168話 また大事な人が
「おーっとそこまでだ! ちょっと度が過ぎるよキュリアちゃん?」
田所さんが戻ってきてキュリアの脇を掴みそのままここから引き離す。
「なっ……退きやがれ!! 何でどいつもこいつも邪魔すんだよ!!」
敵対している存在にギリギリのところで助けられた。複雑な気分だが今は椎葉さんが助かったことに一時安堵する。
とはいえ田所さんを止めないわけにもいかない。
「おいおいお前ら女の子相手に随分と酷いことするな?」
加勢しようとするボクの体が大きく宙を舞う。死角から飛び出してきた赤い閃光はそのままキュリアと美咲さんも殴り飛ばし椎葉さんの前で止まる。
「ぐっ……ティオォォォ!!」
「おい田所。寧々がこっちに来ないよう足止めしとけ」
「……りょーかい」
サタンを倒し終わりこっちに加勢しようとする彼女だったが、今度は田所さんが相手となりそれを食い止められる。
「おいキュリア! あいつを倒すぞ! 手を貸せ!」
「ちっ……うるせーな。言われなくてもあいつはオレが殺す!!」
正直あんな行動をした彼の手を借りたくはないが、今はティオを止めるのが最優先だ。
「殺す? やってみろよ。レベル50相当しかないお前ら二人でな!」
ボク達は同時に挟み込むように奴に挑みにいく。しかし二人とも万全ではない上に奴の方が圧倒的に格上だ。
それにどう作戦を立ててキュリアと息を合わせたとしても、奴も寄生虫だ。それら全てを先読みされて対処される。
[必殺 ユニバースクリエイト]
ボク達が吹き飛ばされ互いに体を近づけ合った時、奴はそこにピンポイントで小規模の宇宙を模した球体を創り出す。
引力と斥力の同時攻撃。ボク達は互いにくっつき合いながらそれに鎧を抉り取られる。
「グッドバァーイッ!!」
ギリギリのところで耐えるボク達に向かって球体を蹴り押し付けトドメを刺す。
ボク達の鎧は剥ぎ取られてしまい、椎葉さんが完全にフリーとなってしまう。
「さぁ……これでオレの計画も最終段階……ラウンド3開始だ」
ティオは椎葉さんの頭に手を乗せ、今まさに彼女の体を乗っ取ろうとする。
「嫌だっ!!!」
しかし椎葉さんが突然声を荒げその手を振り払う。
「死にたくない……もっとみんなと、生人くん達と居たい!!」
涙で前すら見えていないだろうその顔で、必死になって訴える。やっと本心を吐露してくれる。
だがもう何もかもが遅かった。
返ってきたのはティオによる膝蹴り。膝が彼女の顔面にめり込み鼻が折れ曲がり口やそこから多量の血が漏れ出す。
「お前は所詮殺されるために生まれた命なんだよ!! そんなお前があいつらと一緒に居たい? 一人の女の子として扱って欲しい?
はっは!! 最高に面白いジョークだな!! つい手が出ちまったよ!!」
女性の命である髪を乱雑に掴み上げ、何本か抜けても奴はそんなこと気にしない。目の前にある命をまるで物のように扱う。
[必殺 リフレクトストライク]
あの巨体を持ってしても田所さんの技量を押し殺すことはできず、攻撃を躱され続けた果てに峰山さんは必殺技をその身で受けてしまい鎧を解除しながら地面を転がる。
「ゲホッ……!! すみません。勝てません……でした」
意識も朦朧としていてもう戦えないだろう。
この場に戦える者などもう居な……
「愛君を離してもらおうか」
いやここに居る。美咲さんはボロボロになりながらも立ち上がり、目の前の巨悪へと立ち向かう。
「はぁ……お前じゃオレには勝てねーよ」
「勝てる勝てないじゃない……戦って助けないといけないんだ……だろ? 生人君」
勝てるわけがない。もう負けて殺されることなど目に見えているというのに彼女はそれでも前へ駆け出す。巨悪を討ち取ろうとする。
だが彼女がティオの元に行く前に決着は着く。
「ガハッ……!!」
美咲さんの胸を光の弾が残酷にも貫く。
「自分が居ることを忘れちゃった? ちゃんと周り見ないと危ないよ?」
鎧が解除され、美咲さんのポッカリと開いた左胸が露わとなる。地面には撃ち抜かれた心臓と思われる部位が転がる。
「ぐっ……うぉぉぉぉ!!」
鼓動が止まろうとも、無謀だろうともそれでも彼女は止まらない。
「自分と親友の仇だ。死ね」
しかし容赦なく四発の弾丸が両手足に無慈悲に、正確に撃ち抜かれる。
美咲さんはもう歩くことすらできずその場に倒れる。
「美咲さんっ!!」
消えいくその命に手を伸ばしても届かず、代わりに田所さんの手が彼女の首根っこを掴む。
「お前は微生物に解体されて惨めに土に還るのがお似合いだ!!」
田所さんは美咲さんを木々の方に放り投げる。抵抗はできず彼女は見えない所まで飛ばされてしまう。
ボクの見えないところでまた一つ命が消える。大事な人が殺されてしまったのだった。