡る。それに突き動かされ必死に体に鞭を打つが、まだそんなことできるまで治りきっていない。
どれだけ頑張ってもそこまで辿り着くことすらできない。
「椎葉さぁぁん!!!」
ボクの手はまたしても届かず、ティオが椎葉さんの体へと完全に入り込む。
「ふふ、ふふふ……やっとやっとだ!! やっと手に入れたぞ!!」
椎葉さんのあの声だ。しかし醜悪さを覚えるそれは間違いなくティオのものだ。
「これがオレの計画の完成形だ……!!」
ティオは寄生する際に地面に落とした装置を拾い上げ、その装置の口に更に大きな口を装着させる。
[パラサイトモード]
装着した途端禍々しい声が装置から鳴り響き、奴の邪悪な一手が打たれる。カードが一枚その装置に挿入される。
[stage second]
赤黒い煙を纏い、更にそこに汚染物質のような色合いのものが次々と混ざり合う。
煙が晴れた先に虹色の、いや色をぐちゃぐちゃに混ぜ合い人々に不安と恐怖を与える凶悪な鎧を装着したティオが出現する。
「もうお前らに勝ち目はない。ここからは一方的な戦いだ。この世界でオレを止められるものはもういない!!」
「クソ……よくも愛を……うぉぉぉ!!」
風斗さんが立ち上がり、無謀にも挑もうとする。しかしティオがその場で手を横に振るだけで強風が吹き荒れ風斗さんは飛ばされて地面を転がってしまう。
「生身の人間だとこの程度か。この状態ならお前ら全員が万全だろうと関係ない。
この力を使ってこの星を好き放題弄くり回してやる」
そんな宣戦布告を聞いたとしても、どれだけ止めたいと思っても傷が早く治るわけでもない。
もう全てが遅かった。何もかもダメだったのだ。
「お前も人を疑って油断しなければこれでオレのことを倒せたかもしれないのにな!」
奴は美咲さんがくれた装置を取り出し、動けないボクに見せびらかす。
「油断したな!!」
その時美咲さんの声がどこからか聞こえてくる。おかしい。そんなわけがない。
たとえまだ死んでいなかったとしてもあの傷でこんな意気揚々と話せるわけがないのに。
ティオの背後に人の身長程の円が出現する。そこから変身済みの美咲さんが飛び出してきて奴の背後を取り、脇の下に腕を通してから組み上げる。
「今だっ!!」
「あいよっ!!」
[スキルカード ブースト]
田所さんが踵を返してティオの方に高速で突っ込む。そしてその手から装置を奪い取る。
「なっ……お前何を!? クソッ!! お前は離れろ!!」
ティオは美咲さんを弾き飛ばし、容赦なくその頭を握り潰す。
だが彼女の頭の中身は飛び散らず、体は紫色の粒子となって消滅する。
「復活!!」
そしてまた背後に円型のゲートが出現してティオの後頭部を蹴り飛ばす。
「ははは間抜けが!! この私が死んだ場合を考えないであんな危険なことをすると思ったのか!?」
「なんだと……?」
「私は不滅の……不死身の体を手に入れたんだ! どれだけ私を殺そうが何度だろうと蘇ってお前の邪魔をしてやる!」
何度殺されようが蘇り、殺さないように手加減して飛ばしてもその先で自害して蘇ってはまたティオの邪魔をする。
「ほら生人ちゃん。これ使ってさっさとあんな奴倒して、愛ちゃんを救ってやってよ」
「田所さん……どうして?」
今の彼は間違いなくあの優しかった時の彼だ。急に態度を変える彼に理解が追いつかない。
「自分は最初からあんな奴の味方じゃなかった。覚えてる? 久しぶりに公園で会ったあの時。
もうあそこで自分と美咲はお互い話し合って裏で作戦を練ってたんだよ」
最初から彼は敵になどなっていなかった。そもそも悪にすら染まっていなかった。
恐らく椎葉さんの爆弾など面倒臭い問題を解決するべく慎重に事を進めていたのだ。
「いや〜それにしても自分の演技上手かったでしょ? 騙すのは上手だけど、騙されるのも上手なんだねぇ〜ゆ う せ い ちゃん?」
「貴様ァァァァァ!!」
その煽りに沸点を迎え、ティオは美咲さんを宙に放り投げてながら目にも留まらぬスピードで田所さんに殴りかかる。
「さぁ生人ちゃん! さっさと傷を治して頼むよ! 今自分が抑えている間に!!」
田所さんも加勢してティオを抑え一秒でも多くボクの再生の時間を稼いでくれる。
「貴様ら……舐めるな!」
ティオは圧倒的なその力を振り翳し、田所さんを圧倒して変身を解かせ、美咲さんの口に手を入れ掴み上げて舌を噛み切って自害することを封じる。
「ありがとう二人とも……おかげで時間を稼げたよ」
ボクはまだ万全ではない体に鞭を打ち立ち上がる。
「さぁ……ヒーローの出番だ!!」
装置をランストに装着し、それを装備する。
[complete……レベル 80]
数多の鎧が混じり、ボクに勇気と力を与えてくれる。